砂漠にて
「暑っちーヨー...。水ちょーだーイ...」
「また?五分前に飲んだばっかりよ。少しは我慢なさい」
「そうだぞ。いくら気の量が多いからって、戦闘でも使うんだ。節約するに超したことはない。兄者の結界がなければ、もっと暑いんだぞ」
「ウウウー...。日の光が、暑っついヨー。もっと風を吹かせテー...」
「無茶言わんでください。魔力がいくらあっても足りませんよ」
こんにちは、リューテシアです。俺たちは今、砂漠を歩いています。空から照った日光と、砂から反射された反射熱で、汗がじりじりと湧き出てくる。俺が砂よけの風の結界で多少は涼しいとはいえ、これはかなりキツいです。
翠雲から出発して一ヶ月少々。俺たちは黒砂に到着し、砂漠を探索していた。
ここに遺跡があるらしいんだが...。数日間探してみたが、遺跡のいの字も見つからない。本当にここにあるのか?
「・・・また来たわぞ。砂の中から四体だ」
ミズキが敵を察知して、怪の襲来を告げる。怪の気配を感じているらしい。生物の勘ってやつだな。
しばらくすると、砂の中からミネラルローパーのような甲殻を持った蚯蚓が飛び出してきた。蚯蚓みたいなのはその容姿だけで、口には鋭い歯が並んでいる。
噛砕蚯蚓と呼ばれる怪で、普段は地面をその口で掘り進みながら潜行している。獲物を見つけると地面から奇襲し、瞬時に獲物を飲み込んで食べる。体長5mくらいで、太さは1mもある。
「キシャアアア!!!」
奇襲に失敗した蚯蚓達は、その巨体をくねらせ俺たちを飲み込もうとしてくる。素早いし体も大きいけど・・・まあ、問題ない。
「そい」
「はっ!」
「・・・砂縛」
「ふん!」
俺は焔纏で焼き斬り、ビアンカは甲殻の隙間から手を入れ両断し、フェイさんは砂を操って蚯蚓に絡ませ絞め殺し、ミズキは斬れ味だけで甲殻ごと斬り飛ばす。焔纏も大分使えるようになって、瞬間的になら負担なく使用出来るようになった。
「ふう。強いは強いけど、余裕で勝てる。けれど、面倒くさい。仕方ないか」
「そうね。怪の住んでるところを探索してるなら、しょうがないんだけど」
それはそうなんだけどなー。ゲームで目的地に向かう時に、出てくる敵をいちいち倒しているみたいだ。さっさとボスを倒して次のエリアに行きたい。経験値的にも美味しくない、みたいな感じだ。
うーん、まだ全部は見てないけど大体網羅したかな。遺跡くらいの大きな建造物なら、遠くからでも見えると思うんだけど...。
「これで、全体を見ることが出来たの?遺跡は・・・なかったわね」
「そうだな。砂に沈んでしまったのか?」
「エエー!それじゃあ、見つけっこないヨー!どうするノ?」
「そうですね...。今日は一旦帰りましょう。探す方法を探しましょう」
さて、どうしようかね。地面の中にある遺跡を探す、か。ドリルなんてないしなー。
宿屋に帰って、飯を食べ、風呂に入りながら探す方法を考える。ここの風呂は一人用だから、のんびり考える。
どんな風に探せばいいんだ?俺が考えている方法は、蝙蝠みたいに何か波を出して反射したものを感知する方法なんだけど...。そんなもの用意できないしなー。
・・・魔力そのものを放出してみるか?砂なら影響はないし、遺跡ほどの大きな建造物なら、怪と間違えることもなさそうだし。もし見つかっても、そこまで潜っていく方法はまだないけど...。とりあえず、あるかどうかだけでもハッキリさせておくか。
「それじゃあ、今日は出来るだけ広い範囲を探索するよ。俺は基本、戦闘はしないから任せたよ」
「了解。リューは遺跡を探すのに集中して」
魔力を下に向けて放出する。放射状に広げて、大体15mくらいだな。これで見つからなかったら、どうしようもないな。
感知をしていくと、数個の反応がある。これは・・・蚯蚓だな。サイズが小さすぎる。
砂漠を歩いていく。結界を維持させながら、下にも魔力を放出するのでかなり神経を使う。同時制御の練習はしてたけど、この暑さだ。
少しでも集中を切らすと、どっちも維持出来ない。
「それにしても、兄者は本当に凄いな。気を上下両方に放出して、しかも片方は属性つきだ。どんな精神をしているんだ?」
「そうだヨ。こんな暑さで、よくあそこまで集中できるネ」
「昔からあんな感じよ。馬鹿みたいな精神力よね」
ずいぶん酷い言われようだが、50年間ずっと武術の修行しかさせられないのに比べれば、まだまだ温い。あれはマジで死ぬかと思った。もう死んでたんだけどね。
数時間探索しているが、未だに怪の反応しか帰って来ない。魔力もかなり消費し、頭がクラクラしてきた。そろそろキツいか?
