な、なんだってーー!!!
「ご心配お掛けしました。ちゃんと話し合ったので、もう大丈夫です」
「ええ。二人で色々約束もしたものね」
あの後、しばらく抱き合い本選に突入しようとしたが、乱入してきたフェイさんとミズキに止められた。
「真昼間からしようとするなんテ...。どっちから始めたノ?」
「いやー。どっちからともなく...。まあ、自然な流れだと思いますけど」
「そうよね。あんなこと言われて、燃えない女子はいないわ。当然の帰結よ」
「なあ、フェイ。兄者たちは何をしようとしてたんだ?何で止めたんだ?」
「ミズキにはまだ早イ!もっと大人になったら教えてあげるから、今は聞かないデ!」
ミズキはそういうことを知らないようだ。このまま穢れなく育つことを切に願う。
「モウ!ほら行くヨ!今日中に160階に行くんでショ!」
「そうですね。一体、何階にあるんでしょうね。今のところ、見つけられませんでしたけど...」
「隠し扉とかもなかったしね。これは、探すのに骨が折れるわね」
出来るだけ早く見つけたいよな。転移の気導具だけ見つかっても、フェイさんを置いてはいけないし。フェイさんのを見つけてから、俺たちのが見つかるのがベストなんだけど。まあ、それは見つけてから考えよう。
「・・・アレ?なんか、宝石が光ってるヨ」
あれから五ヶ月ほどたったある日。俺たちは、250階へ到達した。いろいろ騒がれていたが、よく知らない。興味もないしな。
そんな迷宮を進んでいる途中、フェイさんが宝玉を取り出した。緑と褐色に発光している。光はどんどん大きくなっていき、一筋の光線となった。
「なんだろうか、これは。残りの一個がどこにあるか、教えてくれてるのか?」
「そう考えるのが妥当だな。とりあえず追ってみましょう」
光が指すほうへと進んでいく。右へ曲がり左へ曲がり、くるっと一回転。・・・最初から反対方向を指して欲しい。
どんどん迷宮内を進んでいく。・・・おかしいな。まったく魔獣と遭遇しない。
「どういうことかしら?こんなの初めてよ」
「そうだな...。・・・誘い込まれているのか?」
「誘ウ?一体誰二?」
誰って言われても...。それは、やっぱりあの棺みたいな人だろうな。もしくは駄馬。
しばらく歩いていくと、一枚の扉の前についた。光は扉を指している。中に何かあるのか?
「どうするんだ兄者。中に入るのか?」
「・・・入る。しっかり準備してな。いつでも動けるようにしててね」
刀に手をかけながら、ノブに手をかける。ガチャッと少し扉を開けてから
ドゴッ!
と蹴っ飛ばす。扉は反対側の壁にぶつかり壊れる。大体10mないくらいかな。
扉の中の部屋には、何もない。・・・どうなってるんだ?
「フェイさん。光は?」
「ちょっと待ってネ。・・・そこの床にのびてるヨ」
光が指している床を触ってみると、少しへこんでいる。周りをいじってみたところ、どうやら外れるようだ。
床石を外すと、梯子が下りていた。・・・二段構えか。罠っぽいけど、ここは仙人を信じよう。
俺が先頭になって、梯子を下りていく。けっこうあるな。一体どこに続いているんだか。
ようやく終点に着く。ここも部屋になっているみたいだな。奥には・・・何かあるな。あの大きさ、あのフォルム...。まさか...。
「よくきたな、仙人の卵よ。これでお前も仙人の仲間入りだ」
「よし、殺そう♪」
「落ち着きなさい、リュー。あれは牛。馬じゃないわよ」
はっ!思わず焔纏を発動しようとしていた!ほとんど無意識、自然に体が動いていた!
そいつはあの駄馬の頭を、牛にしたような奴だった。どことなく声も駄馬に似てるし、思わず殺っちゃわないか心配だな。
「ふむ。なぜ殺気を飛ばしてくるかは知らないが、よくここまで来た。これが最後の品だ」
そう言って、黒い宝玉を飛ばしてくる牛。なんだ?試練的なものはないのか?
「試練はすでに済ませているぞ。ここまで到達することだ。200階もよく諦めないで来れたな」
「数をこなすだけの作業は得意ですよ。昔からやっているので」
経験値稼ぎとかな。ただ敵を淡々と倒していく。慣れればけっこう楽だよ。
「そうか。だが、これで試練は終了ではないぞ。帰るまでが試練だ」
「やっと終わっター!・・・ア。でも、りゅー君達のが見るかるまで一緒にいるヨ!」
「ありがとうございます、フェイさん。あの、転移の気導具がどこにあるか知ってますか?」
こいつなら知っているかもしれない。こんなところにいるんだしな。
「転移の気導具か...。少し待て。調べてみよう」
牛が目を瞑って、押し黙る。出来るだけ浅い階にあるといいんだけど...。
しばらくすると、牛が目を開けた。見つかったのか?
「・・・一応、見つけたぞ。聞くか?」
「聞いて欲しくなさそうですね。何階にあったんですか?」
「・・・まったく、あいつは。どこにあるかくらい、分かっているだろうに。相変わらず、何を考えているか分からん奴だ...」
牛がブツブツなにか言っている。聞いた感じだと、棺のことを言ってるみたいだけど...。
「まあいい。お前の探している気導具は、この迷宮の最奥。一番下に置いてある」
「最下層ってことですか...。・・・この迷宮は、何階まであるんですか?」
「500階だ。ちょうど、ここが半分だな」
・・・500階?ここでちょうど半分?・・・どうしてそんなに深いんだ?
「お前達の進行速度が速すぎたのだろう。迷宮と言っても、これは一つの生命体。核に到達されるのは、殺されると同義だ。そうされないよう階層を増やすことは、生き物として当然だろう」
・・・そう言われたらそうだ。生き物の本能には、生命維持・種の保存がある。だけど、いくらなんでも増やし過ぎではないだろうか?
「お前達のような奴らが一回でも出てきたならば、再び出てくるかもしれない。いや、もっと強い奴という可能性も出てくる。階層を増やすのは、そう簡単なことではない。人で例えるなら、急激に体を大きくするようなものだ。当然、負荷も大きくなる。時間をかけて、ゆっくりとやっていくのだろう」
「今も増築しているってことですか!?」
そんな!増築スピードより進行スピードが遅かったら、絶対に最下層に到達出来ない。同じでもいたちごっこになってしまう。
「幸運なことに、増築速度は遅い。お前達なら追いつけるだろう。・・・数年でな」
数年...。あと一ヶ月で、レア達は卒業するのに...。間に合わない...。
「・・・まだだ。まだ間に合わないって決まった訳じゃない。一ヶ月で、残り半分を踏破すればいいだけだ...!」
「一ヶ月で250階モ!?そ、そんなの無理ダヨ!怪だって、強くなるんダヨ!?」
「そうだぞ兄者!いくらなんでも無茶苦茶だ!そんな無理をしたら、途中で野垂れ死ぬのが関の山だ!」
「・・・じゃあ、どうすればいいんだ...」
頭が白く染まり、上手く回転しない。くそっ!落ち着け!ここで動揺してどうする!
「帰って解決策を考えましょう。ここで考えるより、落ち着ける場所の方いいわ」
「そうだな...。とりあえず、今日は帰ろう」
そうして、俺たちは宿に戻っていった。まさか、500階もあるなんて...。これからどうすればいいんだ?