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終わりの始まり


「それじゃあ、お願いします」

「任セテ。ありったけの気を注ぐカラ!」

次の日。ついに帰る時だ。また牛のところに行く。なんだかんだで、色々都合のいい場所だ。

「都合に良い場所か...。まあ、転移というものは見てみたいから、良いのだが...」

「つべこべ言うな。黙って見てろ。ビアンカはグリュネ森林の入り口を思い出して。ミズキは頭に中を空っぽにして、何も考えないように」

「了解」「分かった」

三人で手をつなぎ、眼をつぶって集中する。鮮明に思い出した方が、そこに行ける可能性が高くなる。

グリュネ森林にしたのは、あそこは国が管理しており人が入ってこないからだ。唯一入ってくる野外演習も、季節が違うので問題ない。

しばらくすると、気が十分に溜まったらしい。フェイさんが声をかけてくる。

「りゅー君、気が溜まったヨ。もう転移スル?」

「ちょっと待ってください。フェイさん、これを...」

そう言って俺が渡したのは、一個の指輪。中心に赤い宝石が入っている。

「これっテ...。いつの間二?」

「この都市にいる間に。転移する前に渡そうと思って。似合うかなーって...」

フェイさんが指輪を受け取り、指に嵌める。おお、そこは...。

「キレイ...。って、どうしたのりゅー君。目をまん丸にシテ...。な、何かダメだっタ?」

「い、いえ...。別に問題ないですよ。ええ、なにも」

「そ、ソウ?それならいいんダケド...。アリガト、嬉しいヨ...」

「それなら、良かったです。俺だと思って、大切にしてください」

これで、思い残すことはない。フェイさんを信じて、待ってよう。

「・・・りゅー君。最後に、ギュッてシテ...」

「いいですよ。おいで、フェイさん...」

フラフラとフェイさんが寄って来て、俺の胸に飛び込む。

「・・・りゅー君、絶対にまた会いにいくからネ。待っててネ」

「待ってますよ、いくらでも。来なかったら、こっちから行きますから」

「そんなことはさせないヨ!私がりゅー君のとこに行くんダカラ!」

笑ってフェイさんと離れる。俺たちの間には、負の感情はない。また会えると信じてるから。

「それじゃあ、行くヨ。ソイ!」

俺たちの足下に、術式が出現する。白く光りながら、だんだん輝きが大きくなっていく。

「さよならは言わないヨ。またね、りゅー君!」

さらに輝きが増す。俺の視界を真っ白に染め上がったと思ったら

俺の意識はどこかに飛んでいった。






半年後・・・



師匠に話すことがあるので、部屋に向かう。反対されたら、師匠の屍を越えてでも行かなきゃイケナイ。

扉を叩いてから、部屋に入る。師匠の部屋には、たくさんの棚にたくさんの巻物や気導具が置いてある。

「来たか。話したいことがあるのだろう?」

「アー、ばれてましたカー。分かりやすいですか、私」

「ああ。顔によく感情がでるし、なにより雰囲気が大きく変わる。お前のことをよく知ってる者なら、すぐに気がつくだろう」

「・・・ソウデスカ」

今の台詞。昔に聞いたことがあるような気がスル...。半年前から、度々起きた既視感。

「それの原因をお前が知っているというのか?半年前、試練の途中の記憶を失くして帰って来たお前が?」

「ハイ。なんとなくですけど、どうすればいいのか分かるんデス」

私は、記憶喪失ダ。師匠から受けた試練をしている途中から二年程。何故か記憶がすっぱりと抜けてイル。

目を覚ましたら、迷宮都市の宿屋にいた。試練で集める品は揃っていたので、そのまま師匠の元まで帰り免許皆伝してもらい、一通りの術は教えてもらっタ。

「一通りと言うがな、中には奥義なども含まれているんだぞ?あまり多くはないとはいえ、半年で全て習得するとは...。なにがそんなにお前を駆り立たせるのだ?」

「・・・よく分からないんデス。でも、絶対に行かなきゃ行けないんデス」

記憶は無くなってしまっタ。だけど、その記憶が大切な物だというのは分かル。心が空っぽになったような喪失感。それが、この半年間私を悩ませてイタ。その原因が分かるのダ。それを知りたいと思っている、私がイル。

「それだけではないだろう。必死に術を習得するお前には、鬼気迫るものを感じたぞ」

師匠の言う通りダ。私は、記憶を取り戻す以外にも、原因を探す理由がアル。

「その理由は?」

「・・・分かんナイ!けど、すっごく大切だってことは分かるヨ!」

「まあ、そうだろうな。記憶を失くしているのだし。だが」

師匠が一つの気道具を手に取る。私が、迷宮都市で持っていた物。私の記憶に関する物。

「恐らくこれの仕業だろう。調べたところ、転移の気導具と見た。転移する際、誰かの記憶を必要とするようだ」

「そうなんダ...。じゃあ、私の探している人は、それで転移したってことカ。それじゃあ、私もそれで転移スレバ!」

「どこに転移したか、分かるのか?転移したい場所を想像出来ないと、これでは転移出来ん」

「・・・分かるヨ」

「何?どういうことだ?記憶が無いではないか」

「えーっと、なんかどこかの風景が頭に中に浮かんでくるんダ。ここだと思ウ」

「そうか。それなら、行けそうだな。消す記憶は、私の物でよいだろう。もう帰って来れそうにもないしな」

「・・・ウン。ありがとうございます、師匠」

「なんだ急に礼など言って。そんなことより、転移した後のことを考えろ。どこに行くか、分からないんだからな」

これで転移をする用意は整っタ。荷物も持って来てるし、後は師匠が気道具を発動するダケ。

消えてしまった私の記憶。心がなくなったと思う程、大切だった私の記憶。それはきっと、私の()の大半を占めている、誰かにつながっているダロウ。魂からその人のことを、大好きだと思ってイル、その人二。

「それではいくぞ。怪我無きよう、その身に幸多からんことを」

「師匠も体に気をツケテ。あまり夜更かししたらだめなんだからネ!」

待っててネ、私の大切な人。顔や声を覚えてなくても、あなたのことは分かるカラ!絶対に探し出して、また気持ちを伝えるからネ!

そうして、私の意識は飛んでいった。運命の人が待っているであろう、その場所へ。




鬼族の女は、犯された相手に隷属する。それこそ、何をされても一生添い遂げるほど、強力に。

それは魂レベルでその相手と繋がるからだ。熟練夫婦にもなると、相手を見ただけで健康状態、考えていること、してほしいこと等が分かるほどに。

記憶が消えても、その繋がりが断たれることはない。むしろ、より強いものになるだろう。

フェイフェイの記憶は確か消えた。だが、魂を書き換えるほどの力は、あの気道具にはない。結果、魂の記憶は消えずフェイはリューのことを探しにいくことが出来た。

中々興味深い結果になったな。愛には強い力がある、か。まだ一つの事例しかないから確かなことは言えないが、面白い。これからも、調査していこうか...。

とある牛の記憶であった。




次話から新章になります。

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