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コンプレックスシリーズ

シンデレラコンプレックス

この「シンデレラコンプレックス」を読んでくださった方のために「シンデレラシンドローム」を投稿したので、そちらも読んでいただけると嬉しいです!


シンデレラシンドローム↓

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 むかしむかし、あるところにそれはそれは美しい貴族の娘がいました。娘は心優しく、誰もが彼女を愛していました。娘はとても幸せでした。大好きだった母親が亡くなり、継母ままははとその継母ままははにそっくりな二人の娘達が来るまではーー。


 *


「お義母様かあさま、床みがきが終わりました…」


 父が仕事で家を留守にしてひと月と少し、娘は継母ままははに多くの仕事を押し付けられ、今では他の使用人と大差ありません。


「ふんっ、そうかい。なら次は皿を洗って、その後は燭台しょくだいをみがいておくれ。ピカピカにしないと承知しないからね!」

 継母ままははは娘に冷たくあたります。


「でも、お義母様かあさま。私まだお昼も食べていないんです…」

 娘はみすぼらしい服の裾をぎゅっと握りしめました。


「勝手にすればいいさ。働いてくれさえすれば文句はないよ」


 継母ままははの「あんたのことなんてどうでもいい」、といった様子に娘はとても悲しくなり、うつむいてしまいました。

 ―――はい。とだけつぶやいて、娘はその場をあとにします。



 ―――だから聞き取ることができなかったのです。「あんたが幸せになるにはそれが一番なんだからね」と小さくこぼした継母ままははの言葉を。




 *


 厨房にはコックが一人いて、娘の食事の準備をしていました。

 そこに、継母ままははの娘の一人、―――ここでは彼女をいちの娘の呼ぶことにしましょう―――が現れました。


「まぁ、なんてみすぼらしい食事。貴族の娘の食べるものではなくてよ!」

 いちの娘は扇で口元を隠しホホホ、と笑います。


 コックはこき使われている哀れな娘―――彼女をさんの娘と呼ぶことにします―――を思い、無礼を承知で言いました。


「誰のせいだとお思いですか…!おっしゃるとおり彼女は貴族であって、このような粗末な食事は彼女にふさわしくないっ!」


 さんの娘に用意された食事は使用人と同じ。パンがふた切れに干し肉が少し、それと少量のワインだけです。育ち盛りの娘の腹を満たすことはできないでしょう。


 コックは優しいさんの娘を実の娘のように大事に思っていましたので、その扱いが許せなかったのです。


 それを聞いたいちの娘は開いていた扇をパチンッと閉じ、言いました。


「あら!あなたは彼女を大事に思っているのね!」


 そしてあろうことか、いちの娘はふわりと笑いました。

 コックは自分の目が信じられませんでした。


「今日から義妹いもうとちゃんの食事はあなたにすべて任せます!義妹いもうとちゃんの好物だとかたくさんだすのよ!あ、私達―――継母ままははの娘のことです―――の食事より豪華だと承知しなくてよっ!!」


 急にフレンドリーになったいちの娘は最後に「冗談よ!」と笑い、嬉しそうに去っていきました。


 残されたコックはしばらく呆然としましたが、さんの娘の来る前にと、貴族の娘にふさわしい食事を大急ぎで作るのでした。



 コックは今まで、きつい物言いをするいちの娘を好きになれませんでしたが、笑うとつり上がった目元が優しくなるんだ、とその評価を改めるのでした。




 *


 さんの娘にとっての楽しみは、魔法使いと名乗る謎の文通相手との手紙のやりとりです。


 魔法使いの正体?それは本当に謎なのです。


 いつだったか、さんの娘が父が仕事で帰ってこない毎日を寂しく思っていると、いつのまにか彼女の部屋においてあった手紙。

 そこには彼女を励ます温かい言葉がぎっしりと書き連ねてあり、いくつかの白紙の便せんが添えられていました。


 さんの娘はいつもそれに今日あったこと、つらかったこと、嬉しかったこと、など様々なことを書きます。

 驚くことにそれを置いておくと、いつの間にかなくなり、魔法使いからの手紙の返事とすり替わっているのです。


 継母ままははには冷たくあたられ、義姉あねたちには目も合わせてもらえず無視される毎日。それが、手紙に書くといくらか悲しみが和らぎ、目に見えぬ魔法使いの優しさに心が暖かくなるのです。