「リュー、大丈夫?今日はもう帰る?」
「いや、まだ大丈夫だ。まだ行ける。厳しくなったら、自分から声をかけるから問題ない」
ヤバい時は、体が先に反応する。頭クラクラ→体フラフラ→気絶みたいな流れだ。まだ最初だから、問題無し!
その後、しばらく探索したが遺跡は見つからなかった。これで1割くらい。あと約9日か...。
「づかれたー...。魔力はもう空っぽだぞ...」
「お疲れさま、兄者。今日はゆっくり休んでくれ」
宿屋に帰り、部屋に入ると布団にダイブする。マジで疲れた...。
「りゅー君頑張ったネー。ヨシヨシ」
フェイさんが頭を撫でてくれる。ああー、癒されるわー。
「今日はもう寝たら?風呂は明日の朝にして、ゆっくり寝て疲れを取って」
「それじゃあ、お言葉に甘えて...。おやすみ...」
「おやすみ、リュー」
「おやすみなさい、りゅー君」
「お休み、兄者。今日はありがとう」
ビアンカ達の言葉を聞きながら、俺の意識は闇の中に沈んでいった。
〈side ミズキ〉
兄者はすぐに眠りについた。かなり疲れが溜まっていたんだな。
「・・・寝たみたいね。今日はいつもより頑張っていたからね」
「ソウダネ。気をそのまま垂れ流しているようなものだからネ。疲れも人一倍ダヨ」
二人は兄者の寝顔を眺めながら、頭を撫でている。年上は良い立場だな...。
兄者の寝顔は穏やかだ。とても噛砕蚯蚓を瞬殺するような、猛者には見えない。
「ミズキも人のこと言えないわよ。幼女が消えたと思ったら、次の瞬間には蚯蚓を斬り飛ばしているのよ?戦闘する時くらい、半竜の姿に戻ったらどう?」
むう、この姿は兄者が気に入ってるから、変えたくないのだが...。気もあまり消費しない。攻撃部位にだけ気を集中させればいいから、戦闘も出来る。小さいから狙いも付けづらい。難点は、小さい故に攻撃に重さがないことだが、気で筋力を強化すれば問題ない。いつもは斬れ味に回しているがな。
「そうなんダ。可愛いもんねー、ミズキ」
それは置いておいて、このままでいいのか?兄者にばっかり負担がかかるぞ?
「そうなのよね...。フェイは出来ないの?」
「出来なくもないけど...。気の消費がかなり多いし、砂漠には土の気が多いから風の仙術は使いづらいんダヨ」
仙術は、自然を操る術。使用するのも、その場の気だ。場所によっては、使えない属性がでてくる。砂漠では、水の仙術は使えないな。
「兄者に頑張ってもらう他あるまい。私たちに出来ることをやっていこう」
もっと私に力があれば...。兄者をもっと楽にしてあげられるのに...。もっと強くならなければな!