2話
とりあえず今、自分の置かれた状況を整理する。
俺 安栖玄人 復讐のち死亡。
天国(仮)にいる。体格変わってる。全裸。
ブルート(豚)(殺したい)登場。
曰く、俺 魔神。
手下6人登場。
手下A 参謀っぽい。
B~F 手から火の玉を出す。俺にぶつける。
世紀末覇者の手下並みにヒャッハーしてる。
俺 草原を逃亡中
「無理だろ。情報量少な過ぎるだろ。つーかアイツ等、火炎放射器は使っても魔法は使ってなかったぞ」
ヤバい。思考が纏まらない。
自分でも意味が解らない事にツッコんでいる事は解っているのだが、何故、ツッコんでいるのかも解らない。
高校を卒業してから約10年ぶりの全力疾走は、俺の体力をガリガリと削ってゆく。
そして生まれて初めて、基、死んで初めてのストリーキングに俺の精神も削られていく。
「さっさと逃げろよノロマー。普通に当てたんじゃつまんねーだろ。ぎゃははははー。」
「魔神様は足が遅いですかー♪クソの魔人族の神様じゃしょうがないでちゅねー♪」
「クソがとっとと避けろ!俺のばっか避けやがって。次避けたら炭にすんぞ!」
「ぎゃははは。それはオメーが下手くそだからだぁ。」
どうやら楽天的に考えてる時間は終わりのようだ。
気持ちをリセットするにはコレが一番だ。
客観的になれる。これが社畜としての過酷な日々から、自らを守るために身につけた技術だ。
他人事なら「大変だなー」位に思える。俺は下衆野郎だからな。
しかし、コレには限界がある。どう頑張っても最終的には自分事になるからだ。
…………………つーか無理だろ。こんなの!何冷静ぶって斜に構えてんだよ‼
さっきから火の玉をぶちこまれて、転がって、逃げて、また、ぶちこまれる、の延々ループじゃねーかよ‼
絶対に奴等は殺す。
絶対にだ!
オーケー。大分クールダウン出来た。
さて、思考を切り替えろ。
いい加減疲れと痛みで身体が限界だ。どれだけの火の玉をぶつけられたのか、最早覚えていない。
あれは、やはり魔法なんだろうな。
だとしたら、此処は地球ではないかもしれないな。
いや、今最優先で考えなくてはならない事はそこじゃないだろう。
どうすれば奴等を殺せる。
いや、それも違うな。
まずは自分をどうやって救うのかか?
奴等は俺を殺さない。
何かに利用する気だ。しかし手足は持っていかれる。それでは逃げる事も出来なくなってしまう。
それでは困る。復讐がやりにくい。
「おーら、もっと早く走れよ。楽しめねーだろ!」
駄目だ。いくら逃げても直ぐに追い付かれる。身体能力が違いすぎるんだ。
いや、あれも魔法なのか?
どうやったら使える?
「おい、誰かそろそろ手足飛ばせよ!豚がご立腹みてーだぞ」
はっ、コイツ等もそう思ってんのか。人望ないんだな。つくづく、どっかの上司とそっくりだ。
振り向いてる余裕がないから、その姿を拝めないのは残念だが、精々テメー等にお似合いの上司なんだろうよ。
「ぜぇ、かはっ………いい加減にしやがれ。何でこんな目に合わなきゃなんねーんだよ!」
駄目だ。息が続かない。
こうなったら、体力を使いきる前に情報を引き出すしかない。
「………………」
なのにコイツ等は可笑しそうにお互いの顔を見ている。
次第に汚ならしい笑みを浮かべ、終いには笑い声をあげはじめた。
「あーーーひゃ、ひぃ、コイツ、命乞い始めやがった。」
「ククク。傑作だな。魔神が命乞いだってよ」
息も絶え絶えの俺には理解出来ない。
ああ、そうだよ。解ってたはずたったんだよ。
テメー等みたいな人間が、俺のような最底辺の奴にどんな反応するかなんてな。
期待する事事態か間違いだ。
でも今の俺には他に選択肢なんてないんだ。
だったら、どんなに笑われてでも情報を聞き出してやる。
「ひゃ、ひゃ、、ひーは、笑わして、貰った、ひぃ、礼に、教えてやるよ。ひゃっ、ひゃっ、テメーは俺達が魔法を使う為の道具だよ!」
何言ってんだよ?魔法ならテメー等もう使ってるだろ。
しかし、コレはラッキーだ。
奴等勝手にべらべら喋り始めた。
「長かったぜぇ。エリート街道の俺等がこんな田舎に飛ばされて、クソみてーな扱いうけてよ」
テメー等はクソ以下だ。
「これであの売国奴共に復讐出来る。あの売女共にもなぁ。」
「ああ、あの聖女面した女をメチャクチャに出来ると思うとゾクゾクするぜ。」
「へへへ、薬漬けにしてぶっ壊れるまで犯してやる。」
どうやら度しがたい下衆野郎の集まりだったらしいな。ニタニタと汚ならしい笑みを溢して最低な会話を楽しんでいる。
正直こんな奴等となんか会話なんてしたくはない。
しかし、肝心の情報が得られていないのだ。仕方がない。
もう少し詳しく聞き出す必要がある。
「魔法ならアンタ等だって使ってんだろ。何で俺がいるんだよ?」
さぁ、それの情報をよこせ。
「はぁ、俺等のが魔法?コイツ、馬鹿じゃねーの!」
「魔女が言ってた"出来損ない"ってのはホントらしーな。」
「おいおい、それ大丈夫なのかよ?例の装置が使えなかったら台無しだぞ!」
なんだ?急に慌て出したぞ!
