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中編

すいません中編も恋愛要素無しです…。

辿り着けなかった…。


神託を下して二日、三日…一週間が経ったが、霊獣を狙う人間達の暴走は止まらない。それどころか日に日に力の弱い霊獣達がやられていった。

「おい、ルゥ! アメティスタ様はどうなさったんだ」

同じ神官のフォルスが、その蒼い目に怒りを映して私に詰め寄って来た。彼はこの間滅びかけた水龍の生き残りで、今は神殿に身を寄せている。隣には妹のサリューが不安そうに、胸に手を当てている。

「ルゥ……。アメティスタ様はもしかして、私達が滅びるのを望んでいらっしゃるの……?」

サリューの潤んだ紺碧の瞳に、隣の脳筋が目を剥く。

「なっ、何馬鹿なこと言ってるんだ! アメティスタ様に限ってそんなことっ」

「うるさいシスコン。私はルゥと話してるの。邪魔しないで」

さっきの潤んだ目はどこへやら、本当に兄妹かと思う程冷たい視線を向ける妹。

私はため息を吐いて応じます。

「私にも良く分からない状態なのです。かの方が何を望んでいらっしゃるのか、全く。……もしかすると、最初から何も分かって無かったのかも知れません」

仲が良いのか悪いのか、兄妹はそっくりな顔で目を見開きます。私が弱気になっているのに驚いたのでしょう。

私はそんな自分が恥ずかしくて目を逸らし、この場から逃げようとします。

が。

「「ルゥ!!!!!」」

鋭い声が私の足を縫い止めました。

「おめえが弱気でどうすんだよ!」

「そうよ! なんだかんだいって、貴方が一番アメティスタ様の側にいるじゃない!」

その声に思わず振り返ります。

「そんなおめえがアメティスタ様のこと分かってないなんて、んな事あるか!」

「誰が何と言おうと、例えアメティスタ様自身が違うと言っても!」

「おめえが見たアメティスタ様が!」

「貴方が守りたいアメティスタ様が!」


「「正真正銘、唯一無二のアメティスタ様だから!!!!」」


嗚呼。

何時だってこの悪友達は真っ直ぐなのだ。

水龍の不思議な力でも使っているのだろうかと思う程、二人の声援は気持ちが良い。暗くなる心を力強く救いとってくれる。

ふと考えた。

アメティスタ様にはこんな友人は誰一人居なかったのだと。自らの半魂と二人だけで、かの方の世界は完結していた。

辛いとか苦しいとかそんなことさえ考え無かったのだろう。

彼女たちにはそれが『当たり前』だったのだから。



* * *



「ルゥ、どうしよう」


神殿の前で悲嘆に暮れる霊獣達の声はどんどん増え、神罰を望むものは過半数を超えた。

言わずもがな、アメティスタ様はまだ神罰を与えてはいない。かの方は何かを恐れていた。それが何か聞けないまま、今に至っている。

「アメティスタ様、皆が待って居ます。……どうか、ご決断を」

「……ルゥ。」

「? 何でしょうか」

「貴方の種族は大丈夫なの?」

アメティスタ様は抱き抱えていたクッションから顔をあげ、こちらを見ます。あまりにも真剣な表情に、私は思わず答えに詰まりました。……それだけが理由という訳では無いのですが。

「……大丈夫とは言えません。多くの同胞が命を落としています。ただ私共灰狼は人型をとることができます。人間の中に紛れ込んで上手く立ち回っているため、他の種の霊獣よりも被害は少なくなっているのです」

「……そう、なの」

「アメティスタ様、どうか罰を。人間に神罰をお与え下さい」

私は片膝を着いて頭を下げました。

僅かにアメティスタ様が身じろぐ気配がします。

「このままでは、霊獣達の怒りや憎しみは人間だけでなくアメティスタ様にも向かいます。そうなれば、御身が危険に曝されるでしょう。もし、霊獣と恋愛の神(アメティスタ)殺しの力を持ったものが霊獣にいて、何かの拍子にそれに気付いたら、どう為さるおつもりですか」

アメティスタ様がクッションを抱き抱えたまま、私の前にしゃがみこみます。

少しおどけた様におっしゃいました。

「ルゥ、心配してくれるの? やっさしーなぁ」

私は顔をあげて言い募ります。目の前に美しい髪が、カーテンの様に広がりました。

「当然です! アメティスタ様に仕える神官となった時から、貴女様とその居場所を守ると、皆で誓いました! 私共は、今まで守護を与えて下さった御恩を、返さねばなりません」

