表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

追撃の巨人

 挿絵(By みてみん)



 小太りの青年が背を丸めた後ろ姿で、ラーメンを食べ終え店を出た。


「店主……、今の客って……戦車の砲身に(くく)り付けられてた人ですよね?」


「そういえば……彼がこの町に来たのは、つい最近みたいですねぇ……。さっき、お役所の人に住民登録を頼まれてましたから」


 周防の返答を受けたフレッドに電流が走り、脳天まで流れ込んでいく。

「今の客は……、まさかッ!?」


 目の色を変えたフレッドは途中で食事をなげだし、一目散に店を飛び出す。


「フレディー! ……急にどうしたのさッ!?」

「フレッドさん、わたくしもお供しますわッ!」

 ダフネも長い髪をかき上げて、フレッドの後ろに走ってついていく。店に残されたトラヴィスとルイーズは顔を見合わせ、しばし茫然(ぼうぜん)とした(のち)、二人で退席する。



 その男のわき腹は寸胴に(ふく)らんでおり、青紫のパーカーを着て、(すそ)が擦り切れて白い糸がほつれているジーパンを履いていた。


「さっきのお客に……スパイ疑惑があるということですかッ?」


「民間人を人質にとり、解放させたと見せ掛けて、実は救出された中に『内通者』を潜り込ませる。……テロリストがよくやる手口さ!」

 保安官として(やしな)われた直感が、磐石(ばんじゃく)の自信を持って揺るがない。


「あいつッ! あの黒い車に乗り込んだぞ!?」

 小太りの青年は、オフロード用にカスタマイズされた屈強なBMWに搭乗した。

「このままでは逃げられてしまいますわッ!」


 フレッドは正面に置いてあった、赤いバイクに勢いよくまたがる。

「よしッ、鍵が付いている。ダフネちゃんも早く後ろに!」


 ダフネはフレッドの背中に胸を密着させて、両腕をまわしダンデムする。そして、彼女から漂う薔薇(ばら)のめくるめく(あわ)い香りが、フレッドをその色気に誘い込む。

(……おほーっ、おっぱいの感触が伝わってくるー!!)


 煩悩とのせめぎ合いを理性で抑え、フレッドはそのバイクで内通者を追う。


 町の中を漂う霧はとても薄いが、遠くを見渡すとなると障害になってくる。

「しっかり(つか)まってろよッ、ダフネちゃん!!」

 カーブに差し掛かったところで、思いっきりハンドルを切るフレッド。すると、リアタイヤが激しく摩擦(まさつ)され、円を描くように車体がスライドし曲がった。


「キャアーッ! あっ…………運転お上手なんですね……」

 旋回したバイクは滑りながらもスピードを殺さずに、目標の車を追い詰める。


「……どうやって車を止めるのですかッ!?」

「ヘッヘヘ……要は防壁内じゃ致命傷を与える武器が使えないってことでしょ?」


 なんと、フレッドは胸元のポケットから取り出した『閃光手榴弾』を追跡中の車の真ん前に投げつけた。これは、ルイーズが昼間のライノストーカー戦で使用した特別製のフラッシュ・バンと同一のモノだ。


「ダフネちゃん目を閉じて!!」


――――強烈な光りが逃走する相手の視野を真っ白に(さえぎ)り、その目をくらまし眼界を奪う。そして、撹乱(かくらん)された内通者とBMWは道路からはみ出し木に衝突した。


「こんな小型の閃光弾なんて、ゲームならではのご都合主義だよな~」


「セーフティエリア内で網膜(もうまく)を狙うなんて、まさに盲点でしたわ……」

 バイクを降りたダフネは目から鱗が落ちる思いをする。


「車はお釈迦になっても、運転手は無事のはずだぜ? ……出て来いよ内通者!」

 ひょっこり顔を出した小太りの青年は、衣服が破れていたが外傷はなさそうだ。


「お前は〈パペット・マスター〉の命令で、スパイしていたんだな?」


(もしかすると、アップルさんが不在だと敵にバレているかもしれませんね……)

