2話 名前は
「え? 名前がないってどういう事ですか?」
「そのまんまの意味だ」
俺には名前というものがない。
そもそも親や家族という者がいなく物心がついた頃から軍で訓練を受けていた。
呼び名という意味であればコードネームがあったが。
「……なんか複雑な事情がありそうですね、思い出させてしまってすみません」
モルセラは浮かない顔をして言った。
「じゃあモルセラが俺に名前をつけてくれないか?」
「ええっ!? 出会って半日ほどしか経ってない私がそんな大役任されていいんですか?」
「あぁ」
外に出てから付き合いが一番長いのはモルセラだ。
軍の奴らは俺を道具としか見てなかっただろうし名前すらもう覚えてない。
外に出てからの6日間は誰とも会話してないしな。
「『クラブ』というのはどうでしょうか?」
「あぁ、これからはそう読んでくれ」
「意味はですね………って、ええ!? 自分の名前すら興味がないんですか?」
名前に意味なんて必要か?俺にはわからん感情だな。
だがモルセラがどんな意味を込めたのかは少し気にな……。
草むらの奥に人の気配がした。
「出てこい、殺すぞ」
クラブが出した一瞬の殺気は小さな少女を動けなくするには十分すぎた。
『いやいや、ちょちょちょちょちょっとまま待ってくれ』
奥の草むらからひょろっとしか男が出てきた。
「……何のようだ」
クラブが聞くと男は少し考える素振りを見せて答えた。
「いやはや、全く恐ろしい人だな『Vanish』という男は。
上層部はこいつをどうし……」
ダンッッッ
ひょろっとした男はクラブに地面に叩きつけられた。
そして、喉元に剣を向けられ。
「どこの差し金だ、吐いて死ぬか吐かずに死ぬか」
「まぁ落ち着けって、そこの嬢ちゃんだってビヒって漏らしちまってんじゃねえか
ちょっとでいいんだ、話を聞いてくれ。 そのあとは煮るなり焼くなり好きにしろ」
振り向くとそこには腰を抜かしたモルセラが地面を濡らし怯えた顔でこちらを見ていた。
「しらん、吐く気がないなら殺す」
一瞬戸惑いを見せたクラブだがすぐ切り替え再び剣を向ける。
「だから落ち着けって、作者が困るだろ?」
作者?こいつはなんの話をしてるんだ? いや、聞く耳を持つのはよくないか。
「待って!!! 殺しちゃダメだよクラブさん!!」
モルセラの怯えながらも精一杯止めに入る姿を見て少し冷静になれた。
「ふぅ、助かったぜ嬢ちゃん。 危うく物語が始まる前に終わるとこだったよ」
「え? どういう事?」
男はやれやれという顔をしたあとに続けて言った。
「嬢ちゃん、替えの服があるからそこの川で洗って着替えてきな。 殺気のせいでモンスターはいないだろうが暗いし気をつけろよ」
「あ、ありがとうございます」
「……幼児服ってお前、変態か?」
「邪魔はいなくなったしとりあえず自己紹介だ、俺は革命軍 支援班 ディッキーだ。仲間にはディックと呼ばれてるが絶対に呼ぶな、フリじゃないぞ あと馬鹿でもないからな」
「……勧誘か?」
「まぁ……早い話はそうだが」
革命軍は世界中で行動を起こしている戦争反対組織だ。 あらゆる街や村、都市などで戦争反対を訴えている。
戦争反対を訴えているだけあって武力は使わず演説や貧困層の支援などをして地道に支持者を増やしている。
そして何より仲間を大切にする。
仲間が捕まったり危害を加えられたりすると『武力には武力を』と未知の技術や力を使って報復してくる、世界中の国が手を焼いている巨大組織だ。
「目的は俺の力か?」
「いや、保険だ。 お前が何かしないか俺が監視をするだけだ、仲間になってくれるってんならそれが一番いいけどな。」
「ふざけるな、何故そんなことを了承しなければならない? 今すぐここで殺してやろうか」
「……それは野暮だってお前さんだって分かってんだろ?」
くっ、たしかに国家並みの力を持つ組織と敵対して生きていくのは正直めんどくさい。
「それに見返りはしっかりするつもりだ、宿代や食事代、旅の金は全てこちらが負担しよう。 少しうるさい財布だと思ってくれて構わない、なんならこき使ってくれても」
金は沢山必要だとモルセラに聞いたな、悪い話ではないか。 だがずっと監視されるのはこちらとしては不都合だ、旅の邪魔に……ん?
「おい、どうして俺が旅をすると知っているんだ?」
「おっと、失言だった。 まぁこっちにはお前に詳しい奴がいるんだよ」
まさか、あいつか?
「もう夜も遅い、少し考える時間をくれ」
「分かった、また明日尋ねるとしよう。 答えはもう出てるようなものだけどな。 金を渡すからこれで宿でも探してくれ、なぁに、俺のポケットマネーだから気にしなくても平気だぞ☆」
ウィンクを飛ばしけらけらと笑いながらディッキーは暗い森の奥に消えていった。
「とりあえず、モルセラを探しに川に行くか」
川に行くと火が焚いてありその近くにモルセラが座っていた。
「すまないなモルセラ、さっきはその……止めてくれてありがとうな」
「……………」
「モルセラ?大丈夫か?」
「え? あ、ごめんなさい。 少し考え事をしてて」
やはり怯えているか……まぁ仕方の無いことか。
「とりあえず街に帰ろうもう夜も遅いしな」
「……はい」
街につくとモルセラにディッキーから貰ったお金を渡し、宿を探したり色々とやってくれた。
そのあとはモルセラとうまく話せず部屋も別々なのでそのまま床についた。
「今日は色々ありすぎたな、久しぶりのまともな寝床だな意外と基地の生活って贅沢だったんだな……自分で色々できるようにならないと出てきた意味が無い……」
「一日も早く………」
やたらと「…」を多く使ってしまっている気がします
考えていることを文にするのって大変ですね、展開が早い気がして書くのが難しいです。