 *


「あぁ、今日はなんて書いてあるのでしょうか…!」

 豪華に飾り付けられた部屋で一人つぶやくのはの娘。その手には一通の手紙。


「今日の手紙は分厚いわね。うふふ、食事の改善がそんなに嬉しかったのかしら?…それとも、彼女のみがくはずの燭台しょくだいをきれいにしておいたこと?…ううん、新しい便箋びんせんをおいておいたことを喜んでくれたのかしらっ!?あとは…」


 コンコンッ。ノックの音。


「入ってもいいかしら?」


「どちら様でしょうか?」

 の娘はわざとらしく問い返します。


「私よ。声でわかるでしょう?あなたの愛するお姉様よ」

 訪ねてきたのはいちの娘です。


「あら、私が愛するのは可愛い可愛い義妹いもうとだけですわよ?」

 と返しながらもの娘は素早く手紙を隠します。バレたら愛する義妹いもうととの文通相手という立場を取られるに違いないのです。

 義妹いもうとはいつも手紙の最後に「魔法使いさん大好き!」と書いてくれるのです。この立場を独り占めしたいのです。


「お母様はなんとおっしゃっていた?」

 の娘は問います。


「粗末な食事は花嫁修業に必要だと思ったのだけど…。他に支障が出るのならすぐにでもやめましょう!次は刺繍を教えるべきかしら!?……っておっしゃっていたわ」

 いちの娘は母になりきり答えます。


「その声ほんとにお母様に似てるわっ…ププッ…!次は彼女の仕事を減らしましょう!…それに動きやすいドレスを用意すべきね!あの服は雑巾ぞうきんにしてしまいましょう!!」

 の娘は笑いをこらえて言います。


「私もそれがいいと思うわ!あの服はだめよ!義妹いもうとちゃんの愛らしさが半減しちゃってるわっ!!」


「そうよね!没落したときのことを考えて今から仕事をさせる?馬鹿みたい!どれだけ過保護なら気が済むの?実の娘の私たちにももっと愛を向けてほしいわ〜!!」


 いちの娘は「可愛い義妹いもうとを持つって大変よねー」と嘆きますが、本人も義妹いもうとを母以上に愛しているので致し方ありません。自分は義妹いもうと可愛さに目を合わせることもできないのですから。本人の前以外は「義妹いもうとちゃん」と呼びデレデレだというのに。


「もうすぐ王子の結婚相手を決める舞踏会よ。義妹いもうとちゃんは行くことができるのかしら?」

「過保護すぎるのも考えものよね…」


 二人の思いは一つ。

「つまりは全部、義妹いもうとちゃんが可愛いすぎるのがいけないのです。」

「あと過保護すぎるお母様が悪いのです。」


「「愛する義妹いもうと(ちゃん)のため、頑張りましょうっ!!」」





 *


「あんたは留守番だよ!!」


 待ちに待った舞踏会の日。さんの娘はわくわくして眠れず、朝からウトウトしていました。それを心配に思った継母ままははさんの娘を部屋に鍵をかけ閉じ込めて舞踏会に行かせまいとしました。外出用のドレスや靴をみんな隠してしまったのです。他の娘のものを借りることができないように娘達の部屋まで鍵をかけるという徹底ぶりでした。



「あぁ、閉じ込められて鍵をかけられて、ドレスもなくて…。これでは舞踏会に行けないわっ…!」

 さんの娘は悲しくて、扉の前で座り込んでしまいました。昔から憧れていた舞踏会。舞踏会の知らせを聞いてから、ずっと楽しみにしていただけに、さんの娘のショックはそれはそれは大きいものでした。


「行きたかったなぁ。運命の相手にも会えたかもしれないのに…」

 彼女は流行はやりの恋愛小説に影響され、周りのつらい環境から救い出してくれる運命の人を求めていたのです。


 すると鍵のかかっていたはずの扉が開いて…。


―――そこに現れたのは魔法使い、ではなくコックでした。


「お嬢さん、私に任せてくださいな」

 舞踏会は諦めようと思っていたところに、コックから渡されたのは一通の手紙。


「魔法使いさんから…?」


 見慣れた便箋びんせん。宛名は私。手紙には、―――舞踏会に行くべきだ。目の前のやつは魔法使いの弟子だから従え。そうすれば舞踏会に行くことができる。―――といったことが簡潔に書いてありました。そして、それに同封された舞踏会への招待状。さんの娘の目に明るい光がさしました。


