7話
広場に着くと俺は荷車から下ろされた。
代わりにメガネと豚が荷車に上がり指示を出す。
「配置に着きなさい。」
5人は俺を中心に五角形に成るように鎖を持って移動する。
俺を踏みつけにしていた男が、俺から右斜め前方でメガネと豚の護衛に着いている。
先程の石などの警戒の為だろう。
人が集まりだしている。軽く千人は越えてるだろうか。
しかしその姿は異様だった。近代的とは言えない。
かと言ってボロクソと言うまでの服を着ている訳ではない。
中世のフランスを舞台にした映画に出てくる町民の服装に近いかもしれない。
顔付きも欧米的だ。
三分の二が白人で残りが有色人種といった所か。
皆、俺に脅えている。
「あれはなんだ?」「ブルートが連れて来たんだ。ろくなものじゃないぞ!」「そうだ!」「オーガをペットにしたんじゃねーのか?」「金は返ってくるんだろーな!」「きっとオーガの子供だぞ!」
今にも雨が降りだしそうなのに続々と人は集まってくる。
それに混じって鎧を着た人達が前に出始めた。統一している者達も居ればそうではない鎧を着ている者もいる。
かなり殺気立っているように感じる。その殺意が俺にも向けられてるのが解った。
「我の妻たちは何処だ!!」
流石。空気を読まない男だな。
これだけの人に怨まれているにも関わらず自分の怨み言を優先出来るとは、さぞや王様だった頃は暴君だったのだろうな。
「私達はもう貴方の妻ではありません。」
人垣が割れ声の主は現れた。
「貴方に最早謝罪は期待していません。大人しく処罰されて下さい。」
それは青い髪の凛とした女性だった。胴廻りにだけ鎧を身につけたその佇まいは、後ろにいる女の子達を守っている様に写った。
只、今の言葉は不味い。ヒステリーを起こす人間がいる。
「貴様は誰に口をきいているのだー‼我は王なのだぞーー‼貴様等のせいで我がこの様な扱いを受けているのだぞ‼‼」
その言葉は不適切だろ。金を盗んだから怒りを買ったように見えるんだけどな。いや、一方的に怒りを売り付けて金を踏んだ食った、と言えなくもないのかな。誰だって、そんなもの買いたくもないだろうしな。
しかし、他人の不幸は蜜の味だな。自分以上に嫌われている存在があると、とたんに気が楽になってくる。
俺はそうゆう奴だ。
「ふっ、ざまぁ」
似たような視線が俺にも向けられてるのだけが不快だが、奴が嫌われているのは気分がいい。
上司に似ているからなのだろうな。
「地面に跪て尻を上げろ‼貴様には最高の屈辱をくれてやる!」
屈辱だと言っているのに最高とは可笑しい。
今の言葉を訳すと「お前は俺を怒らせたから犯らせろ!」になるな。とんでも発言だな。言い掛かりの被害妄想。行き着く先が八つ当たり。
こんな奴でも生きる事が許されてるなんてな。羨ましい限りだよ。
俺は否定され続けたというのにな。
彼女は無言で剣を抜いた。とても細い剣だ。
言葉を発しなかったのは諦めたのだろか。あの様な馬鹿に付き合ってられないと早々に切り上げたのだ。そして、お前の言葉には従わないと行動で示したのだろう。
ただ、彼女の眼光は……………酷かった。
先程まで後ろの女の子達を守ろうしていた人物とは思えない。
無表情で冷たい殺意が伝わってくる。
美しい。
一瞬ではあるがそう思えた。
その殺意が。彼女から感じられる何かは俺にとって他人事のようには感じられない。
あの子には何かがあるのかもしれない。
彼女のとった行動は極めて正しいのだろう。正しいけどあの馬鹿のリアクションなんて決まっていた。
ブルートはフラれた。
ブルートは怒り覚えた。
ブルートは「ぐぬぬ」と唱えた。
解りきっている。
案の定メガネが豚を宥めてる。
そしてまた彼女に酷い暴言を浴びせるのだろう。
……何を考えていたのだろうか。俺は。他人を心配してる場合じゃないだろう。
彼女とブルートの間に何があったかは知らないし興味もない。
だから早く殺し合えばいい。
向こう側にはヤバそうなデカい武器を担いだ男達がゴロゴロいる。
少なく見積もっても300人近くはいるだろう。わからんけど。
いくら魔法が使えるからって5人で勝てるわけないだろ。
そう思えたが奴等は不敵に笑っている。
絶対的な自信が観てとれる。
その姿から周りを取り囲んでいるというのに群衆からは余裕が感じられない。
彼等は俺のせいで殺し合いを始めるのだろう。
少しだけ責任を感じる。
けど、知った事ではない。だってそうだろう。俺が何かしてこうなった訳じゃないんだ。
だから俺に責任なんてないんだ。
勝手に殺し合えよ。
それに紛れて俺も殺せばいいんだ。
そうだ!俺を殺せばコイツ等は手詰まりなんだ。だからそう言えばいいんだ。
………………………………………。
「その人に何をしたんですか?」
綺麗な声だった。
だから、思わず顔を上げてしまった。
「もう脅えなくて大丈夫ですよ。私が助けますからね。」
女神がいた。