でも私は、それだけでは無いのです。

ふふふ。

かの方が可笑しそうに声をたてます。

肩を震わせて目元に涙を浮かべる姿は、どこか危うさを孕んでいました。

「ねぇ、ルゥ。貴方って、優しいだけじゃないのね」

「……? アメティスタ様?」

紅混じりの金髪が遠ざかるのが、少し残念だ。そう思ってしまった罰なのだろうか。


「貴方って、優しいフリまで上手なのねぇ」


それは胸の奥を突くような、言葉でした。

私がギクリとするのと同時に、何故この方は気付かないのだろうかと思いました。貴女様の求めているものは最初からここにあるのに、どうして。

「……これ以上貴女様が何も対処なさらなければ、貴女様を創ったかの神が黙ってはいないでしょう。ーーーアメティスタ様、貴女様の命はかの神に握られています。これがあと数百年していたらかの神の干渉は消えていたかも知れません。しかし今の貴女様には、かの神と対立できる程のお力があるとは思えません。……ですから、どうか」

「分かったわ」

思いの他早いお答えに驚いていると、アメティスタ様が何かを探る様に私を見つめます。どうやら、私がいったい『何者』なのかという事に少なからず興味を持った様です。

火の粉を散らした明るさを持つ金の髪の間から、紫水晶の様な美しい瞳が、憂いを含む様に揺れました。

クッションを横に置いて立ち上がり、真っ白な生地の衣装に混じりそうな程白い両手で、私の手を掴みます。

「どう、なさりましたか?」

「ねえ、ルゥ。一つだけ教えてあげる」

特別よ。そう囁くと、掴んだ私の左手を弱々しい力で握り込んで、アメティスタ様はおっしゃいました。


「私、亡霊だった頃の記憶が全て消された訳じゃないの」


うっそりと、何か子供の様な無邪気な悪意をもって、かの方が微笑みます。


「私、わざと最後まであの子を生かしたの」


……私は今、いったいどんな表情をしているのでしょうか?

どうか平静なままで居ますようにと、自分の冷静な部分が私にそう語りかけます。アメティスタ様のおっしゃった内容は痛い程私の中の疑問を払拭し、解決済みの箱の中へ放り込んでいきました。

ただ解決済みの箱の中から、一つだけ浮かんで来るものがあります。その一つだけの『なぜ』は、私の口から零れる事なく消えました。余裕が無い私に『なぜ』を相手にする程の余力は残っていなかったのです。


「ねえ、」


ーーーアメティスタ様、貴女様という方は本当に。


「わたしの事が嫌いになった?」


かの方が身を翻して部屋の扉から出ていきます。

私はそのお姿を、何も言わずに見送りました。

何故か涙が零れ落ちました。


「アメティスタ様、貴女様はなんてーーー」


私の啜り泣く様な声はそのまま、誰にも聞かれずに空気に溶けて行くだけです。

よろよろと、追いかけるというにはあまりにも無気力な歩き方で、私は扉まで向かいます。しかし扉を開ける程の力が入らず、思わず完全に閉ざされた扉にもたれ掛かりました。

かの方がどのような神罰を与えるのか。私には最早一切が分からなくなってしまいました。

何がかの方をあそこまで追い詰めたのでしょうか。

半魂であったこと?

自らの親に殺されたこと?

誰も助けてくれなかったこと?

若しくはこれらの全て?

あるいは、嘗ての私が言った呪いの言葉?


原因は幾らだって想像がつく。しかし、かの方の引き金を引いたのはいったい、何だったのか。



* * *



「女神様!」

「どうか助けて下さい!」

「かみさまあ!」

「どうかニンゲンに制裁を!」

「女神の鉄槌を!」

「どうか!」

「どうか!!」

「どうか!!!」

悲鳴がたくさん聞こえた。

皆泣いて、怒って、憎んでいる。

わたしは女神様に成った。だからちゃんと、女神としての役割を果たさなくてはいけない。


やらなくちゃ。

ーーー何を?

人間に神罰を与えるの。

ーーーどうして?

人間が憎いから。

ーーーどうやって?

どうやって。そんなの決まってる。やられたのと同じ方法で、何倍何十倍何百倍だって復讐してやる。

やってやる。

ヤッテヤル。

殺ッテヤル。

「女神様!!!!!!!」

霊獣達はわたしの登場に目を輝かせる。

わたしは皆に応える様に、ニッコリと笑った。

「お待たせ!」

わたしは右手に仄暗い神槍を手にして駆け出した。

捻れた意匠の紫紺の神槍は、ぞっとする程美しい。

これがあればわたしは負けない。

大丈夫だよ。安心して。

みんなみんな、アメティスタがころしてあげる。

にんげんみぃんな、あめてぃすたがころしてあげる。

わたしたちふたりならこわくないの。

だってはんこんだもの。

せかいだってなんだって、こわしてあげる。

だからおねがい!


うまくできたら、わたしたちをほめてね。るぅ!!!


るぅ。あのね。


ーーーありがとお。


フォルス → 力

サリュ(ー) → 救い、救済

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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