冒頭
頑張って書きました!
はあ………なんでこんなことに。
俺は今日久し振りに故郷に帰るつもりだったのだが、何故かその時いた国の兵士に呼ばれて、城の中に連行された。
城の中には俺と同じような冒険者がたくさんいて、皆同じように困惑している様子だった。
一体何があるんだ?
そう思って、近くにいたおっさんに話を聞いてみたのだが…。
「坊主、人に話を聞く時は自分から名乗れ」
おっさんむっちゃ怒ってる。というか不機嫌すぎて目付きがヤバイんだが…。
まあ、不快にさせたことは非を認めなくてはならないよな。
「すみません。俺はシナサハと言います。よろしくお願いします」
「おう、それでいいのよ。俺はゴロッツ。これでも名のある格闘家よ」
そういって、ゴロッツさんは人の良さそうな笑みを浮かべて俺に手を差し伸べてきた。
俺もそれを見て握手をする。
なんだ、このおっさん案外いい人じゃないか。
「ところで質問の答えだが…すまんなぁ。俺も今朝呼ばれてからずっとここにいるんだが…特に何も話を聞かされてなくてなぁ…」
「そうですか…」
「シナサハは何か知っているのか?」
「いえ、俺も特には何も…」
「そうか。そうなのか…。そりゃ、聞いて悪かったな」
「いえ、大丈夫です…」
このおっさんの会話から恐らくここにいる人達にも聞いて回ったのだろうと俺は推測する。
つまり、他の人に聞いても無駄だということ。
俺は腕を組み、目を閉じた。
(王様、誰も話を聞いていない、集まっているのは冒険者、何故か城に呼び出される……。駄目だ、情報が足りない。一体何があるんだ?)
俺の足りない頭ではどうにもこうにも結論は出なかった。
冒険者達のざわめき声をサウンドに俺は考え続けた…。
しばらくして王様は現れた。
王様はなんか宝石とかじゃらじゃらついた高そーな杖となんか贅沢の限りを尽くしました的な赤いローブをしていた。
王様は下婢た笑みを浮かべて「ぐふっ、ぐふっ」と豚の鳴き声のような薄気味悪い笑い声をあげていた。
なんだこの気持ちの悪い生き物は。
俺は最初そう思った。
やがて、王様は壇上に上がった。
王様は至ってふざけた口調で冒険者である俺達に話をしてくる。
「ぐふふ…。冒険者の諸君よ。王である私の話を聞いてくれ…。先日、私の城に魔王が侵入した」
へぇ…。え?
冒険者達の声のざわめきが一瞬だけ大きくなった。
王様は構わず続ける。
「魔王は王である私にぐふっ。…呪いをかけて、こんなふざけた口調と顔に変えてしまったのだ」
「ふざけてんのか!」
「ふざけてなどない!」
王様は即座に否定した。
例のごとくニヤケ顔ではあるが。
しかし、本人の話が本当なら相当これは不憫な呪いだよな。
「これは、全て本当のことである。さすれば私の願いも分かるだろう。諸君に依頼する私の願いはただ一つ。こんな呪いを掛けた魔王をぶちのめしてくれ!」
玉座の間にいる冒険者は皆黙って、去っていった。
「シナサハ、行くぞ」
「あ、ああ……」
ゴロッツは俺に王様の依頼を断ろうと声をかけてきた。
俺は流されるままに頷く。
しかしながら、まだちゃんと判別が出来ず悩んでいた。
ーー何かおかしい。
王様の話が本当なら魔王がここに来たということが本当のことになる。
俺が違和感を感じたのは魔王は本当に王様だけに呪いを掛けたのだろうかということだ。
何せ魔王は悪だ。
しかも相当の悪党なのだ。
それがわざわざこんな城まで来て、やったことが王様に呪いを掛けただけ?
冗談。この話は絶対裏がある。
俺は自分の勘を信じて玉座の間に残った。
覚悟こそしていたもののまさかあんなことになろうとは今の俺は夢にも思わなかった。
「…残ったのは君だけか」
王様はそう言った。
俺としては気になる部分があったから残ったまでだ。
嘘か本当かは知らないが、聞くだけならタダだからな。
しかし、ものの見事に俺以外の冒険者がいなくなったな…。
玉座の間は俺と兵士と王様以外誰もいなくなった。
さっきまで人で埋め尽くされていたというのに、それが無くなるとひどく閑散とする。
「君の名前はなんと言うのだ」
相変わらずの下婢た物言いと薄気味悪い笑みを浮かべて俺に尋ねてくる。
う、呪いだと言われても、やっぱりこう…何か裏があるんじゃないかって思ってしまうな…。悪い方向で。
しかし、相手は王様だ。一応、最低限の敬意は払っておくべきだろう。…人間性は別としても。
「俺の名前はシナサハと言います」
「シナサハ、か。…女の名前みたいだな」
俺が気にしていることを!