「そーだ!試さねーままコレが眉唾だったら?」
「失敗して俺等処刑されるな」
「チッ、あの豚は使えねーなぁ」
ヤバい!全員顔がマジになった。
俺を連れて行く気だ。
急いで身体を起こし駆け出す。
こんな見晴らしのいい草原に隠れる所なんてない。しかし、この状況はまずい。
正直、奴等の会話の殆んどは理解出来ていない。
だが、このまま連れ戻されれば例の装置って奴の実験をさせられる。
そしたら最後だ。成功しようが失敗しようが結果は最悪しかない。
いや、違うだろう。恐らくは、しかし、ほぼ間違いなく失敗に終わる。
さっきから人の事を『魔神』だとか言っているが、俺は人間なんだ。
計画が失敗に終わるのはザマーって気はするが、その怒りの矛先は俺に向く。
クソ!ドジを踏んだ!
情報を引き出すはずが自分から状況悪くしちまった。
そんな事を考えて走っていたら後ろから髪を掴まれた。
「ぐぅ」
足が浮く。持ち上げられてるのか?
声なんて漏らしている場合じゃなかった。
「無駄な手間かけさせてんじゃねー!」
顔面を地面に叩きつけられた。
「がはっ」
鉄の味がする。鼻呼吸出来ない。
盛大に鼻血を出しているのがわかる。
俺はそのままの状態のまま髪を掴まれて引きづられていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺はズタボロの状態で豚の前に放り出された。
豚は馬車の横で派手な椅子に腰掛けていた。
顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
「なんだコレは!まだ、腕と足がついているでわないか?一体今迄なにを遊んでいたのだ?」
豚は短い足で地団駄を踏んでいる。
滑稽な姿なのだか今の自分の情けない姿と心境では笑う事は出来ない。
「いやーブルート様。この魔神は思いの他頑丈でして。これ以上、火法の威力を上げますと殺してしまいます。」
「チッ!使えん奴等ばっかりだ‼」
言われた男はなんとか作り笑いでお茶を濁している。
「所でブルート様。そろそろ実験の方を行ってはいかがでしょうか?」
「実験~?」
「はい。」
「その通りです陛下。」
参謀らしき手下が会話に加わる。
「考えてみてください。万が一にもこの魔神が魔神でなかったのなら、例の装置が失敗作なら。我々は今度こそ処刑されるでしょう。」
豚の震えが全身に伝播していく。
処刑に対する恐怖で。では、ないな。
恐らくは怒りで。
自分に楯突かれたことが許せないのだろうな。
しかし参謀は止まらない。
「そもそも魔女は信用に足りません。もしかしたら陛下を亡き者にしようとする何者かの策略かもしれないのです。」
「詰まりは何か?我はその魔女ごときに騙された間抜けだと、そう言いたいのか?」
俺としてはそう合って欲しい。
要済みなった俺が殺されるのは変わらないだろうが、精々道化を演じたコイツ等を笑ってやりながら死んでいこう。
「このまま民衆の前で作戦を決行し、失敗に終わればそう呼ばれるでしょう。そうならないために今、実験を行うのです。」
普通に考えて前もって作動確認するなんてのは当たり前の事だ。
それをコイツ等に気付かせてしまったんだ。
あぁ、余計な事しっちまったなぁ。
それさえしなければ生き残るチャンスだったのにな。
いや、止そう。
死んで良かったんだ。
元々、今日俺は死んだはずだったのだ。
人生に意味も希望もなく、快楽も感じられなくなった俺に生きる価値はなかったんだ。
いや、意味は合ったのかな?
復讐という意味は。
どちらにしろ、ろくなものではない、かな。
今頃アイツ等はどうしてんのかな?
精々苦しんで、後悔して、懺悔してくれてっかな?
……………………
ないな。
俺のせいで‼とか、言って怒鳴ってんだろうなぁ。
「そこまで言うならやらせてやる。しかし、我に楯突いたこと覚えておくからな!」
こんな奴に殺されるなんてな。遺憾としか言い様がねーな。
しかし、やっぱり俺には居場所なのかないんだ。
なら、この後殺されるのは良かったんだよな。
こんな自分のまま生き残るなんて耐えられないからな。
そう考えればコイツ等のことも許せるかもな。