中の人!?
部屋に戻ると、すでにミズキは寝ており、その頭をビアンカが撫でていた。ずっと待っていたみたいだな。
「レアと話してたの?」
「ああ。俺と墓まで共にする必要はないからな。もう独り立ちするころだ」
「・・・特攻隊の言う台詞よ。死ぬ気はないんじゃないの?」
「もちろん、死ぬ気はない。けど、人生何が起こるか分からないからな。あらゆる状況を想定しておかないと」
「はぐらかさないで。何をするか、教えなさい!さもなければ、明日はこの部屋から出さないわよ!」
俺の手首を強く握り、俺を睨みつけるビアンカ。これは、嘘をつける雰囲気じゃないな。だけど何て説明すればいいんだか...。
「俺、実は天使なんだ!英雄育てるために、あの世から派遣されてるんだぜ!」
なーんて言った日には、真面目に精神が病んでないか心配されるだろう。どうしたもんだか...。
『ふっふっふ。お困りのようだね』
そんな俺の様子を見ていたのか、部長が声をかけてきた。この人、暇なのか?俺に話かけてる暇があれば、手伝えばいいのに。
『酷いなー。僕は君に、救いの手を差し伸べようとしてるのに』
『それなら、早く言ってください。頭と口で同時に話すなんて器用な真似、あまり続けられませんから』
『それなら、トイレとか言って、少しの間退出してよ。簡単に説明するから』
『了解。少し待っててください』
とりあえず、外に出るか。あまり待たせるのも悪いし。
「あーっと、ビアンカ。トイレ行ってきていいか?レアと話してた時から我慢してて、そろそろ限界だ」
「・・・はあ。早く帰ってきてね」
悪いな、と一言謝ってから、部屋を出て行く。救いの手って、何だろうな。うまいはぐらかし方でもあるのか?
『もうさ、そのビアンカって子。こっち側に引き込んじゃいなよ』
『・・・冗談は顔だけにしてください』
部長のあまりにも突飛な発言に、思わず昔のCMのフレーズを使ってしまった。何だっけ、これ。
『駄目かな?お前一人だけを、携帯して走り出すーって』
『駄目じゃないですけど...。どういった経緯で、そんなことを言い出したんですか?今この世界を生きている者を、神界に連れて行くなんて』
『彼女って、かなり長生きしてるんだよね』
『はい。エルフは長寿なので、数百年は生きてたらしいですけど』
『そんだけ生きて、偉業も成し遂げてるんでしょ?天使の素質としては、十分だと思わない?』
偉業って・・・時空間魔術か。潰されたみたいだけど、確かに偉業だな。能力も申し分ないし、確かに天使にはなれそうだけど...。
『そんじゃあ、ビアンカを殺せって言うんですか?殺して、神界に送れと』
『そうするしかなかったんだけど、別の手段もある。運よく、君がそのための物を持っているみたいだからね』
『そんなもの、ありましたっけ?どれですか?』
『君が、向こうの大陸のピラミッドでもらった、あの石。それで、あの子を強化できるよ』
ピラミッドでもらった石って...。中の人がくれたやつか。一応、毎日気を注いではいるが、どんな物かは見当もつかない。・・・ビアンカにあげちゃって、いいかな?
『勝手に決めるなー!せめて、許可を取らんか!』
どこからか、中の人の声が聞こえてくる。って、俺たちの会話に割り込んでくるって、どういうことだよ!?この会話を使えるのは、神様と天使だけ...。・・・まさか。
『あなた、神様なんですか?』
『・・・バレてしまっては仕方ない。いかにも!私は、天にその名を知らぬ者はいない、不死神のジェイライグリン様じゃ!』
『・・・神様って、基本不死ですよね?不死の神って言われても、いまいちピンとこないんですが』
『そういうことではない!不死種が崇める神だということだ!お主が従えておった、あの吸血鬼やリッチが奉っているのじゃ!』
『そんな神様が、なんであんな辺鄙な地下にいたんですか?そんな神様なら、神界で聞いたことくらいはあると思うんですが』
『そ、それは...。若かりし頃に、少しやんちゃしすぎたというか...。悪戯ばかりしてたら、頭を冷やせと封印されたというか...』
『石に気を注げといったのは、封印を解かせるためですね。けど、俺一人の力で解けると思ってたんですか?』
『多少綻びが生まれれば、後は自分で解除できたんじゃ!お主程度の気で解けるのなら、最初から自分でやっておるわ!』
『・・・そうっすか。それで、この石は何なんですか?ずいぶん大切そうですけど』
『・・・そいつは、私の核じゃ。人でいうと、心臓にあたる部分じゃな』
この神は、人に心臓預けてたのか!?こいつ、とんでもねぇ馬鹿だ!
『なんで最初に言わないんですか!?』
『言ったら、預からんじゃろう!天使なんじゃから、そんくらいせんか!』
まったく、この馬神様は...。天使は消耗品じゃないのに。最近は、優秀な人材が減ってきてるのに、そんな扱いされたら、あっという間に枯渇してしまうぞ。
『まあまあ、そのくらいに。それで、この核をあげちゃってもいいですか?』
『いいぞ。ただし、私を神界に戻せ。それが条件じゃ』
『分かってますよ。上からも許可はもらっています。核がビアンカに摂取されしだい、神界に送ります』
『うむ、了解した。ちゃっちゃと邪神を倒して、さっさと戻ってくるがよい』
長い時間ビアンカを放っておくわけにはいかないので、そそくさと部屋に戻って行く。
「遅かったわね。何やってたの?」
「いやー。最後に残ったやつが、しつこくってな。うまく出なかったんだよ」
「そう。じゃあ、何をするのか教えなさい」
「・・・教えるには、条件がある。この石は知ってるだろう?」
ビアンカに、不死神の核を見せる。一緒にいたから、見ていたはずだ。
「ええ。地下の遺跡で、リューがもらった石でしょう?毎日気を注げって、言われてたわね」
「ああ。これを、ビアンカに飲み込んでもらいたい。そうしたら、俺の全てを教える」
「・・・それは、あなたの異様さに関係あるの?」
「あるだろうな。言っておくが、こいつを飲んだら、もう後には戻れない。それでもいいのか?」
神界に行くことは、世界を見守るということ。基本的に、他の世界には干渉出来ない。俺は、特例中の特例だな。
ビアンカが断るかもしれないのに、こんなことを言ってもいいのか、と思う俺もいる。一体何のことを、言ってたのかって追求されたら、ごまかしようがない。まあ、思っているっていっても、1ピコぐらいだけどな。
「・・・いいわ。何のことだかサッパリだけど、やってやろうじゃないの。リューと一緒なら、私はどんなことだって出来るわ」
「・・・そうか。ほら、これを飲みこんでくれ」
石を渡すと、ビアンカは躊躇なく飲み込む。しばらく黙って待っているが、特に何か変わる様子はない。
「・・・何か変わったか?」
「・・・ええ。頭の中に、変な物が出てきたわ。スイッチみたいよ」
「スイッチか...。なら、OKだ。俺が許可するまで、絶対に押すんじゃないぞ。絶対にだ」
「ずいぶん念を押すのね。分かってるわよ。それじゃあ、洗いざらい吐いてもらいましょうか。あなたの全てをね」
「分かってるよ。色々突っ込みたくなるだろうが、まずは黙って全部聞いてくれ」
そうして、俺はビアンカに語りだす。嘘偽りなく、本当の自分を。