幕間:後世のお話
ちょっと脱線。
ーーー制裁が始まった。かの神の力は絶大で、私達人間は太刀打ちすら叶わなかった。抵抗を止めると、かの神は天から降り立ち、王城へと入って行った。
霊獣と恋愛を司るという女神アメティスタは美しかった。火の粉を散らしたかのような長い金色の髪、紫水晶の瞳は魅惑的な狂気を孕み、手足は雪の様に白く細い。その全てが合わさった姿はまるで至高の芸術品の様で、あまりの美しさに誰もが息を飲んだ。身の丈をゆうに超える、捻れた意匠の紫銀の槍を携えて、かの神は悠然と我々の前を素通りして行く。誰もがその場から動かず、かの神が通り過ぎるのを呆然として目に焼き付けた。
《創世紀》第三章第四節 霊獣虐殺事変
とある兵士の証言より
ーーー我々は間違えたのだ。我が君はそう仰った。私は愚かにも、その言葉の意味が分からなかった。
霊獣の集団が唸り声をあげて王城へと向かって来ていた。知らせを受けた我々はそれらを迎え撃つため兵を集め、王都の前に魔術防壁を構えた。霊獣達は防壁に攻撃するがびくともしない。私は単純にも勝利を確信し、霊獣達を狩るよう部下達に命じた。
しかし、大陸一の魔術防壁はいとも容易く破られる事になった。天からの雷によって。紫色の雷光は明らかに魔力とは違う力、神々の持つ清浄な力を帯びていた。紫電は防壁と共に兵士達を焼き、武器を焼き、木々を焼き、地面を割った。私は霊獣達の身体に一切の怪我が無いのを見て、漸く悟ったのだ。かれらの守護神が遂に神罰を与えに来たのだと。
霊獣達は攻撃を止めて後ずさり、頭を下げた。紫電と共に舞い降りる黎明な女神に向かって。
《創世紀》第三章第四節 霊獣虐殺事変
とある将軍から隣国への手紙より
ーーー余はかの神を侮っていた。人から成った程度の現人神に大した力は無いだろうと、確かに見下していたのだ。それがどんなに驕った考えであるかも気付かずに。
嗚呼、何とおぞましい事をしてしまったのだ。余は。女神の怒りは凄まじく、制裁に情け容赦は皆無。最早それは制裁というには生温い。……復讐だ。かの神は我が国に、復讐をしに来たのだ。この国は滅ぶであろう。余の傲慢と浅慮のために、この国は滅ぶのだ。嗚呼、何と、何と恐ろしい事か!
家令が余を呼ぶ声がする。かの神が余を連れて来いと言っているのだと、叫んでいる。
余は、死ぬのか。
あの美しく、冷酷な女神の雷で、死ーーー(解読不能。何かを書きなぐった痕跡が見られる)
《創世紀》第三章第四節 霊獣虐殺事変
王の最期の手記より
* * *
白に近い金髪に、不思議な紫の瞳を持つ少女は書物から顔を上げた。
図書館の窓からは夕日が射し込んで、彼女の瞳をオレンジ色に染めている。
「どうした?」
そこへ兄と思しき青年やって来て、声をかけた。
「ううん。何でもない」
少女は本棚に読んでいた書物達をしまって、青年の後を追って図書館を出て行く。
「ただちょっと、ご先祖様について調べてただけなの」
ああ、と納得した様に青年が頷く。
「やっぱり気になるか。アメティスタ様の事」
「当然じゃない。だって私と同じだったんだもの」
ぷうっと頬を膨らませる少女を、青年が宥めた。
「兄様」
「どうかしたか」
「アメティスタ様は、どっちだったんだろうね」
「……?」
「『特別な』魔力持ちの方か、私みたいに『役立たず』な魔力ナシの方か」
ため息を吐いて、青年が少女の頭を撫でた。
「自分をそう卑下するな」
納得いかないといった顔をしながらも、少女は頷いた。そのまま二人の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは青年だった。
「……ご自身も気付いてなかっただろうな」
「え?」
「オレ達のご先祖様は酷い事に、生まれて間もないアメティスタ様を、乳母ひとりつけて地下牢へ閉じ込めたそうだ。その乳母も、3歳になる頃には牢から出て行ったらしい。……そこから殺されるまで、魔法も牢以外の世界も知らないまま、かの半魂はずっと二人きりだった。知る機会があったとは思えない」
少女は廊下から外を見た。沈みかけの夕日が辺りを朱色で満たす、美しい光景が広がっている。
「今とは大違いね。……どうして双子なのに、名前がひとつしかないの?」
「双子として生まれて来ると思って無かったんだろうな。当時は、出産前に性別や双子かどうかを見分けるのは不可能だった。だから名前もひとつしか用意して無かったんだろ。嫌な話だが、殺す予定の子供のために、わざわざもうひとつ名前を考える必要があるとは思えない」
少女が立ち止まって眉を潜めた。
「ほんとに、嫌な話」
そんな少女の手を繋いで、青年はゆっくり歩き始めた。後ろでは少女が、可愛いらしい顔に嫌悪感を顕にしている。
「しかめっ面してないで行くぞ。ーーーお前の半魂がお待ちかねだ」
少女はしぶしぶといった様に、歩調を速めた。
「……分かってるよ。あの子もうお腹ペコペコみたいだし」
太陽は完全に沈み、辺りに夜の帳が降り、空には星が瞬き始める。
青年と少女は、その光景に薄らと笑みを浮かべながら、足早に去って行った。
これはきっと、遠い遠い未来のお話。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
残りは後編のみとなります。たぶん。
終わらなかったらごめんなさい(°°;)
どうぞ最期までお付き合い下さい。




