ある意味大発明
〈side タマモ〉
「リューさんが、死んだ…!?」
夏休みが終わり、学院に帰ってきたレアさんから最初に聞いたことは、リューさんが死んだという知らせだった。
「嘘です!そんなこと、冗談でも言わないでください!酷いですよ、レアさん!」
そんなわけ、あるわけないです!リューさんはとっても強くて、優しくて、あんなに凄い人なのに…。
「落ち着いて、タマモ!まだ死んだって、決まったわけじゃないのよ!」
シャネルさんが、リューさんはまだ死んでないと言う。一体、どういうことなんですか…?
「リューは、二ヶ月行方不明なの。それで、組合が死亡扱いにしたの。そういう規定なんですって」
「行方不明…?リューさんが?ビアンカさんは?」
「ビアンカもだよ。それで、リューが行方不明になったのと同時期に、古代の遺跡と魔術具が発見されたの。まだどんな魔術具かは分かってないけど、もしかしたら転移の魔術具かもしれないわ」
「リューさんが、どこかに転移したって言うんですか?」
「そうよ。どこに転移するかは分からないから、ひょっとすると変な所に行ってるかもしれないわ」
変な所って、秘境とか?そんなとこに何の用意もしないで飛ばされたら、無事じゃすまないですよ!?
「それじゃあ、リューさんは...」
「無事かどうかは分からないわ。けど、生きている可能性があるなら、私はリューを探すわ」
「私も探す。けど、私にはまだそれだけの力がない。だから、私はすぐに帝国に行こうと思うの」
「帝国に?でも、学院は?」
「グルド達がもう帝国に帰るらしいの。だから、私もそれについて行こうかなって。学院にはもう話をつけてるよ」
いつの間に!いや、レアさんは夏休みの早くにこのことを知ったのだから、休みの間に動いていたんでしょう。
「そうなんですか...。寂しくなりますね。ということは、シャネルさんも?」
「ええ。冒険者になって、皇国の方に行ってみるつもり。タマモはちゃんと、学院を卒業するのよ。やりたいことが、あるんでしょう?」
「それは、そうですけど...。私だって、リューさんのことは心配ですよ...」
私がこの学院に来たのは、家を継ぐためだけど...。リューさんだって、大切だし。どうすれば、いいんだろう...。
「そんな心配そうな顔しないで。必ず変な所に飛ばされたってわけじゃないんだし、リューとビアンカよ?きっと、自分たちで動いてるわよ」
「・・・そうですね。気をつけてくださいね。私も頑張ります」
「ええ。タマモも頑張ってね。無理しちゃだめだよ?」
「そうだね。タマモは一人で抱えすぎるところがあるからね。誰かを頼りなさいよ。私たちを呼んでもいいからね」
「・・・はい。ありがとうございます」
これからは、一人で頑張らなきゃ。リューさん達が教えてくれたことを、精一杯生かさなきゃ!
翠雲を出発して、一路黒砂に向かう。途中で褐砂、暗砂という街を経由するが、基本黒砂を目指す。
今は夜営中。ミズキに結界術を教えてもらっている。
「それで、気で空間を包んで閉鎖する。兄者の場合は、風の気で行うのだな」
「うーん・・・こんな感じか?」
風の魔力が俺たちを包む。だいたい半径10mくらいだな。これじゃあ、警戒には使えそうにないな。
「うむ、基本は出来ていたから、習得も早いな。というか、早すぎるな。兄者、一体どんな絡繰りを使ったんだ?」
「絡繰りも何も。論理と実物を見聞きすれば、基本的なことは分かりますよ。一応、結界魔術の仕組みは、学院で論文を見たことがあります」
「学院?何だ、それは」
「沢山の人が、一緒に魔術や武術を学ぶところだよ。俺もそこに通ってたんだ」
「ほう。それは面白そうなところだな。私も行ってみたい」
「そうだなー。うちの大陸に戻れたら、紹介くらいはするぞ。あ、でも俺と一緒に来るわけじゃ...」
「そんなことないぞ!兄者のいた大陸に行ってみたい!私も連れて行ってくれ!」
ミズキが俺に詰め寄ってくる。どうしたんだ?
「いや、別に連れて行くのはいいけど...。いいのか?うちの大陸に行ったら、こっちには帰って来れませんよ?」
「それでも、兄者と一緒にいたい。この大陸に、特に思い入れはないしな」
「さいですか。それは置いといて、結界についてもっと教えてください」
そうして、夜はふけていった。
街道をコクヨウに乗って、ポクポク歩いていく。本当は走らせたいんだが、あまり無茶はさせられない。潰すわけにはいかない。
ミズキは俺の前に座っている。軽いから乗っても問題ない。
「リュー、暇よ」
「りゅー君、暇ダヨ」
「俺に言わないでください」
移動中は、やることがない。最初は景色を楽しんでいたが、もう慣れてしまってつまらない。
「大体、翠雲に行くときはそんなこと言ってませんでしたよね?どうして、今になって言いだすんですか」
「あの時は、けっこう緊張してたんダヨー。りゅー君と初めての旅だったシ」
「なら、出発する前にそう言ってくださいよ。本でも買うなりなんなり、すれば良かったのに」
「魔獣が、もっと襲撃してくるものだと思ってたのよ。まさか、ここまで来ないとは思ってもみなかったわ」
出発してから、まだ一回しか怪は襲撃してきてない。前は、もうちょっと多かったんだけどなー。
「ここの環境は厳しいんダヨ。ほら、周りも岩が増えてきたデショ?」
「それなら、なおさら俺たちのことを襲うんじゃないんでしょうか。いい鴨ですよ。鴨ネギですよ?」
「私たちは、全員総気量が多いからな。わざわざ強者に戦いを挑む愚はしないだろう。怪ならなおさらだ」
俺たちの力量を感じ取って、避けているということか。まあ、生き物なら当然の反応だな。自己保存と子孫繁栄が、生物の基本方針だろうし。
「まあ、安全なのはいいことだよ。わざわざ、戦闘したいとも思わないだろ?」
「そうなんだけどネー。我慢できることは、我慢するヨ」
だけど、確かに由々しき問題だな。戦意にも影響する。何か考えないとな。
「と、いうわけでこんな物を作ってみました」
その夜、晩御飯を食べ終わった後に、暇つぶし道具をビアンカ達に見せる。
「ナニコレ?木の輪っかみたいな物が、こんがらがっテル?」
「知恵の輪っていうんですよ。上手くやると、外れるんです。こうやって・・・ほい」
「へー、すごいわね。けっこう頭を使いそうだし、良い暇つぶしになりそうだわ」
「兄者!私にも見せてくれ!・・・むむむ、上手くとれない。どうやるんだ、兄者?」
「それを自分で考えるから、楽しいんだよ。とりあえず三つ作ったから、明日の昼にやってみな」
作るの大変だったんだぞ。木を削って形を整え、形状を思い出しながら軽い火で炙ってくっつけたんだ。少し火力を上げたら、すぐに燃えちゃうからキツかった。
けど、これで暇じゃなくなるだろ。解けないと、気になって気になってしょうがないからな。
いずれは、商業化してみてもいいかもしれない。夢が広がるな。