予選
「ふう。緊張したな」
武道大会の受付を済ませた俺とビアンカは、適当にブラついていた。ミズキたちを探さなきゃいけないしな。
「なんであんな名前にしたのよ...。恥ずかしいじゃない」
「名前なんて、何でもいいだろ。俺に任せたってのは、そういうことだ」
「もっとマシなのはなかったの...?はあ、気が重いわ...」
今さら言われても、どうしようもないのにな。
「そんなことより、タマモとミズキを探そう。早めに合流しておきたい」
「・・・そうね。どこにいるのかしら?」
出店を見て回ってるんだろうけど、たくさんあるしな...。とりあえず、俺たちも見て回っていこうか。
祭りを見ていくこと数十分。ようやくミズキとタマモを見つけることが出来た。ミズキは両手に食べ物を抱え、タマモはどこか疲れたような顔をしていた。
「おつかれさま、タマモ。こんななかを引っ張り回されて...。よく頑張ったな」
「はあぁぁーー...。疲れました...。あっちこっちに連れてかれて、置いてかれないようにするので、精一杯でしたよ...」
「ミズキ、楽しかった?」
「ああ!すっごく楽しかったぞ!これがおいしいんだ!」
そう言って俺たちに見せたのは、串焼き肉。茶色いタレがかかっていて、スパイシーな香りがする。
「よかったな。けど、口の周りが汚れてるぞ」
ハンカチをだして、ミズキの口を拭う。しっかりしてると思ったら、少し抜けてるんだから...。
「むぐ...。すまない、兄者」
「いいよ、別に。それより変な目には合わなかったか?アホな奴に絡まれなかったか?」
「大丈夫だ。兄者たちは、何をしてたんだ?」
「武道大会の受付をすませてきたの。空いてるうちにしておきたかったから」
「武道大会に出るんですか。応援しますね!」
「ありがと。でも、俺たちって分からないかもな」
「どういうことだ?」
グルドとロキのこと説明する。ミズキには、仲の良い友達だと言っておいた。
「・・・そうですね。あり得ます、あの二人なら」
「好かれているのだな、兄者は。だが、さすがに乱入は困るな」
「だから、変装することにしたんだ。服は向こうの大陸ので、仮面をかぶってな。ほら、迷宮で拾ったろ」
「ああ、あれか。けど、あんな仮面をかぶるのか?怖いぞ」
「俺は狐の。あの鬼の仮面をかぶるのは、ビアンカだよ。吸血鬼だし、ピッタリだな!」
「ピッタリ、じゃないわよ...。子供が泣くわよ...」
「そ、そんなに怖い仮面なんですか...」
まあ、怒りを表してるしな。でも、同時に苦しみも表してるんだぞ?
「なんにせよ、楽しみにしてますからね!本戦まで勝ち進んでください!」
「観戦してるからな!無様に負けるのは、許さないからな!」
「まあ、予選は突破したいしな。頑張って勝ち残るよ」
それから祭りを見ていたら、あっという間に十五時前になった。そろそろ予選が始まるな。
ミズキとタマモとは、また別行動だ。予選は観戦出来ないんだってさ。見たい人もいなさそうだし。
受付まで行くと、そこには大勢の男たちと少数の女性が集まっていた。みんな武器を携えており、よく使い込まれているのもあれば、真新しい物もある。冒険者や傭兵が集まっているんだろう。
「・・・なんか視線が集まってるな」
「そりゃそうでしょう。浮いてるもの、私たち」
そんな中の着物姿の仮面の二人組は、それはもう目立つ。さっさと始まらないかな...。
「お待たせいたしました!今から武道大会予選を始めたいと思います!」
周りからの視線に耐えていると、ようやく案内の人が来た。黒いスーツを着て金髪をオールバックにしている男性だ。やっとこの中から抜け出せる!もっとマシな格好にすれば良かった!
「今回武道大会に参加された方は、総勢64名です。なので予選は八人ずつ、八グループに分けて行います。くじを用意したので、一人一つずつ引いてください。書かれている数字が同じ人たちと同時に戦ってもらいます。最後に残った一人が、本戦に出場できます」
バトルロワイヤルか。ビアンカと被らないといいな。
くじが回ってきたので引く。俺は八番だ。
「ビアンカは?」
「私は一番よ。被らなくて良かったわね」
同士討ちは避けられた。あとは勝ち残るだけだな。それが一番難しいんだろうけど...。
競魔場の中に連れて行かれる。中には、そこそこ大きな舞台がある。あそこで戦うのか。八人だと少し狭いな。
「それでは、一番のくじを引いた方は舞台へ上がってください」
八人が舞台へと上がっていく。ビアンカ以外は、似たような姿の男たちだ。鎧を着て、剣や斧を持っている。
「原則、相手を殺すのは禁止です。殺してしまった場合は失格になるので、注意して戦ってくださいね!」
殺しちゃっても失格ですむのか。罪には問われないのか?
「もちろん殺した場合は、逮捕しますので逃げないでくださいねー。罪が重くなりますよー」
軽いな!?重くすりゃいいってものでもないけれど!
「それでは・・・始め!」
そう言うと同時に、男たちが全員ビアンカに向かって武器を構える。一人を集中狙いか。こいつら、始まる前に手を組みやがったな。さて、ビアンカはどうするかな?
ジリジリと間を詰めていく七人の戦士を見ながら、ビアンカは動かない。そして、男たちが自分の得物の間合いにビアンカを入れたときに、
「・・・コキュートス」
ビアンカを中心に舞台から氷が発生し、氷山を形成する。男たちは、皆氷に閉じ込められている。また派手にやったなー。
「・・・えっと、生きてますよね?」
「殺しちゃったら、失格になるじゃない。生きてるわよ・・・多分。私の勝ちでしょ?」
「そ、そうですね!鬼仮面さんが本戦に出場です!」
ビアンカが舞台を降りて、俺の方に歩いてくる。氷山を背に歩いてくるその姿は、鬼の仮面と相俟って夜叉のように見えた。
「早く氷の中から出してやれよ。凍死するぞ」
「分かってるわよ。氷の中に閉じ込められるなんて、滅多に体験出来ないわよ」
そう言いながら、魔術を解くビアンカ。一瞬のうちに氷山は消え、舞台には気絶して倒れた男たちが残った。
「それでは、二番のくじを引いた方は舞台に上がってください!スタッフの皆さんは、気絶した方々を回収してください!」
最初のグループから待たされること約一時間。ようやく最後のグループの予選だ。
「それにしても、まさかこの大会に出てるなんてね。こういうことには、興味ないと思ってたんだけど」
「俺たちが出ると思ったんだろ。こうして出てるしな」
何の話をしているかというと、シャネルちゃんがこの武道大会に出場してたのだ。四番目のグループにいて、一瞬で全員を退場させていた。黒髪をロングヘアにして、かなり美人になっていた。なんというか、見違えたよ...。
「すごい美人になってたなー」
「そうね。鋭い刃物みたいな感じだった。目つきも変わってたし、一人で頑張ってたのね...」
「そうだな...。早く会って、いっぱい撫でてやりたいよ...」
「犬扱いね...」
シャネルちゃんもそうしてほしいと思うんだけどなー。会ったら聞いてみよう。
「それでは、八番のくじを引いた方!舞台に上がってください!」
「そんじゃ、行ってくるよ」
さてと。いっちょ頑張りますか。