3話
28歳の誕生日。俺はこのままの生活を続けていけば、死ぬということを自覚した。
偶然にも休みと重なった日。
いつもの習慣で目覚める。俺の場合は頭痛と吐き気からだ。
気付けには丁度良かったかもしれない。
気分は最悪になるが。
最近では頭痛薬の効きも悪くなっていたが、使用上の注意を破り、倍以上の量を飲んでなんとか平静を保っていた。
いや、胃の痛みとどうしようもないイラつきと日々闘う事にはなった。
だが、それにも限界が有ったようだ。
いくら飲んでも効き目がない。
産まれた日に死が近づいてきた。
なんて皮肉な日なのだろうか。
早く死にたい。この狂った世の中から解放されたい。
そう願っていた。
けど自殺はしたくない。
失敗してしまうのが怖かった。それに世間の目も怖かった。
負け犬と思われるのは構わない。
だけど戦いから逃げた弱虫だとは思われたくなかった。
歳の近い先輩、同期、後輩達は2、3年で辞めていった。
羨ましくはあったが許せなかった。
人に対してのものではない。
己に対してだ。
散々醜態を晒して逃げた先でもそれをしないなんて保証が何処にあるのだろうか。
守りたいんだ。こんな自分でも。
どうしようもない自尊心。
とても《誇り》なんて呼べるものではない。そんなの俺は持ち合わせていない。
あるとしたらとてつもなく歪で、無様で醜い自己愛。《傲り》とも呼べるのかもしれない自己愛だけだ。
俺を蔑む存在が許せない。
俺を蹴落とす事で自分が上等な存在だと勘違いしている奴等。
俺を罵倒する事でストレスを発散する奴等。
俺の不幸を知ることで自らの幸福感を得る奴等。
終いには、俺を不幸にする事で奴等は幸福感を満たすようになっていった。
いつからかそんな奴等を殺す事を夢見るようになっていた。
昔はそんな事を考える人間じゃなかったのに。
いつかは報われるんじゃないか、理解されるんじゃないか、受け入れて貰えるんじゃないか。
《いつか》なんて来なかった。
いや、もしかするとこの先来るのかもしれない。
しかし、もう俺には必要ない。
見たくもない。掌を返した奴等を。それを許す自分も。
遅すぎたんだ。
理想を捨てるのを。
汚され、穢された自分に気付くのも。
薬の副作用か、日々のストレスか、俺の抱えた苛立ちはその成長を止めることはない。
これまで犯罪を起こさなかったのは一重に俺の意地だった。
ニュースで流れる犯罪者の心境は理解出来る。しかし、その行動には呆れる。
己が一番の悪者になったんじゃ駄目なんだ。
被害者は俺達なんだ。
なのに被害者と加害者が入れ替わったんじゃ意味がない。
むしろ、マイナスだ。
加害者は加害者として裁かれるべきなのだ。
だから俺は準備を始める。
俺が今迄味わってきた苦痛を、屈辱を、分け与える為の準備。
この世で一番尊く、大切な存在。
それを穢した奴等に復讐する準備を。
ああ、なんて醜い幕引きなのだろう。