続vsビアンカ
俺が走りだすと同時に、氷の槍が俺のいた場所に降り刺っているのが見えた。ああはなりたくないもんだな。
そんなことを思っているうちに、別の槍が俺を迎撃しようと正面から飛んでくる。少し右にそれて避けると、いつの間にか槍が左側に接近している。くそっ、気づかなかった!
急ブレーキをかけて後ろに飛んでかわすも、着地する前に槍が俺を穿とうと前方から迫る。
避けても避けても飛んでくる槍。前に進もうとするが、槍に阻まれどんどん後ろに下がっていく。
・・・俺の動きが全部読まれているな。このままじゃ舞台の際に追いやられて、場外負けか槍に貫かれるかの二択だ。流石はビアンカ、と言うべきなんだろうが、そんな暇はないな。
舞台は床に刺さった氷の槍で埋め尽くされて、足の踏み場も無い。・・・いや、踏み場は必要ない。これならいけるか?もう考えてる時間はないし、賭けてみるか!
<side ビアンカ>
槍を撃ち続けること十数分。ようやくリューを、舞台の際に追い詰めた。途中からは私の槍を避けるので精一杯みたいだったけど、何か考えがあるんでしょう。こんなもので終わるような人なら、私はついていかないわ。
今の乱射でだいぶ魔力を消費してしまったわね。もう半分もない。集中のし過ぎで頭が痛いけど、まだ保つわ。何をたくらんでるか知らないけど、ここで一気に決める!
後ろに待機させておいた槍を、全てリューに向ける。これだけの数の槍をあの狭い場所で、全方位から撃たれたら、いくらなんでも捌ききれないはず。避けた時を狙って、高火力の魔術を命中させる!
槍たちがリューに向けて飛翔する。さあ、これをどう凌ぐの、リュー?まさかこれで終わりってわけじゃないでしょう。
リューは飛んで来る槍を見ても、まったく動こうとしない。どうしたの?早くしないと、槍に貫かれちゃうわよ?
槍がリューの目前に迫っても、未だに動かない。もしかして諦めた?いえ、そんなわけないわ。絶対に仕掛けてくるはずよ。
リューに槍が刺さろうとしたその時、リューの姿がフッと消えた。槍がリューのいた所を通り過ぎて、舞台の外の壁に刺さる。どこに消えたの!?舞台にはリューの姿は無い。どこに消えたの!?舞台にいたら一目で分かるし...。まさか!?
慌てて空を見上げると、上空に人影が見える。空に逃げるなんて、浅はかね。たしか飛翔魔術は使用禁止だったから、後は落ちてくるだけ。そこを狙い撃ちよ!
槍たちを空に飛んで避けたのはいいが、フライなどの飛翔魔術の使用は禁止されている。落ちているところを魔術で撃たれたら、場外負けは確実だろう。
実際、ビアンカは強力な魔術の準備をしている。俺のことを馬鹿だと思ってるだろうな。飛翔魔術を使わずに、ビアンカが撃ってくる魔術を躱すなんて・・・無謀すぎたかもな。いや、成功させればいいんだ、成功させれば。後悔するのは負けてからだ。
既に体は落下を始めている。ビアンカが魔術を撃ってくるまで、もうそんなに時間は残っていない。さっさとやってしまおう。
アビスウェポンを発動して、武器を生成する。今回作るのは・・・これだ!
「おおっと!?狐仮面選手が巨大な剣を作り出しました!」
大きさ約5mはあろうかという、大剣を作る。高く掲げたその剣を振り下ろす!
ズガアァァン!!!
と舞台に突き刺さる大剣。ビアンカは上手く避けたみたいだ。ここで当たってダウンしてくれれば良かったんだけど、そこまで上手くはいかないか。
そんな俺はどこにいるかというと、剣の柄にぶら下がっている。早く降りないと、俺の魔力が保たない。アビスウェポンの消費魔力は、作ったものに比例する。こんだけ大きな剣だと、五分も出していられないだろうなー。
刃の上を滑り降りて、舞台に着地する。と同時に剣も消す。あー、辛かった。
「あんな剣を作って降りてくるなんて...。驚いて、魔術を撃つのを忘れちゃったわよ...」
なぜかビアンカが疲れたような声で、ジト目で俺を睨みながら文句を言ってくる。俺に言われても困るんだが...。
「もう疲れたわよ...。いい加減終わらせましょう」
「それもそうだな。最後に一発勝負。それでいいか?」
「いいわよ、それでいきましょ」
お互いに舞台の端にまで下がり構える。一発だから、魔術の撃ち合いになる。これが最後ではないが、もうこんな機会もないだろう。正真正銘、全魔力をつぎ込んだ全力前回の魔術をお見舞いしてやろう。
テンペストとトネールスマッシャーを発動して、混ぜる。緑と黄色の魔力が混ざって、黄緑に。それに闇の魔力を注ぐと、どす黒い黄緑色の魔力の塊が出来る。これでいいかな?あとはビアンカを待つだけ。
「・・・出来た。いいわよ、リュー」
「おう。すいません、合図してもらっていいですか?」
司会の人に合図を頼む。惚けていた司会の人は、俺が声をかけて数秒たってから
「え!?あ、はい!合図ですね!?では一、二の三で!」
再起動した。至近距離であんだけの魔術を見せられたんだ。固まるのも無理はないだろう。つうか、よく気絶しなかったな。プロって凄い。
「それではいきますよ!一!二の!三!」
三!で、魔術を発射する。俺は黒い雷をまとった竜巻。ビアンカは三つの細い氷の竜巻が、集まって巨大になった物。二つの竜巻がぶつかると視界が真っ白く染まり、俺の意識はそこで途絶えた。
目が覚めると、そこは控え室だった。どうやら長椅子に寝かされているようで、横にはビアンカが寝ている。
起き上がって首をまわすと、バキバキと音が鳴る。けっこう寝てたみたいだな。
「あ、狐仮面さん。起きましたか?体に何か問題はありませんか?」
司会の人が入ってきたのだが...。えっと...。
「それはこちらの台詞なんですが...。大丈夫なんですか?」
司会の人は頭に包帯を巻き、腕は吊られていた。足にも怪我を負っているようで、引きづりながら歩いている。俺たちより酷い怪我じゃん!
「あ、これですか?平気ですよ!医者が大げさに巻いただけです」
「それならいいんですけど...。それで、一体何があったんですか?気絶したから分からなくて」
気絶したのは、俺たちの撃った魔術のせいだろうな。司会の人の怪我も。
「ああー...。簡単に言いますと、舞台は半壊。国が全力を上げて修復してますので、明日には決勝戦が出来ると思います」
「・・・半壊ですか...。どんな風に?」
「両仮面選手の魔術が衝突した、舞台の真ん中辺りが消失しています。賠償とかはないので、そこんところは安心してください」
「そうですか...。すいません、折角の大会をめちゃくちゃにしてしまって」
「いえいえ。むしろ、あんな凄い魔術を見せて頂いて、ありがとうございました。観客の方達も、とても興奮されてましたし」
「そう言ってもらえると、ありがたいです。勝敗はどうなったんですか?」
「えっと、確か鬼仮面さんのほうが少し早く地面に体が着いたらしいですから、あなたが決勝戦に進出することになりますね」
「そうですか、分かりました。今日はこれで帰りますね」
「はい。今日はよく休んで、明日に備えてくださいね」
ビアンカが目を覚ますのを待って、俺たちは競魔場を後にした。勝てるかな、シャネルちゃんに...。