ふて寝もしたくなる状況
夏の夜に暑苦しい部屋の中になんか居られない。
そう思っているのに、下から聞こえてくる楽しいそうな声の輪に入っていくことが出来ず、リナは部屋の窓を開けた。
暑苦しい空気が外に逃げ出し、わずかに涼しい夜風が部屋の中に入り込む。
窓の外は草むらになっているようだ。
まだ夏真っ盛りだと思っていたのに、夜に流れる自然のメロディは蛙の合唱から鈴虫の輪唱に変わったらしい。
「下に降りて来ないのか?」
軽く部屋のドアがノックされ、声が聞こえる。
低い、それでいて困惑したような声の持ち主は仲間のもの。そんな誘いにも、あたしは拒否の意を示した。
「……気分が悪いの。悪いけど、明日の朝まで寝てても良い?」
「寝ていれば治るのか?」
裏に「薬は要らないんだな?」という意味を感じて、肯定の返事をする。
「薬師は呼ばなくてもいいんだな?」
わざわざ仲間の名前を呼ばすに「薬師」と言ってることから、何のせいで気分が悪いのかはバレバレのようだ。
「ガリオル、しつこい。寝てれば治るって言ってるじゃない。薬なんか飲んだら、副作用で逆に気分が悪くなるわよ」
宿屋に入った瞬間に目に入った、きらびやかな衣装の少女たち。
夏祭りの踊り子として呼ばれたというその集団の目は、明らかに仲間のひとりに向けられていた。
その後、彼が薬師だと分かるや否や、足が痛み出す子が続出し、今、彼はその少女たちの手当てをしているはずだ。
(女の子に囲まれるの大好きな人だもの)
だからこそ、彼は最初、自分たちのパーティに入るのを頑なに拒否した。
『女の質の悪いパーティに入るのはごめん』
そう言った彼を説得したのは、彼の腕にほれ込んだリーダーだ。そして、リーダーの説得の仕方もこれまた絶妙だった。
「パーティの女の質が良かったら、良い女は近づいてこないぞ」
この話を聞いて、リナがパーティを抜けようと思ったとして攻められることはないだろう。
けれど、これから事情を話して迎え入れてくれるパーティはどこにもないことも理解していたので、リナは悔しさを押し殺していたのだった。
(だけど、そろそろ我慢の限界)
いつでも、自分を引き合いに相手の女の子を褒め、リナを蹴落とす。そんな場面に何回も出くわせば、流石に嫌になる。
ガリオルの気配がドアから去ったのを感じて、リナはベッドの上に寝転がる。
気分が悪いときには、睡眠をとることが一番良い。




