懐かしの、あの人
お久しぶりの登場です
ようやく放課後になった。廊下には、授業が終わった生徒が溢れている。
タマモは何の授業を受けてたんだ?聞いときゃよかったな。最後まで通ってなかったから、何を受けてるのか分からない。
「ビアンカは知ってるか?」
「知る訳無いでしょ。誰かに聞けばいいじゃない」
それもそうか。誰か知り合いは・・・あ、サン先生が教室から出て来た。ナイスタイミング!
「サン先生!お久しぶりです!」
「・・・リュー君ですか!?生きてたんですね!」
あー、この人も知ってるのか。担任だからな。飛び級のことで、レアたちから相談されたんだろうな。
「あはは、なんとか死なずにすみました。後で説明するので、今はタマモがどこにいるか教えてください」
「タマモさんですか...。たしか、午後は授業はありませんでしたから、図書館か鍛錬場でしょう」
「分かりました。それじゃあ失礼します!今度また会いにいきますから!」
図書室か鍛錬場か。・・・もしかして、さっき鍛錬場で聞いた音って...。・・・早く鍛錬場に向かおう。
<side サン>
リュー君が走り去っていく。ビアンカさんと一緒に待っていた、獣人みたいな子は誰なんだろうか?まさか、ビアンカさんとの子供?
それは追々聞くとして。随分変わりましたね、リュー君。入学した頃から飛び抜けていましたが、さらに洗練されていましたね。
昔のリュー君は、どこかゆるんでいましたからね。油断というほどではないですけど、気を張っていない感じです。
それがなくなった。抜くときに抜き、必要なときにはしっかり張る。メリハリをつけることが出来るようになったみたいですね。
メリハリをつける。これが結構難しい。戦いの場に身を置くほど、気を抜くことが難しくなる。そうして疲れていき、油断を生み死ぬ。
それを自然にやってのけるリュー君は、とても強くなりました。もう私では敵わないでしょう。どんなことがったのか。話を聞くのが楽しみです。
鍛錬場に戻る。いまだ音は鳴っている。よし、まだ帰ってない!
鍛錬場に飛び込む。俺が入るのと同時に音がやんだ。
中は酷い状況だった。床はデコボコ。壁はひび割れ、ところどころ崩れている。鍛錬場を覆う結界は崩壊しており、外にまで被害が及んでいる。
これをやったのは、一人の少女。鍛錬場の真ん中に立っている。彼女のことは俺がよく知っている。
「そこにいるのは誰ですか。入って来たら、危ないですよ」
「そう思うなら止めろよ...。鍛錬場がめちゃくちゃだぞ」
「・・・リューさん!?」
タマモが振り向く。大きく目を見開き、まるで死んだと思ってた人が生きていたかのような...。
「リューさーん!!!」
タマモが泣きながら飛びついてくる。
「どこ行ってたんですか!?死んじゃったって聞いて、すごく心配してたんですよ!」
「ごめん。ちょっと遠くに行かされてな」
「ううう、よかった...。リューさんが生きててよかったぁぁ...」
俺に抱きついて、号泣し始めるタマモ。レアもシャネルちゃんもいなくなっちゃって、俺は死んだと思ってたんだ。心細かったんだろうな...。
「グスッ...。リューさん...」
「えっと、そろそろ離れてほしいんだけど...」
あれから小一時間。未だにタマモは抱きついたままだ。さすがに泣き止みはしたが、強く抱きついて離そうとしない。
人は入って来てないからいいけど、もし誰か行って来たら...。恥ずかしすぎる!
「・・・これは夢じゃないですか?」
「夢じゃないだろ。感触だってあるだろ?」
「・・・私が離したら、逃げ出しませんか?」
「逃げる理由がないからな。俺はタマモに会いに来たんだから」
「・・・もう、いなくなりませんか?」
「保証しかねるけど、今すぐはいなくならないよ。特別なことが無い限り」
「・・・分かりました。絶対に逃げちゃダメですよ」
そう言ってしぶしぶとタマモが離れる。すこし大きくなったくらいで、二年前をほとんど変わっていない。
「久しぶりだな、タマモ。元気にしてたか?」
「・・・そこまで元気じゃなかったです。寂しかったですし、心配で夜も眠れませんでしたから」
「そうか...。悪かったな」
「いえ。それより、何があったかのか教えてください。それが一番知りたいです」
「もちろん説明するよ。けど長くなるから、どこか落ち着ける場所で話そう。サン先生も呼びたいしな」
それからサン先生を呼んできて説明をしようとしたのだが
「何でアルバス先生まで聞くんですか...。面白い話じゃないですよ」
「減るもんでもないしいいじゃろう?面白くないかはワシが決める」
途中でアルバス先生に捕まり、説明を要求された。どうやらこの人も、レアたちから話を聞いてたみたいだ。自分の部屋を使わせてくれたのは、ありがたいけど。サン先生を、タマモの部屋に入れるわけにはいかないからな。
全員が落ちついたところで、俺の身に起きたことを説明する。
「それでは今から、この二年間俺がどうしてたか説明しますね。事の発端は、チロルの街の近くにある山に行ったことでした...」
ところどころ端折ったりしながら、大体のことを話す。
十数分ほどで説明し終わり、渇いたのどをお茶で潤す。一気にしゃべると疲れるな。
「これが二年間の全てです。質問はありますか?」
「その転移の魔術具は今も持っているのか?もし持っているなら、是非とも調べてみたいのじゃが」
「魔術具じゃなくて、気導具ですよ。今は持っていません。そういう仕組みなので」
「そうか...。残念じゃな」
「その気っていうやつを見せてもらえませんか?」
「見せるっていっても、ほとんど魔力と同じですよ?自然の力を使うか、自分の力を使うかです」
「自分の力、ですか。今度、私にも教えてください。きっとすごい力になりますよ」
教える分にはいいのだけど、使うには誰かに目覚めさせてもらわなきゃいけないんだよな。俺に出来るか?ミスったら、死ぬかもだし...。考えておくか。
「それで、この二年でこっちでは何か変わったことがありましたか?」
「変わった事のう...。そういえば、帝国の元老院が廃止されたぞ。長年に渡る不正が明らかになったらしい」
へー、元老院がねー。いろいろやってたみたいだけど、ついにばれたか。ラルカさんたちがやったんだろうな。
「それと、最近魔獣の様子がおかしいんです。いろんなとこで、普段出てこないやつが出てきたりして」
「どういうことだ?」
「例えば、森の奥の方を縄張りとしている魔獣が、浅いところに出没したり...。冒険者や商人さんに、被害が出ているらしいんです」
それって、他所から強い魔獣が移ってきたとか?いや、それならその場所限定のはずだ。いろんなとこで出てくるってことは、多くの場所でそういうことが起こってるってことなのか?なんにせよ、何か異常が起きていることは、間違いないだろう。
「帝国でもこういうことが起きてるみたいです。といっても、王国との国境あたり、帝国の南西あたりのみからですけど。王国では北東から中心、王都あたりまで被害がでています」
「そうなんですか。外に出る時は、注意しなければいけませんね」
その後しばらく話した俺たちは、夕方になったところで解散した。明日はタマモと王都を見て回ろうかな。