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異変


翌日。日が少し昇った頃に目が覚める。いつもより少し早い起床だ。その理由は、

「・・・ああ、くそ...。まじでだるい...」

昨日のビアンカ戦で魔術を撃ちまくったせいか、一晩休んでも魔力が回復しないのだ。だからだろうか、体が重く疲れている。こんな状態でシャネルちゃんに勝てるだろうか?いや、勝てない!

「はあ...。棄権すればよかったかも。せめて、もう一日休ませてくれよ...」

そう言いながら、重い体を引きずりノロノロと着替え始める。気が重いな...。






朝食を終えて、競魔場へと向かう。到着すると、そこはまさにお祭り騒ぎだった。

昨日の評判を聞きつけた人たちが競魔場に詰めかけ、そいつらを狙った商人たちが屋台を並べている。競魔場内はすでに満席になり、立ち見の人で埋め尽くされてしまい、入場制限がかけられている。そのため、外から大きな映像の魔術具で試合を見ようとする人たちが、そこらじゅうでたむろしている。やばい...。棄権出来るような状況じゃない...!

「すごいですねー。昨日はこんなにありませんでしたよ」

「それだけ兄者たちの試合が良かったということだな!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今日に限っては迷惑だ!」

本気で中止になってほしい!どうすればいいんだ!?教えて、ビアンカ先生!

「そうね...。雨くらいじゃ中止にはならないだろうし...。クーデターでも起こせば?国王暗殺とかいいんじゃないかしら?」

「冗談でもそういうことを言うのは止めてくれ。冗談に聞こえない」

「ひどいわね。じゃあ、リューにはいい案でもあるの?」

うーん...。そんなのがあるかな?・・・そうだな。

「・・・魔王でも来ないかな...」

『・・・』

みんなに引かれた。いや、だってそんくらいじゃなきゃ無理だろ。

「さすがにないです...」

「やり過ぎだと思うぞ」

「それこそ冗談じゃないわよ」

「ええー...。別にいいじゃん、魔王。勇者が倒してくれるよ」

倒せない魔王はいない。それがこの世の理、お約束だからな。倒されることによって、魔王は魔王足らしめられるんだと。空しい運命だな。

「いい加減観念して、試合に備えなさい。少しでもマシな試合が出来るようにね」

「・・・そうだな。マトモな試合をしないと、何をされるかわかったもんじゃない」

ゴミとか投げられるんだろうなー...。田舎に帰れー、とか。ほんと、気が重いわ...。

中止になってくんないかな...。魔王でも何でも来い。大会が中止になるなら、何でもいいよ...。






控え室に入り、試合の準備をする。着替えはさっきトイレで済ませてきた。誰にも見られてないはず。

シャネルちゃんは、俺から離れたところで静かに座っている。俺のことなど、まったく脅威に思ってないみたいだな。まあ、昨日あんだけやったんだから、今日は全力は出せないと思っているんだろう。実際そうだし。もう俺だとばらしちゃおうか?・・・そうすると、色々めんどくさそうだ。諦めて、少しでも魔力を回復させておこう。



<side シャネル>

昨日の試合。仮面同士の戦いは、想像を絶するものだった。他の奴らより強いとは思ってたけど、まさかあそこまで強いなんて...。

それに、もしかしたら。もしかしたら、あの二人はリューとビアンカかもしれない。魔術が似ていたわ。

けど、違う所のほうが多いのよね。リューが一番得意な魔術は火だし、ビアンカはあんなに近接戦闘は出来ない。狐は風と闇、鬼は水を使ってた。力を抜いているようには見えなかったし。

私に声をかけなかったことも、腑に落ちないわ。しばらく会えなかった恋人同士が再会したら、普通声をかけるでしょう!気づかなかったのかしら。結構髪がのびたし、雰囲気も変わったらしい..。

まあ、戦ってみたら分かることだわ。そもそも、リューかどうかすら怪しいんだから。リューだとしても、戦い方を見れば私だと気づくはずよ。・・・気づくよね?









あっという間に、試合開始の時間となった。俺は、入場口に立っている。

「さあ、ゆやくこの時間がやって参りました!武道大会、決勝戦です!昨日の試合で破壊された舞台は、王国の建築部隊により見事修復されました!」

直された部隊は、中心と端の部分で色が違う。あれを一晩で直すのに、どれだけの金が動いたんだ...?請求されなくて良かった...。

「天気は快晴、絶好の試合日和ですね!それでは、選手の入場です!盛大な拍手でお出迎えください!」

俺たちが中に入ると、耳を割るような歓声と大量の視線に、思わずたじろきそうになる。慣れてないんだよ、こういうことには...。

それを理性でねじ伏せて、部隊へと歩いていく。大丈夫、慣れれば大して感じない。

舞台に上がって、向かいのシャネルちゃんを見る。準備体操をして、戦う気満々だ。うーん、勝てる気がしない。中止には・・・ならないよな。精々、無様に負けないように頑張んなきゃ。

「準備はよろしいですね!?それでは」

試合の。

「試合」

始まりの合図が上がると同時に

「開始!」

空が闇に覆われた。







まるで夜。いや、それ以上の暗さに観客らが困惑する声が聞こえる。困惑しているのは俺も同じだけど、暗くなったことに驚いているのではない。俺が驚いているのは、遠くで発生した大きな大きな力。絶対にいいもんじゃない、邪悪な気配。

「リュー!今のは何!?本当に魔王でも出てきたの!?」

ビアンカが客席から舞台へと飛び降りてくる。シャネルちゃんとかグルドとか、そんなことを気にしている場合じゃない。これは本当にマズい。神界での修行よりマズい。

突然の事態にどうすればいいか困惑していると、空に白い点が見えた。闇によって空は黒く染まっているので、かなり目立つ。

白い点はだんだん大きくなっていく。こっちに飛んできてるのか?

近づくにつれて、シルエットがはっきりしてきた。あれは・・・鳥?いや、それにしてはデカすぎる。もしかして、竜か!?こんな時に、一体どうして!?

飛んできた真っ白の竜は、競魔場の上空で止まり、舞台の上に降りてきた。この異常事態に竜まで加わって、観客はパニックになり我先にと出口へと逃げ出している。

俺とシャネルちゃんはというと、武器を構えて臨戦態勢をとっていた。俺たちで注意を引いて、被害を最小限にしないと!

着陸した白竜は逃げ惑う観客を見た後、俺に向かって

「リュー、大変なんだよ!変なのがいっぱい出てきたんだよ!」

と言い出した?・・・あ、

「もしかして、白雪か!?」

「そうだよ!酷いよ、忘れるなんて!」

野外演習の時、名前をつけてやったあの竜か。大きくなったな。全長10mくらいはあるんじゃないか?

「って、そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!いいから一緒に来て!」

そう言って、体をかがめる白雪。これは、背中に乗れってことなのか?

「一体なにがあったんだ?この空に関係あるのか?」

「分かんないけど、多分関係あると思うよ。空みたいに、すごい気持ち悪いから」

白雪の背中に乗る。少しゴツゴツしているけど、温かくてスベスベしていい感じだ。

「ちゃんと乗った?それじゃあ、飛ぶよ!」

白雪が足に力を入れて羽ばたくと、風が巻き起こりその巨体が宙に浮く。背中の上は安定していて、まったく揺れない。

そのまま上空へ上がり、北に向かって飛び始める。さて、何が起こっているんだ?






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