 フレッドとダフネは左右から二手に分かれて、内通者に少しずつにじり寄る。


「あんたら……このままだと町が壊滅するって理解できねぇのか……?」

 逃走する意思を失っている様子の内通者が、ぎこちない口調でしゃべり出す。


「壊滅……? 防壁を消してアンデッドをけしかけるって事を言ってるのか?」

 フレッドはホルスターからハンドガンを取り出し、敢えてその小太りの青年に銃を構える。相手に威圧感を与えるだけでも十分との判断なのだろう。


「……いいことを教えてやる。町の防壁を壊しまわったNPCはな、偶然の産物で作られたイレギュラーなんだよ。パペット・マスターの制御下じゃなかったのさ」 

「じゃあ……ネクロ・キメラの正体は突然変異した非プレイヤーなのか!?」

 内心ほっとするフレッドであったが、厳重に内通者を問い詰める。


「パペット・マスターはどうやって、そんな能力を得る事が出来たんだ?」


「……噂だと『管理者』をひとり拉致しているらしい。俺も……無理やりこんな事をさせられているんだ……逆らったりしたら、死ぬより恐ろしい目に合わされる」


 その男の全身からは汗が吹き出し、恐怖心のあまり固く眼を閉じていた。


「管理者……まさか『ゲームマスター』を捕縛しているという事ですかッ!?」

「そりゃねぇわ……、マジで反則じゃねーか……!」


 フレッドとダフネは濁流(だくりゅう)に飲み込まれたような焦燥感(しょうそうかん)にかられた。身近にいる『ナビゲーター』のせいで、その存在がどれ程万能かを実感しているからである。


「……アップルが確かめに戻ったのは、このことだったのか……」


――――その瞬間、黒いムチがその小太りの男に巻き付いた。同時にその男の肉体が(きし)み、(むち)を放った白いコートを着た女性の方へ引きづられていく。


「おしゃべりが過ぎるわよ……、この駄犬がッ」


 その黒髪の長い女性はパペット・マスターの(かたわ)らに居た『ヴェルナ』だった。

「なッ!? この女もスパイだっていうのか……?」

「フレッドさん!! みッ……、右をご覧くださいッ…………!」


 さらに大きな地鳴りと共に、鞭を打ったヴェルナの背後から9メートルある巨人が現れた。その風体は手先の爪が伸び、裸足ではあったが人間そのものであった。


「馬鹿なッ…………!? ここはまだ防壁の内側なんだぞ?!?」

 バリアが顕在(けんざい)している中で、まさかの化け物の襲来による切迫(せっぱく)した状況。


「フフッ、こいつは図体こそ規格外だが、れっきとした人間ベースのNPCだよ」


 ヴェルナが唐突に、怯えている小太りの青年を左指で示す。すると、彼女の後ろで待ち構えていた巨人が、内通者の身体を右手で鷲掴(わしづか)み、自分の口元まで運ぶ。

「うわぁアアァーーー…………!!!」


 なんと間者であるはずのその男は、その巨人によって丸呑みにされてしまった。


「こいつは新作のオートマトン12号さ。特技は『大食い』……驚いたかい?」

 ヴェルナはその巨人の左の掌の上に乗り、仰天(ぎょうてん)しているフレッド達を見下ろす。


「まずいッ、ダフネちゃん! 早くバイクに乗るんだ!!」

 危険を察知したフレッドは赤いバイクで、その場からの逃走を図る。


「殺さずに済むなら、いくらでも抜け道があるって事さね! 覚悟しなッ!!」


 ここからバリアが張ってある境界線まで約850メートル。追うものと追われるもの――、バイクと巨人による前代未聞のチェイスが始まったのである。


「ド畜生ーッ! 防壁内じゃあんな化け物に勝てる訳ないじゃねぇーか!!」


 窮地(きゅうち)(おちい)るものの、ダフネは冷静に(ふところ)から丸い眼鏡を取り出す。

「やはり〈寄宿者〉、レベルは31で……名前はヴェルナ・ロウズ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