転移の気道具をゲットだぜ!
「それでは、始めます。みんな、俺を見ちゃ駄目ですよ!絶対ですからね!」
気と魔力を練って、チャームの魔術の準備は完了。全員を壁の方を向かせ、絶対に俺を見ないよう言い聞かせる。振りじゃないぞ。
「私までする必要はあるのか?」
「黙って壁に頭を擦り付けろ。文句言う暇があるなら、助言の一つでもしろよ」
まったく、口だけは達者だな。何もしないのに。
おっと、こんなところで時間を食ってる暇はない。さっさとやってしまおう。
まずは身体強化魔術を発動する。筋力などは上げず、体力回復にのみ特化したものだ。これで気を回復できる。
次に気を全開にし、チャームを迷宮の奥に飛ばす。核に直接干渉させるから、すこしタイムラグがあるな。
核に魔術が到達したみたいだ。干渉を開始する。・・・かなり耐性が高い。多くの時間と気が必要だ。
あっという間に気が持っていかれる。だが、減った分だけすぐに回復される。これは・・・キツい。頭が痛くなったと思ったらすぐになくなり、また襲ってくる。それが連続で。十秒間隔くらいで。
ひたすら痛みに耐え続ける。ずっと痛いなら慣れそうなのだが、ちょいちょい途切れるので慣れられない。
・・・一時間くらい経った。まだチャームがかからない。痛みもだんだん強くなってきて、最初はズキッとする程度だったが、今は締め付けるようだ。意識が朦朧としてきた。太ももを抓って、持ちこたえる。ここで気絶したら元の木阿弥だ...!
・・・どれくらい時間が過ぎただろうか。十分くらいかもしれないし、数時間かもしれない。時間の感覚がなくなってきたみたいだ。
頭の痛みはさらにひどくなり、言葉で表すのは難しい。強いて言うなら、頭を絶対に外れないよう紐で結ばれ、ブンブン振り回されているような感じか?
ビアンカたちは話しかけてこない。いや。俺が気づいてないだけかもな。
チャームは・・・あと少しだな。もうすぐ終わる。もうすぐレアたちのところに帰れるんだ。それなら、こんくらいへっちゃらだ。
「・・・終わった」
頭の痛みが消える。迷宮にチャームをかけることが出来たようだ。
ふらっと床に倒れる。激しい頭痛による疲労と魔力と気の消費。心的ストレスも溜まっていたと思う。帰れないって思っていたし。
「リュー!?また無理して...!」
「りゅー君のバカ!無茶しないって言ったジャン!」
「兄者!」
みんなが駆け寄ってくる。また心配させちゃったな。
「成功したぞ...。これで、帰れるよ」
「・・・まったくもう。迷宮を誑し込むのに成功したんでしょ?最下層に行きましょう」
「そうだな。・・・けど、どうやったらいいんだ?」
誑し込んだのはいいけど、どうしたらいいんだ?基本、迷宮からアプローチはしてこないだろうし...。
「話かければいいのではないか?ここは迷宮の体内?だ。迷宮の核にまで、声は届くだろう」
「そうか?それじゃあ・・・もしもーし。聞こえてますかー?迷宮さーん」
とりあえず声をかけてみる。なんだか・・・馬鹿みたいだ...。これで返事が来なかったら。どうすればいいんだ!?
そんな俺の心配を知ってか知らずか
「はい、聞こえています。こんにちは、マイマスター」
とすぐに返事をくれた。声は少女っぽい高めのハスキーな感じ。というか、マイマスターって?迷宮って女の子だったの?
「マスターと会話するために、疑似人格を作ったんです。これからは、この状態で迷宮を管理していきます。マスターと呼ぶのは、あなたがこの迷宮の主だからです」
「いや、どうして?」
「どうしてって...。あなたが私の核を支配下に置きましたよね?私の中の優先順位は、あなたが一番になっています」
まじですか...。そこまで誑し込んでしまったとは、なんて恐ろしい魔術なんだ。
「まあいいか。俺は転移の気導具が欲しいんだ。ここの最下層にあるんだろ?」
「少々お待ちください。・・・はい、あります。迷宮の最下層。奥の奥にありました。だけど...」
「ある場所が、核の部屋の奥なんです。核の部屋には核を守護する怪がいるのですが、これは私では停止出来なくて...。直接、機能維持にに関わっているからでしょう。なので、マスターに倒して頂かないといけないんです。申し訳ありません」
「それならしょうがないよ。んじゃ、案内してくれるか?」
「はい、分かりました」
そう言うと、俺の目の前の床に大きな穴があく。真っ暗で底は全く見えない。これが最下層への一本道。言ったら戻れぬ一方通行。
「帰ってくることは出来ますよ?」
「それは良かった。それでは・・・行きますか」
「ええ。その守護している奴って、強いの?」
「とても強いです。核を守っているくらいですからね」
それもそうだな。でも、こんなところで止まってなんかいられない。俺は負けられないんだ、絶対に。
「ソウダヨ!今のりゅー君なら、どんな敵にだって負けないヨ!」
「ああ。私たちも付いている。負ける要素がないな!」
フェイさんたちが頼もしいことを言ってくれる。それでは、ありがたく頼らせてもらいましょう。
「ほらほら、行っくヨー!」
「ちょ!フェイさん、引っ張らないでください!」
フェイさんに引かれて、穴に飛び込む。振り返ると、ビアンカとミズキが続いてきている。さっさと倒して、ちゃっちゃと帰っちゃいましょうか!
「はあ、はあ。や、殺ったか...?」
・・・死亡フラグを思いっきり作ってしまったが、核を守護していた骸骨剣士は起き上がらない。しばらくすると、灰となって散っていった。
「・・・はあーーー...。終わったー」
「・・・ふう」
「ウヴァーー。ツガレダー!」
「かなりの強敵だったな。正直、厳しいと思ってたぞ」
核を守護していた骸骨剣士はかなりの腕前の剣豪だったらしく、四本の腕から繰り出される剣戟には本当にビビった。
部屋中を飛び回って攻撃してくる剣士を、なんとか倒すことが出来た。いやー、今まで戦った中で一番強かったかもな。
部屋の中央には核があり、奥には扉がある。あそこに転移の気導具が...。
核は無視し扉の前に立つ。そこまで大きいわけでもなく、特に装飾もされていない。普通だなー。
「本当にあるのか、ここに」
「はい、確かにあります。外見が普通なのは、取られないようにするためでしょう」
「カモフラージュってことか。やっぱ貴重なんだな」
扉を開ける。中には石で出来た台があり、その上に拳大の丸い石が置いてあった。
「これが転移の気導具...。うわー...。これはまた...」
「見せて。・・・これは凄いわね...」
石は表面に数多の術式が書き込まれており、線が書かれていない所はない。これだけの術式を開発し、組み合わせを探すには、数百年はかかるだろう。
「これがそんなに凄いノ?変な模様が書かれているだけで、ただの石と変わらないジャン」
「今説明したでしょう...。それでも分からないなら・・・これで一国の予算くらいの値段になりますよ」
「ホント!?・・・売っちゃダメ?」
「どんなに可愛く言っても駄目ですよ。一先ず上に戻りましょう。そこで詳しく調べます」
そうして、牛の部屋まで戻っていった。これで必要な物が出てきたら、困るな...。