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会いたくない奴に会う真夜中

 カタッ―――


 窓を開けたまま寝ていたので、目が覚めたのは風の気まぐれで倒れた花瓶の音でだった。

 普段、野宿をしながら生活しているためか、物音が起きてから覚醒するまでの時間は限りなく短い。

 リナは、花瓶が倒れかけた段階ですぐに目を覚まし、花瓶が床に叩きつけられる前にその手で受け止めた。

 「冷たっ」

 上手く花瓶に起こる不幸を回避させられたことは良かったが、その花瓶の中に入っていた水と花を思いっきりかぶってしまった。


 (どうしよう……)

 辺りはシンとしている。たぶん、下での騒ぎも収まって、みんな眠りについているのだろう。

 (……あたしはともかく、花は可哀相よね)

 この暑さの中、水を失ってしまっては、命の源から切り離された花は生きていけない。


 少し悩んで、リナは水をもらうために、下への階段に足を向けた。

 水の入っていない花瓶を手に、ぬれた服のまま階段を降りる。

 暑い夏の夜のこと、軽く汗もかいていることだし、花瓶に水を入れ終えたら着替えてしまおうと、リナは足音を立てないように進んだ。

 (確か、中庭に井戸があったような……)

 宿屋に入る前に見たのを思い出して、庭に続くドアを開ける。

 途端に、耳に虫の鳴き声が大きく響く。

 が、リナは気にせずにドアを閉めると、サクサクと草を踏みしめて井戸のところまでたどり着いた。


 「よいしょっと……」

 井戸の水をくみ上げ、花瓶の中に水を入れる。

 少し汗をかいていたことを思い出して、もう一杯水を汲み足にバシャリとかけると、ひんやりとした風がぬれた足に当たって涼しい。

 (喉も渇いているんだけど……ここの水は飲めないよなぁ)

 この国では、人が飲める水にするためには水晶の入れ物で一晩水を置く必要がある。その代わり、水晶の浄化作用で、雨水でも海水でも川水でも、一晩置けば飲み水へと変化するのだ。

 (ひとつ方法がないわけじゃないけど)

 しかし、そんなことをしている暇がいつもあるわけではない。そんなときに人々が利用するのが「薬師の祈り」なのだ。

 (でも、起こすなんてしたくないし)

 野宿の時には、リーダーが喉が渇いたとうるさいので、薬師が寝る前に好きなときの飲めるように水を用意しておいてくれる。だからつい、水晶の筒に水を常備しておくのを忘れてしまったのだけど。

 (一晩くらい、いいか)

 しかたないものはしかたない。

 そう割り切って、足元の花瓶を持ち上げ、振り返ったところで足が止まった。

 ついでに、息まで止まった。


 「リナ?」


 無駄に声と顔と腕だけ良い薬師ことラバスがリナの後ろの木陰から井戸の方を見ている。

 「こんな夜中に、何やって……?」

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