あと、舌舐めずりするんじゃねぇ!
この王様、ホモかよ!
俺が内心どう思っているのかは、関係なく王様は続ける。
「シナサハ。玉座の間に残ってくれたということは、君は私の話を聞いてぐふっ…………」
「…………」
なんか気まずい…。これが魔王の呪いだとしたら、王様は虫の息だな。こんなしゃべり方だ。きっと、相当信頼とか信用とか失っているに違いない。
俺はそう思い込むことにした。でなければ、王様の話をまともに聞いていられないので。
王様は咳を一つして誤魔化し、もう一度話をする。
「シナサハ。頼む。この私の呪いを解きに魔王を倒してくれ」
「断る」
「!?」
あ、しまった。あんまりにギラギラした目で俺を見詰めてくるもんだからつい拒否しちまった。
俺は悪くない!悪くないぞ!悪いのは全て魔王だ!
今度は俺が取り繕う。まだ肝心の話を聞いていないので。
「あー…。王様、まだ依頼の報酬とか決めてないでしょ?
一応俺は冒険者ですので、そう言った報酬はちゃんと決めてからじゃないと頷けないんですよ」
「あ、ああ。そうよな。そうだとも。まだ依頼の報酬を決めていなかったものな。あー、すまん。私としたことが焦っておったようだ」
ふう、何とか誤魔化せたな。しかし、まあ本人は必死なんだろうな。顔とか声とかはあれでも、眼が泳いでる時があるし、声に若干の揺れもあるから、そうなんだろう。
「して、報酬だったな。そなたには魔王を倒すという偉業を成し遂げるということで、金貨1000枚でどうじゃろうか?」
「金貨1000枚!?」
おいおいおいおい!金貨1000枚ってあれか?
俺が知ってる一番高い料理が…1、2…4……8…………、えーとえーととにかく沢山頼んでも問題ないということか!?(金額忘れた)
いや、待て。それよりも、あの名剣が買えるじゃないか。
うおおおおおおーー!!!!!
俺は俄然にテンションが上がった。
しかーし!ここでクールダウンだ俺。こういう上手い話には裏があるんだ。報酬に眼が眩んで足下を救われてはいつまでも三流止まりだぜ。
俺は出来るだけ落ち着いて、王様と交渉する。
「王様、魔王を倒すだけで、金貨1000枚ですか?」
「ああ、魔王を倒す…。それだけで金貨1000枚だ」
しゃあ!来たぁ!
「もし、私の呪いを解いてくれたならもう金貨500枚ほど報酬を出そう」
「っ!?」
ヤバイ!
報酬が旨すぎる!
顔がにやけてくるのが抑えられん。
しかし、ここはクールに行くんだ俺。
頭を氷術魔法アイスバーンの中に突っ込むように頭を冷やすんだ。
落ち着け落ち着け-!落ち着くんだー!ここで、先走りをしたら駄目なんだ!俺は一流の冒険者。流されるまま頷いては駄目なんだ!
「ああ、もしも魔王を倒した暁には貴族にしても良いぞ」
「くぅ~~~~!!!!」
ーー俺は何とか、そう何とかギリギリ理性を保った。
ヤバかった…後一押しで頷くところだったぜ。
流石に王様やってるだけのことはある。
こんな小物の扱いには慣れているか…。
末恐ろしいぜ。王族って奴らは…。
そうだ。さっきの話は話さなければならないところを話していないんだ。それなのに、勢いで頷いたら後の祭りだ。
相手に有利な状態で、この依頼はうやむやになってしまう。
俺は王様に質問をした。
「王様…。聞きたいことがある」
「何かな?」
「俺がもし魔王を倒したとして………どうやって魔王を倒したことを証明するつもりなんだ?」
「それは、簡単だ。魔王を倒せば呪いが解けるからな」
何故そこまで確信出来るのか不思議だが、俺としてはそんなあやふやなものに頼りたくない。
俺は王様に尋ねた。
「それは納得出来ない」
「…そうか」
王様は変わらず下婢た笑みを浮かべているが、何処と無く落ち込んだトーンがするような気がする。
俺は他に何か案がないかと頭を捻って案を出す。
「…魔王には何か特徴がなかったか?
例えば、角とか、尻尾とか…」
「…そうだな。確か、大きな爪切りを持っていたぞ」
「爪切り?」
武器…なのだろうか?
