相談
「それで、一体俺に何の用なんだ?わざわざ、こんな所まで呼び出すなんて」
レアを引き離して、ようやく話し始めることが出来た。話されたレアはというと、
「リュー...」
とか言いながら、俺をじっと見つめている。そんな、雨の中に捨てられている子犬のような目をしても無駄だぞ!今は大事な話の最中なんだ!後で話すから!
「すまんな。あまり帝国には関わらせたくないんだが、こんな事態だ。勘弁してくれ」
「気にするな。俺だって、何が起こっているのかサッパリなんだ。教えてくれるか?」
「もちろんだ。ラルカ」
グルドが呼ぶと、ラルカさんが分厚い書類を持ってくる。
「お久しぶりです、ラルカさん。お元気でしたか?」
「ええ。特に病気もすることなく、至って健康体よ。リュー君も、怪我とかしてない?」
「そんなに大きいのはしてませんよ。その書類は?」
「王国北方面に突如出現した生物共、異形についての報告書よ。時間がないから、無駄なものを添削はしてないけど」
だからそんなに分厚いのか。それにしても、かなりの量だな。どんだけ隠密を放ってるんだ?
「戦況はどうなっている?」
「かなり悪いわね。異形は連携攻撃はしてこないし一体一体は弱いけど、数が多すぎるわ。まだ増えているみたいだし、元から絶たないとこの大陸は終わりよ」
「そこまで酷いのか...。リューは、どうすればいいと思う?」
「どうすればいいって...。そりゃ、元凶を倒せばいいんじゃないか?」
「そうだな。それが一番だろう。そこでだ。リューに、親衛隊と元凶を倒してきてほしい」
「俺と親衛隊で?・・・親衛隊だけじゃ、駄目なのか?」
「戦力的に、少し不安だ。信用しているが、保険をかけておきたい」
「それが俺か。うーん...。連携が心配だけど、そこらへんは分ければ問題ないかな?・・・分かった、その話。受け」
グルドからの依頼を受けようとしたその時!
『その話、待った待ったー!!!』
「させてっ!?」
謎の大声が、俺に降り掛かる。突然のことに、思わず声が裏返る。
「どうした?何か都合の悪いことでも、あったのか?」
「い。いや。そういうわけじゃないけど...」
『行かせちゃダメだからね!彼らは、こんなところで死んじゃいけない人たちなんだよ!』
謎の声は、まだ続いている。いや、もう誰かは分かってるから、謎じゃないんだけど...。とりあえず、この声に従っておこう。
「少し考えさせてくれ。一人になりたいんだけど、どこかいい場所はないか?」
「それなら、部屋を用意させよう。命にも関わるだろうからな。ゆっくり考えてくれ」
これでいいのかな?さっさと話を聞きたい。その部屋に行くとしよう。
グルドが用意してくれた部屋に入る。扉の前の兵士には、下がっててもらう。扉に鍵をかけて、準備は完了だ。
『ふう...。いきなり声をかけないでくださいよ。ビックリするじゃないですか』
『ゴメンゴメン。でも、絶対行かせちゃいけないからね。あのくらいは許してほしいな』
まったく部長は...。いつも唐突なんだから...。前もって言っといてほしいよ。
『それで、一体何が起こってんですか?魔王ではないですよね?』
『より酷いよ。邪神が召還されたんだ』
『邪神が!?・・・それは、予定内なんですか?』
『そんなわけないじゃん。わざわざ育てた英雄を、殺すなんて。というか、だいぶ予定も狂ってたしね。別の大陸に行ったり』
『そういえばそうでしたね?想定はしていましたか?』
『もちろん!あらゆる状況を想定しているよ』
それなら一安心だな。想定しているなら、対応策もあるはずだからな。
『そっちから帰ってもらうよう言っても・・・無駄ですよね』
『そうだねー。邪神様たちにとって、かなりの大仕事だからねー。そうやすやすとは帰ってくれないだろうね』
普通の神様。いわゆる善神には、それぞれのお仕事がある。水の神なら水量を調整したり、豊穣の神なら天気とかをコントロールしたりな。でも、邪神にはそれがない。毎日することがないんだ。
だから、召還は滅多にない大仕事。何もしないで帰るなんて、絶対にしないだろう。
『対策はあるんでしょうね?』
『君に天使としての力を戻す、っていうのがあるけど、それじゃあ倒せないよねー...』
『当たり前じゃないですか。天使が神様に勝てるわけないでしょう』
『そうなんだよね...。神を倒せるのは、神と神獣。神殺しの武器もだね。他にも案はあるけど、聞く?』
『もちろんですよ』
「お、リュー。もういいのか?」
部長と話を終えた俺は、グルドのいる部屋に戻ってきた。部長の言う通りなら、これでこの世界は助かるはずだ。
「ああ。俺に、別の作戦がある。こっちのほうが確実だし、なにより犠牲が少なくなると思う」
「そんな作戦があるのか!?どんなものだ!?」
「・・・悪い。言えない」
言うことは出来ないし、言っても信じないだろうからな。言えないで押し通すしかないか。
「・・・どういうことだ?言えないようなものなのか?」
「ああ。非人道的なことはしないぞ。そういう類いのことじゃないんだ」
「・・・俺にはよく分からないが、リューは嘘をつくような男じゃない。勝算もあるんだろう。・・・分かった。リューに任せる」
「悪いな」
俺の気持ちが通じたのか、グルドは何も聞かないでくれた。後は、俺が頑張るだけだな。
「ちょっと待って!何で何も聞かないの!?どんなことをするのかも分からないのよ!」
「それはそうだが、リューがこれほど断言するんだ。何か策があるんだろう。リューを信用出来ないのか?」
「信用してるからこそ、心配なのよ!良いほうにも悪いほうにも、期待を裏切らないんだから!」
酷い言われようだな。否定出来ないのが辛いところだけど。
「大丈夫だって。絶対、犠牲は出さないから」
「・・・絶対よ」
ビアンカは渋々納得してくれたようだ。後でフォローを・・・その前にレアか。忙しいな...。まあ、気張っていこうか。
作戦の決行は明朝となった。今晩ゆっくりと体を休める為の計らいらしい。死ぬかもしれないからな。大切な人と話す時間が必要なんだろう。
俺もレアたちと話したかったから願ったり叶ったりだ。久しぶりに話すからな。ちょっと楽しみだ。
レアの部屋のドアをノックすると、「誰ですか?」とレアが尋ねてきた。いつもより冷たい感じの声。俺に抱きついた時、親衛隊の人たちが驚いていたな。心を開いてない人への対応は、かなり冷たいんだろうなー。
「俺だよ。入っていいか?」
「リュー!?ちょ、ちょっと待って!」
部屋の中から、大きな物音が聞こえてくる。十分ほどで中から「は、入っていいよー!」と声がかかる。
中は、俺の部屋とほぼ同じだった。変わっているとこといえば、机の上に化粧品らしき物があることだろうか。女の子らしくなったなー。
「・・・改めて、久しぶりレア。親衛隊はどうだ?」
「みんな良くしてくれてるよ。公爵の娘だって、気にしないでくれるし」
「・・・お父さんと会ったのか?」
「・・・うん。いい人だったよ。でも、父親とは思えなかった。血がつながっていなくても、やっぱり私のお父さんはリューのお父さんだよ」
「そうか。親父に言ったら、涙を流して喜ぶだろうな」
「そうだといいな。それで、リューはどうして行方不明だったの?あの女の子は?」
「ああ、それを説明しにきたんだ。俺が冒険者になりたての頃だったな...」
そうして、レアと共にする久しぶりの夜が始まった。