 コックは「魔法使いの弟子だったの!?」と驚く彼女に「本日限りですがね…」と苦笑し、手を差し出しました。


「さあ、私が責任を持ってあなたを舞踏会につれていきましょう!!」



 *


「協力してほしい?私に?」

 コックは驚きました。


「ええ、そう。あなたに手伝ってほしいの!」

 そういうのはの娘。


義妹いもうとを舞踏会に連れていくにはそれしかないわ。あのドレスを着た義妹いもうとを見れないのは嫌なんだもの!」


 継母ままははさんの娘のために用意したドレスは、それはそれは見事な青色での娘が今まで見た中で一番のドレスでした。

 それを着た可愛い義妹いもうとを見ることができないのは我慢ならないのです。


「それで、私にどうしろと?」

 不安げに見つめるコックに彼女が差し出したのは二つの鍵でした。


「一つは義妹いもうとの部屋の鍵。もう一つは私の部屋の鍵。これを使って義妹いもうとを部屋から救い出し、ヒーローになるのよ!私の部屋に青色のドレスとガラスの靴を用意してあるから!あ、わかってると思うけど、お母様とお姉様には内緒よ?」


 そう言うと、の娘はさん娘宛あての手紙と鍵を押し付けました。


 そして最後にこういったのです。

 ―――期待してるわよ。魔法使いのお弟子さん!


 継母ままははと二人の娘が馬車で城に向かっていくと、

 コックは「魔法使いの弟子?何だそれ?」とつぶやきながらもさんの娘の部屋へと足を向けるのでした。



 *


 青いドレスとガラスの靴はさんの娘にぴったりのサイズで、彼女に驚くほど似合っていました。


 コックは「魔法使いが下のお義姉様ねえさまだったなんて…」とブツブツ言っているさんの娘を急かし厩に連れていきました。


「馬には乗れますよね。『嵐を呼ぶお転婆娘てんばむすめ』とまで呼ばれたあなただ。腕はにぶっていませんか?」

 さんの娘はその言葉に頷いて、胸を張って言いました。


「私を誰だと思っているんですか?シンデレラですよ?」


「…懐かしい呼び名ですね。奥様が亡くなってから、旦那様もめっきりそう呼ばなくなった…」

 コックは昔を思い出して目を細めました。「シンデレラ」は『灰かぶり』という意味で、当時はお転婆でいつも泥やら灰やらで汚れていた彼女を周りが親しみをこめてそう呼んでいたのです。


