4話
どうやら俺は気絶していたらしい。
酷い回想だった。
あんな醜い復讐の記憶以外に良い思い出も有っただろうに。
なのに俺はそんな復讐に満足して天国に来れたと思い込んで喜んでたんだからな。
つくづく救えない奴だ。
気が付いた俺は手下の中で最も体格が大きい者に踏みつけにされていた。
火傷した肌には地面の冷たさが心地好かった。
別にドMという訳じゃない。
「なんだぁ。気が付きやがったのかぁ。こんな状況で熟睡とは魔神様はいい御身分だなぁ。」
話相手が出来て嬉しいようだ。ニヤケ面で俺の顔をのぞき込んでくる。
「ああ。テメーの顔見てるとたまらねーよ。早く町の女共を犯したくなってくる。」
おおーっと、危ない奴発見。
上の人超危険なんですけど‼
お巡りさん助けて。俺のケツがヤバい!
俺全裸なんだけど!準備万端なんだけど‼
「ハァハァ。男じゃなかったらな、この場でやんのにな。」
どうやらノーマルな人だったようだ。
思わずため息が漏れる。
いや、むしろ俺みたいな不細工顔の女を犯したいって事はどうなんだろうなぁ?
女を顔で判断しない人間なのだろうか?
でも¨犯したい¨って時点でアウトだろう。
判断に迷う。
俺が踏みつけられている、正面では豚が苛立だしげに参謀を睨み着けていた。
少し曇ってきたせいか風も出てきたのだろう、似合わない金髪を押さえつけている。
桂なのだろうか。
当の参謀は残った手下を使って俺の右側、10メートル程離れた場所で馬車から何かを取り出しながら何かを組み立ている。
どうやら魔法みたいなのを使って溶接している様だが、この体制ではよく見えない。
どちらにしろ、まだ時間は有るようだ。
作業にも人手が掛かるようにも見える。
「なぁアンタ、俺と取引しないか?」
あくまでも目測だがこのくらい離れて居れば俺の声は届かないだろう。
「ああん!ついさっきまで寝てたテメーに何が出来んだよ?」
食い付きが悪いな。
「ちょっと気絶してただけだ。それに」
焦って交渉するが遮られる。
「そっちじゃねーよ!さっき言ってただろ!テメーは魔女から買い取ったんだよ!それまでの記憶がテメーにあんのかよ?」
「‼」
絶句した。どうなってんだ。意味が解らない。
「っち!記憶がねーんだな?だったら無意味な手間取らすな!」
いいや。意味ならある。
「その手間を省く為の交渉だよ。時間を無駄にしない為のね。」
出来るだけ柔らかいトーンで話し掛ける。
ソイツも聞くだけ聞く気のようだ。
「アンタも気付いてるだろ?魔法なんて使えない。もし、使えてたなら?あ、あれだ、こんな醜態?晒してないだろ?
なのにその、何、計画?そんなの上手く行くわけないだろう?」
途中でシドロモドロになりながらも伝えた。
何故か焦ってしまった。けど、この先は大丈夫だろう。
恐らく否定が帰って来るだろうが。
「だから実験するんだろーが!」
その声は大分苛立たしげだ。
が、その返答は予測出来た。
予測出来る答えになるように仕向けた。
「その時間が無駄になると言っているんだよ。
そんな暇が有ったなら、それこそ女を抱いていた方が有効じゃないか?」
ソイツは納得出来たのだろう。怪訝そうにしながらも頷いている。
「確かにな。しかし、テメーがどーなる。このまま、サヨーナラ。なんて出来ると思ってねーだろーな?」
俺は笑みを浮かべて頷いた。
「勿論。サヨナラするさ。」
イラついたのだろう。俺を踏む足に力がこもる。
「正確、、には、この、っ、世との、おさらば、っ、ハァ、だけどなっ!」
だからドMじゃねーんだよ。俺は!
しかし今の言葉で男は驚いた用だ。足に掛かっていた力が弱まる。
「なんだ。自殺志願者かよ。」
ソイツは呆れた様だった。
「別に珍しくもないだろ?」
正確には他殺願望者だ。
事を有効に運びたい俺は息を切らしながらもソイツに笑いかけた。
しかし首を横に降られてしまう。
「駄目だな。それじゃウチ等は大損だ。テメーを買い取るのに、一体いくらの隠し金つぎ込んだと思ってんだよ。
しかもそれだけじゃ足りなくて、町の金盗んでんだぞ?
殺してめでたし。って訳にはいかねーな」
「けど、無駄な物抱える事もないだろう」
駄目だ。焦ってしまう。
「大丈夫だぜ。無駄にはしねーからな。」
今度はソイツから笑いかけてきた。
「世の中には物好きがいるからな。テメーみてーな面が大好きな貴族の変態共とかな。なんだよ!その意味わかりません。って面はよ!
いーか!世の中にはな、男と男がやり合ってんのが見たいって物好きがいんだぞ!やり合ってってのは殴り合いじゃねーぞ。セックスだかんな。
そんな連中にテメーが売られんだよ!
いー面になってきたじゃねーか?グハハ。
テメーは掘る側か、掘られる側か、どっちなんだろうなぁ?
精々ワケーお嬢様に買い取って貰えるように期待しな?
いや相手も男じゃ関係ねーよなぁ?悪い悪い。
まぁ相手の男もテメーとおんなじ美形であることを期待しとけよ。
ククク。今後会ったときは、っ、クー、紹介して、くれよ♪ぶわーはっはっはあー♪」
「………………………………………………………………………………」
思考が停止した。フリーズ。
再起動したくない。
「楽しい会話はそこまでですよ。」