6話
どれくらい泣いていただろうか。
涙を流したのはどれ位振りなのか思い出せもしない。
親父が亡くなった時だって涙はでなかったのに。
やっぱり俺は最低な人間なんだろう。
いや、人間ですらなかったんだな。化け物だ。
下種野郎なんだ。
曇り始めた空は更にその雲を集め、曇天へと姿を変えていた。
今にも降りだしそうな空の下。馬車に繋がれた荷車の上でその空を眺めていた。
雨が降ることで晴れ渡るその空のように、俺の心も浄化出来たら良かったのにな。
何処へ向かっているのか解らないがどうでもいい。
何処へでも連れて行けばいい。
俺はタンクだと言われたがそれは奴隷だろう。
社畜から奴隷へと呼び名が変わっただけだ。
何もしたくない。
考えるのも煩わしい。
もう寝てしまおう。
もう目覚めないことを願って。
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「………………………………」
「………………………………………………」
なんか騒がしいな。
「ようやくお目覚めかよ。……いい気なもんだな。へっ。まぁ、ある意味いいタイミングで目覚めたんじゃねーの。これからこの街はお前のせいで地獄に変わるんだ。良く見とけよ。」
目覚めて一番最初に見たのは俺を踏みつけにしていた男のドヤ顔だった。見張りとして一緒に荷車に乗ってたんだっけ。
全部夢だったら良かったのにな。
俺の体は黒いままだ。
目にかかる髪の毛は白くなってる。
どーでもいーか。そんな事。別にハゲていたって構いはしない。
「………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………」
前方にある馬車の方で男の怒鳴り合ってる声が聴こえてくる。
馬車の前には大きな壁が立っていた。軽く20メートルは越えていそうだ。
恐らく馬車の影には入り口があるのだろう。
「街に入ればさらしもんだよ。お前はな。だが、逃げようなんて考えんじゃねーぞ。もし、んーな真似したらまた痛めつけるからな。
まぁ心配すんなよ。ゆーこときいてれば飯はやる。寝床だってよーいしてやる。飽きた女をオメーに抱かせてやったっていーんだぜ!
いや、…待てよ。
女共にテメーのガキ産ませまくれば………………タンクの大漁生産じゃねーかよ!」
別に衣食住の心配はしてはいなかったんだけどな。
今度は俺を種馬扱いだ。
やめろよ。テメー等とヤった女とか。病気持ってそーだしな。
まして化け物の子なんか見たくねーよ。
「やべーぞ。魔王軍なんて目じゃねーぞ。帝国なんて相手にもならねー。エルフもシルフも各種族の女共を奴隷にしほうだいじゃねーかよ。それで領主になれば一生遊んで暮らせるぞ!」
男は勝手にヒートアップしてトリップしてる。
下種過ぎる。
「んっ…………………!」
体から何かが流れて行く。この感覚はさっき覚えた。誰かが俺を使って魔法を出そうとしてる。
ゴォォォォ
爆音と共に地鳴りが響いた。
真っ黒い煙が壁を焼いている。
「おっと、お勤めの時間だぜ!オメーの御披露目会でも有るんだ。愛想良くしとけよ!」
馬車が急発進する。
地面に鎧のような物を着た男達が呻いていた。
煙と馬車の加速によるスピードでよく見えなかったが火傷のようではなかった。
俺の姿のような黒い傷跡。
壁の中に入ると街だった。
石やレンガ造りの建物が並んでいる。やはり日本では見ることのない風景だった。
道幅も10メートル程有りそうだ。恐らくはこの道がメインストリートなのかもしれない。
「おい!ブルートだぞ!」
「ブルートの野郎が帰って来やがった!」
「金返せクソ野郎がー」「ぶっ殺すぞー」
「気持ちワリー面見せんな」「戻ってくんじゃねー」
前方から敵愾心マックスの声が飛んでくる。
と思ったら石やらビンやらが飛んできた。
「随分好かれてるのな、お宅の大将?」
久しぶりに言葉が出た。ここは嫌みっぽく笑い掛けるべきなのだろうが笑えない。
「だろー。この街だけじゃなく国中からこの調子だぜ♪
だからよーぉ、お前の件で失敗しやがったら暗殺しようとしてたんだぜ。俺等はよ。笑えんだろ。
ああ、あとこの事はアイツに言っても無駄だぞ。奴はクーデターにあってから誰も信用してねーからな。魔神の言葉じゃ尚更だろーぜ。はははー。
奴の嫁候補共も余計な真似してくれたよ。奴に純潔を捧げんのが嫌で、第二王子に唆されてクーデターなんて真似してくれやがったんだからな。
お陰でこっちはとばっちりだよ。豚と一緒に島流しだぜ。全く。
溜まったもんじゃねーよなぁ?
だからよぉ、その女共を今日、公開レイプしてやんだよ。
王を引きずり降ろした罰として辺境警備兵として一緒に島流しにされてるからな。
さすがは妃候補だったからな、みてくれも極上揃いだぜ。まぁ若すぎんのが難点だが、調教のしがいがあると思えば悪かねーな。
んーなツマンネー顔してんじゃねーよ!
テメーも行儀良くしてればおこぼれが貰えんだぞ?
むしろいるだけでおこぼれが貰えんだぞ?最高じゃねーかよ♪なぁ?」
下種だ、下種だ、と思ってはいたがここまでとはな。
自分が下種であると自覚してる俺にとって、更に下である種を俺は知らない。
もしかしたら外道とはこのような輩を指す言葉なんだろうか。
「領民達よ、聞くのだ。」
馬車からメガネ野郎の声が響いた。
「金は返そう。」
「当たり前じゃーボケー」
「ふんぞり反ってんじゃねー盗人が」
落ち着かせようとしている様だが逆効果だな。
石の量が増えた。ついでに火とか水まで飛んできてる。
しかし俺達には当たることはなかった。
黒い幕のような物がそれらを通すことはなかったからだ。
これも魔法なんだろうな。
前方からの歓迎のプレゼントは減ることがなかったが、後方から全くそれがないことに気付いて振り返った。
全員戸惑っていた。
「なんだよあれ」
「化け物だ」
「オーガじゃないのかよ、あれ?」「知らねーよ!あんなの」
「新種かもしんねーだろ!」
皮肉なことに俺が彼等を落ち着かせることに一役買っていた。
「さぁ領民達よ。中央広場に集まるのです。
今日、世界が変わる瞬間を共に迎える為に!」
外道が語りかけてくる。
「いやー、いい仕事っぷりじゃねーの魔神君。ご褒美申請俺がしといてやるよ♪」