「シンデレラ!舞踏会があなたを待っています!!」

 コックはそう言って彼女を馬に乗せました。


「お義母様かあさまたちが帰ってくるまでには戻ってきます!」

 元気よく言うシンデレラ。舞踏会に行ったことがバレないようにするための偽装工作ぎそうこうさくのできるギリギリのラインは…。

 コックは考えます。


「十二時までには戻ってきてくださいね!」

「約束するわ!」

 シンデレラは馬に乗って嵐のように駆けていきました。




 *


 数々の令嬢たちの中で王子の目に止まったのは、頬を赤く染め、髪が少し乱れた令嬢でした。皆がきれいに着飾った中、彼女だけは違って見えたのです。


「彼女はどこの令嬢だ?」

 王子の側近は招待者のリストを必死でめくりますが見つけることができません。


「なにしろ全国の令嬢を招待したもので…」

 側近は冷や汗を流します。

 王子はそれに構わず歩き出しました。



 *


「そこの美しいお嬢さん!私と踊っていただけませんか?」


 突然の言葉にシンデレラは驚きます。


「下のお義姉様ねえさまにお礼を言いたい!」との娘をキョロキョロと探していたところに話しかけられ、しかもその相手はこの国の王子なのですから。


「え?王子様!?……私なんかでよろしかったのですか!?」


 慌てるシンデレラに王子は優しく微笑みで応えます。


 シンデレラは美しいだけではなく、ダンスがとても上手でした。

王子は一時もシンデレラの手を離さず、二人はとてもお似合いでした。


 皆は「あの令嬢には勝てない」と王子を諦め、二人を祝福しました。ここで面白くないのは継母ままははたちです。

 …実はシンデレラが城に来た瞬間からずっと見守っていたのです。彼女たちが可愛い可愛いシンデレラに気づかないわけがありません。


「「なぜここに彼女がいるのよ?(いまさら)」」

「やっぱあのドレス似合うわね−!(親バカ)」

「私が選んだガラスの靴も彼女に似合ってるわ!(姉バカ)」

「世界で一番かわいいわ!(姉バカ)」


「あの王子、私たちの義妹いもうとちゃんを独り占めして!なんてうらやましい!!」

「許せない!しっとしちゃうわ!!」

「ほんとよね!あんなに可愛い義妹いもうとと見つめ合って…!にくらしいったらありゃしない!!」


 ここに来るのを手助けしたの娘までもが王子を恨みがましく見つめています。



 楽しい時間が過ぎるのはあっという間です。シンデレラが気づいたときには十二時まであと五分。


「いけない!もうこんな時間!王子様、楽しい時間をありがとう!!もう帰らなくちゃ……!」

 シンデレラは早口であいさつを済ませ、丁寧にお辞儀をすると走り出します。


「待って!君の名前は!?」

 とっさにそう言った王子に「シンデレラよ!おやすみなさい!」と立ち止まることなく返します。


「急がなくちゃ!十二時までには帰るって約束したのに!!」


 シンデレラは慌てて階段を降りますが、そのひょうしにガラスの靴が片方脱げてしまいます。振り返ると王子が追ってきます。もう約束の十二時なので引き留められると困ります。なので魔法使いにもらった大事に靴ですが、諦めて置いていくしかありません。

 シンデレラは近くで待たせていた馬にまたがると、風のように去っていきました。


 王子は靴を拾い誓いました。


「シンデレラ、必ず君を見つけてみせる…!!」




 *


『私はこのガラスの靴の持ち主と結婚します』


 王子がそんなお触れを出したのは舞踏会から三日後。

 継母ままははと二人の義姉あねたちは舞踏会から帰ってくるなり部屋に閉じこもり、それぞれの部屋から出てきません。食事はシンデレラが部屋に運んでいますが…。どうしたのでしょう。


「下のお義姉様ねえさまにはお礼も言えてないし、他の二人はまだ怖いけどちゃんと話したいし…」

 シンデレラはの娘に助けられたことがきっかけで、みんなと仲良くしたいと考えていました。



 *


「急ぐんだよ!!」

 継母ままははは部屋から出てくると同時にそう言って、驚いているシンデレラを再び部屋に閉じ込めてしまいました。


「お母様!わたくし義妹いもうとちゃんを王子様なんかに渡したくないですわ!」

 いちの娘もバタバタと部屋から出てきます。


 続いて部屋を出てきたのはニ《に》の娘。

義妹いもうとへの愛なら王子様にだって負けませんわ!」


 皆が考えるのは可愛いシンデレラに求婚しに来る王子をどうやって追い返すかということ。それぞれの部屋に閉じこもった三人は三日三晩、その作戦を考えていたのです。


 三人はお互いに案を出し合い、王子に三つの試練を出すことにしました。



 一つ目は、「この家にはあなたのお探しの娘はおりません。」と追い返すこと。これは継母ままははの策です。


 今日はお触れが出されてからちょうど一ヶ月。とうとう王子が家に訪ねて来るのです。継母ままははは二人の娘とともに着飾って出迎えました。


「「「ようこそいらっしゃいました。王子様」」」



「シンデレラ?誰です、それは?」

 継母ままははは「シンデレラはここにいるはずだ!」とはりきる王子に告げます。


 その言葉はあらかじめ考えておいたものですが、事実『シンデレラ』という名前は知りませんでしたので、あっさりと口にできました。


 彼女は王子の言うシンデレラがそれが自分の義理の娘を指すのだと薄々理解していましたが、その後も予定通りにシラを切り続けました(知らないふりの意)。


「いや、彼女はここにいるはずだ…!」

 それでも王子は諦めません。


 なんと、王子は家来にすべての家の令嬢を確認させたというのです。王子本人が訪ねてくるぐらいですから、ここにシンデレラがいると確信しているのでしょう。


 ですが、継母ままははは負けるつもりはありません。


「私の娘はこの二人だけですが」

 なるべく嘘に聞こえないように気をつけて、堂々と言います。


 すると、王子はニヤリと笑い、継母ままははの手を指差しました。

「ほう…。ではなぜ指輪を三つしているのだ?」


 継母ままはははとっさに右手を隠します。


 そして、自らの手を見て、負けを悟りました。


 この国では、母親なるものは娘の数だけの指輪を右手にはめています。それは娘への愛を表していて、嫁入りと同時にお守りとして送る風習があるのです。それは古い言い伝えで、今はもう知るものは多くありません。


