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決断

 (ひるがえ)って戦場の後方を見渡すと、アンデッドの襲来も途絶えてシーンと静まり返っていた。フレッド達の無事も確認できる。乙女座りをしてしていたダフネは、その場所に寝そべり精根を使い果たす。


 フレッドは右手から爆炎を繰り出し、フレッシュイーターを丸焼きにして埋葬していた。(とど)めの一撃は火炎弾とディレイド・フレアを組み合わせた必勝コンボだ。


「フレッシュイーター……、討ち取ったどぉーー!!」

 不死物危険度Bランクの強さにも適応してきた頃合いなのだろうか――、リーダーのフレッドも灰賀に負けじと雄叫(おたけ)びを上げ、戦果をたたき出す。


 いよいよ大詰めと言わんばかりに、灰賀の2度目のグランド・プレッシャーが白づくめの兵隊を痛快に巻き込み、敵は1体も残らずに全て吹き飛ぶ。そのアクティブ・スキルが決まった瞬間に、レクチェはしたり顔でノリスに対し冷笑を浮かべる。


「パペット・マスターとやら……これが年貢の(おさ)め時というやつだな?」


「……………………907人だ…………」


 ノリスは軍用車両から降り、野獣のように獰猛どうもうな顔で灰賀とレクチェを見下ろす。

「お前らが蹴散らした数は907。総員1012人のうち、別動隊の100人近くは迂回うかいしてエリュトロスを攻め込んだってわけだ……。つまり今頃は…………」


 狐につままれたような顔立ちで、灰賀はレクチェの方に視線を向ける。

「今、奴が言ったことは本当なのか!? ……だったら……」


 レクチェの表情がしだいに曇りだす――――。実はナビゲーターの先輩にあたるアップルと後輩のレクチェでは、その性能に差があった。そして、レクチェ自身が懸念けねんしていたのが、情報戦のかなめともいえるレーダー範囲の広さである。


 とどのつまりは、アップルの索敵能力の半分以下しか、レクチェは持ち合わせていないのだ。


「……コイツ達が攻め込んできて28分経過か……、すまない灰賀。貴様の住んでいる町を私は守れぬかもしれん…………」


 レクチェが町を気にして後ろを振り返ると、フレッドも少しずつ近づき、灰賀に合流する。そして、ノリスと対峙するフレッドは険しい顔をして抗言をする。


「テメェを……今ここで倒せば、その死体人形達も止まるんだろ?」

 フレッドの怒りのボルテージは最高潮に達していた。

「フレッド君……自分もまだ戦えるぞ……!」

「無理だな……、ヒャッハッハハ。()()お前らじゃ俺様は絶対に倒せない。もう立っているのも限界なんだろ?」

 劣勢にもかかわらずに、相変わらずノリスはフレッド達を煽っていく。


 そこに追い打ちをかけるように灰賀の足もガクガクと震え、直立の体勢を維持できずに膝をついてしまう。あれだけの活躍をしたからには、やはり体への負担が大きかったのだと予想されるが、レクチェの口から別の理由が述べられる。


「灰賀……、貴様は本来ならまだ24時間待機の真っ最中だったのだ。6時間ほど復活の時間を短縮した副作用ツケが…………今になって回ってしまった」

「くぅ……、よりにもよってこんな時に……!!」

 ダフネに続いて灰賀までも戦闘続行が不可能になってしまう。


 雲行きが怪しい展開になり、さらにノリスからの陰鬱(いんうつ)な発言でフレッド達を否応(いやおう)なしに圧迫する。


「ベリアルアーミーには〈壁抜け〉だけじゃなくてもう一つ特殊能力がある。ヤツラに噛まれたプレイヤーはな……、その辺に居る『ゾンビ』と一緒になっちまうんだよ。俺が何を言いたいのか分かるよな、フレッド・バーンズ?」

 

 パペット・マスターの言葉を要約すると、殺傷行為のできない防壁内において人間をゾンビ化することで、強制的に町から消滅させることができるというのだ。もし先ほどの戦闘で、灰賀が噛まれていた場合を考えると身の毛もよだつ事だろう。


「まぁ、どうしてもっていうなら今回だけは見逃してやってもいいぜ?」


「何言ってやがる……、バカも休み休み言えよ!?」

 保安官としてのプライドで、なんとか強気の姿勢をみせるフレッド。


「ここで自害しろ。そしたら今すぐ、オートマトンを撤退させてやる」


 そこに提案されたノリスの要求は、悪魔的な二者択一の質問だった。防壁内では、フレッドの能力がいちじるしく下げられるため、Cランクのベリアルアーミー100体を撃退することは、まず無理だと考えるべきだろう。


 だがしかし、この白装束の兵隊も境界を素通りはできるが、ヴェルナの巨人同様に活動時間5分のみというデメリットがあったのだ。元々ノリスの作戦はヴェルナを囮に使いフレッド達をおびき寄せ、防壁外で一網打尽にするのが目的なのである。


 それはフレッドの知るよしもないオートマトンの弱点。ノリスが〈防壁壊し〉の解明をしたがっていた訳にも説明がつく。


「フレッド・バーンズ……、パペット・マスターのレベルは32。貴様だけでも倒せない相手ではないが……、時間的に猶予が無い…………!」

 

 このレクチェのアドバイスも適確ではない。なぜならば、ノリスの放った別動隊はいまだだエリュトロスの周辺で待機しているからだ。それは蜘蛛の糸がまとわりつくように、パペット・マスターの術中に、全員かかってしまっている。

 

「ここで俺がこの首をっ切れば、お前らが引き下がるんだな……?」


 フレッドは得意技のバーニング・ソードの時と同じく、右手で手刀の構えをして、その手を自分の首筋にえる。この場を立ち込める薄霧のような、まやかしにも似た非道徳的な行いを一人の男は決断しようとしていた。


「ヒャハッハッハ……そうだ、ヤレ! 安っぽい正義感にさいなまれて死ね!!」


「…………俺が中学生の時代に、同じクラスの女の子がチンピラにレイプされそうになった時、弱くてギークだった俺はビビッて止めに入れなかったんだ…………」

 急に懺悔ざんげのように過去を振り返るフレッド。


「この世から泡みたいに消えてしまいたい気分だったぜ。その事件がきっかけで、もう二度と俺は尻込みしちゃいけないんだ……って自分に言い聞かせたのさ――……」


「そうかい、そうかい。 なら早くおっんじまいな弱虫フレッド君!」

 ノリスは無情にも自殺思考に導くためにフレッドを追いまくる。


「そのチンピラ共もちょうど……、お前みたいな顔のクソッタレだったぜ」


――――――――木々の枝から若葉が落ち、銃声が鳴り響く。


「ぐおッ!? ……チィ!!」

 ノリスの右肩を一発の銃撃がヒットする。面食らった彼が視認したスナイパーは、エリュトロスの町でひと悶着もんちゃくを起こしていたルイーズであった。


「ヘヘッ……! ちゃんと戻ってくるって信じてたぜ相棒!」


そして――、ルイーズの横にはピンク髪に赤い痴女衣装の『美少女ナビゲーター』ことアップルが10時間ぶりに復帰し、その愛らしい姿を再び現す。


「ワシが来たからには、もう安心じゃぞ! フレッド!!」


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