訳が分からない。
「そうあやつは大きな爪切りを持っておるのだ。あの爪切りはどうも私が見たところ…呪いの品っぽくてな。それを破壊すれば元に戻れるのではないか、とも思っている」
「なら、何故その魔王の武器を壊してくれなんて依頼しなかったんだ?そっちの方が現実的だろう?」
「魔王の持っている爪切りは破壊できぬよ」
「どうしてだ?」
「それは、魔王の持っている爪切りが魔改造師キキカが作った者だからだよ」
それを聞いてピンと来た。
魔改造師キキカ。それは数百年前に生きていたという伝説の鍛冶師の名前だ。
キキカの作る武器はどれもこれも壊れ気味の性能を持つ物ばかりで、その内実、見た目と実際の能力がかなり違うものが多いということで有名だ。
キキカが作る中でも特に有名なのが【天月奇剣】と呼ばれる幾つかの武器の話だ。
どの武器も壊れ気味どころか一騎当千レベルの超一級品。
普通じゃない武器を作る魔改造師キキカを有名にさせたのもこの奇剣が作られてから。
つまり、なんだ…俺はそんな一騎当千レベルの武器持った一騎当千レベルの化け物の相手をしろ、と?
狂ってるぜ…。
「そんなの無理じゃねぇか!」
「だから頼んでいるのだよ」
王様は冷静に野蛮な笑みを浮かべて俺をなだめる。
いや、なだめるどころか激情しそうなんだが。
あー、イライラするぜ。ぶちきれてもいいだろうか?
そんな俺を見かねてなのか知らないが、玉座の間の扉が開いた。いや、多分絶対偶然だろうけど。
俺は振り向いて、何者なのかを見た。
「たっのもー!」
「バカー!何やってるんですかー!!」
そこにはバカと浴衣美人がいた。
いや、状況が見えないんだが…。
とりあえず、観察してみようか。
まず一人目、バカの方からだ。そいつは15歳くらいの少年だ。黒い髪と黒い目をした無邪気で愉快な雰囲気を醸し出す不思議な少年。
本人は何が楽しいのか随分うっせー声で大笑いしてる。
少年も冒険者なのか茶色いシャツの上に黒いマントを纏っている。背中にあるのは…水鉄砲か?腰には水鉄砲のタンクのような物が沢山あり、他にはポーチが後ろ腰に2つくっついていた。
冒険者舐めてんのか?
さて、もう一人の浴衣美人は大体20代前半くらいの若い女性だ。
こちらは透き通るような髪質をしたキャラメルカラーの髪を青いリボンでくくったポニーテールに、海を連想させるような穏やかで思慮深そうな青い大きな瞳を持っていた。
彼女が着ているのは魚の絵柄のついた綺麗な赤い浴衣だが、これがまあ、エロい。
何がって言えば、ちらちらと胸元から溢れそうな大きな胸とか、色白で綺麗な細い足とか。
本人は誘ってるという感覚はないのだろう。
しかし、これはなんというか…とてつもない色気が迸っていて、眼のやりどころにその…なんというか困る。
ああ、駄目だ!切り替えよう!
彼女は武器を持っていない。
となると、恐らく魔法を使うタイプだと判断する。
二人だけの旅でまさか少年だけが戦えるってことはないだろうから。
いや、この少年も十分戦えるのかどうか疑問なんだが…。
まあ、そんな二人が突然やって来て、こんなことを言ってきたのだ。
俺は王様を見る。
全くぶれない不気味で悪党がするような笑みを浮かべている。
しかし、目を若干開かせているところを見るに、どうやらこの王様も予想外だったということに気付いた。
(どういうことだ?)
俺は二人が何故こんなところに来たのかを考える。
召集ならさっきあったはず。
それが来ていないということは…この町に居なかった者ということになる。つまり、二人は…外部の人間だということになる。
これは偶然か?それとも何者からの意図があってのことか?
どちらにしても今の俺では考えても情報が足りなかった。
少年は空気も読まずに意気揚々と話す。
「話は聞かせてもらったよ王様!
俺が魔王を倒しに行ってやろうじゃないか!」
おい…バカがいるぞ。依頼内容も恐らくほとんど聞いてないはずなのに、確認もせずに引き受けやがったぞ。
本人はメチャどや顔だが、俺としては愚か者の笑みにしか見えなかった。
案の定、女性の方は慌てて訂正する。
「待って!まだ速い!ちゃんと人の話を最後まで聞いてからにしなさーい!」
「えー…めんどくさい」
「コラ!めんどくさがるな!ちゃんとして!」
「へーい」
「気のない返事をするなー!」
どう見てもこれは叱ってるお姉さんと叱られてるガキんちょの図だった。
こいつら何しに来たんだ?
バカやりにきたって訳でもないだろうに。