 継母ままはははそれを知っていたので、右手に三つの指輪を、そしてそれを守るため、いつも手袋をしています。

その指輪の意味を知っていれば(もちろん手袋をはずした手を見る必要がありますが)シンデレラは継母ままははの自分への愛に気づくことができたかもしれません。


 つまり、王子は手袋をしている継母ままははかまをかけ、見事三人目の娘の存在を知ることができたのです。


 賢い王子に継母ままははは感心しました。


 二つ目は、仏ほとけの御石みいしの鉢はち、蓬莱ほうらいたまえだ火鼠ひねずみかわごろもりゅうくびの五色のたま、南海のつばめ子安貝こやすがいのすべてを持ってくること。


「王子様なのですからそれくらいできるでしょう?」

 挑戦的な物言いのいちの娘。


「東の国の言い伝えを参考にしているのですね。…確かにシンデレラは月から来たと言われても納得できるほどに美しい」


 王子は「念のため持ってきてよかった」とこともなげにそれらの宝を差し出します。


 いちの娘は負けを認めます。それらの宝を持っていること(また、持ち歩いていること)自体に驚きですが、準備がよく、そんな宝を惜しみなく差し出すその姿を見れば、義妹いもうとの結婚相手に相応しいのではないかと思えました。


 三つ目の試練は王子の愛を試す問題です。

 二つの試練は破られましたが、ニ《に》の娘は諦めません。


「彼女の好きな食べ物は?」


 答えはすぐに帰ってきます。


「カボチャのパイ!」

 王子はシンデレラのプロフィールをダンスの途中に調査済みです。


「彼女の怖いものは?」


「毒リンゴ!」


「彼女愛馬の名前は?」


「パトラッシュ!」


「彼女のお気に入りの話は?」


「赤ずきん!」


 数々の質問にためらいなく答える王子。


 の娘は最後の質問をします。


「…彼女の一番のチャームポイントは?」


「それはもちろんあの笑顔!!」


「…合格よ」


 ニ《に》の娘は泣く泣く王子を認めることにしました。

 これから先、彼以上にシンデレラをわかってくれる人は現れないだろうと思ったのです。


 無事三人から認められた王子はシンデレラの部屋へ向かい、扉を開けます。



「…シンデレラ!どうか私と結婚してください…!」


 王子の持つガラスの靴はシンデレラの足にぴったりでした。





 *


 結婚式当日。仕事で忙しい父もこの日ばかりは休みを取ります。


「お父様!久しぶりね!」

「あぁ、私の愛しい娘。王子様にシンデレラと名乗ったんだってね?…気に入っていたのかい?その呼び名」

 父と娘は抱きあって笑い合います。


「ええ!お母様は私をそう呼んでいつも頭をなでてくれました!ですから、そう呼ばれれば、お母様をいつでも思い出すことができます!!」

 シンデレラは笑顔で返します。


「…大丈夫なのかい?」

 父は『シンデレラ』と呼ぶことで、愛娘が悲しくなるのではないかと気を使っていたのですが、シンデレラは「なんのことですか?」と笑顔を向けます。


 継母ままははとの誤解も解け、愛されていることを実感したシンデレラは、母が亡くなった悲しみをとっくに乗り越えていました。


「…幸せならいいさ。」

 父は娘の幸せを嬉しく思いました。


「王家なら没落しないでしょうし…!安心ね…!」


 継母ままははの言葉に二人の娘はそろえて声をあげます。


「「どれだけ過保護なら気が済むのよ!!!」」


 それからシンデレラは素敵な王子様と結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


読んでくださってありがとうございます。

初投稿のため、拙い部分も多くあったと思います。

表現方法に違和感、誤字脱字等気になる部分がございましたら、指摘していただけると助かります。

感想もしていただけると嬉しいです。お願いします。


追伸:ちなみに「シンデレラコンプレックス」はほんとにあります!面白い名前だなーと思ってこの話を思いつきました!


本作では「シンデレラコンプレックス」は結婚相手などに理想を追い求める……なぜかシンデレラ本人ではなく継母ままははたちが……という解釈をしていただけるとわかりやすいと思います!


※3月8日一部修正いたしました!分かりにくい部分とかあったらぜひ聞いてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔話の設定を一つ変えただけで、あら不思議? よく知ってる物語が一気に興味深いライトノベルに早変わり! 継母と姉の設定いじりに、よく気づきました! すごいのひとこと! あとはうまく脇役(コッ…
2018/11/28 19:53 退会済み
管理
[良い点] ぶははははははは! コンプレックスってそっち!? これは面白かったです!! みんな「いい人」なので読後感も良く、すっきりしました。 いろいろな昔話ネタが入ってるのもニヤリとしましたね。 …
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