知ってしまった
「う・・・ん...」
くそ...。体が痛い...。筋肉痛を十倍強化したような痛みだ。動けん。
目を開けると、木の天井が目に入る。周りを見て、ここが俺たちが泊まっている宿屋だと気づく。
俺は確か結界に入って、中の人身馬頭の彫像に試練を出されて...。
「リュー、起きた?体はどう?」
ビアンカが部屋に入ってきて、俺の頭を撫でる。
「ビアンカ...。どうして、宿屋に?」
「覚えてないの?あなた、魔力と気の使い過ぎで倒れたのよ。しばらく戦闘禁止ね」
ああ、思い出してきた。彫像にふざけたもの見せられてブチぎれて、怒りの余り焔纏発動してグランデイルをぬっ殺して、そして倒れたんだっけ。
「そうよ。それより、一体何を見せられたの?リューがあんなに怒るなんて」
「レアが襲われているとこを見せられたんだよ」
「・・・そう。私はリューが拷問されて、殺されるとこだったわ。そんなこと、起こる訳がないって分かってたから、そこまで動揺しなかったけど」
ビアンカが青筋たてて、怒っている。珍しいな、ビアンカが怒りを露にするなんて。
「そうか。俺は、レア達に会えないってだけで、ここまで心配になるなんて思ってもいなかったよ。あんな風に、レアがなるわけないって分かっててもな」
会えるけど会わないと、会いたくても会えないの違いだな。ここまで違いと思わなかった。不安で不安でしょうがない。
それをビアンカに伝えると、急にビアンカが抱きしめてきた。
「・・・悪い、ビアンカ。すぐに元通りになるから」
「ええ、分かってるわ。それまで、こうやってギュッと抱きしめてるわ」
しばらくビアンカに抱きしめてもらった俺は、持ち直した後フェイさん達に無事を伝えに行った。フェイさん達は、空気を読んで別の所で待っててくれたらしい。
「すいません。ご心配おかけしました」
「大丈夫、りゅー君?なんだか、様子がおかしかったケド」
「言葉も病んでたしな。もしや、あの駄馬に何かかけられたんじゃ...!?」
フェイさんは俺を心配してくれ、ミズキの中で馬の株が急降下。いい気味だ。
「それじゃあ改めて、おめでとうございますフェイさん。一個目を手に入れましたね」
「ウン!やっぱり、私の星読みは正しかったんダ!次は、砂漠の遺跡ダネ!」
「そうね。砂漠って言うくらいだから、けっこう広いんでしょうね」
「だろうな。狭いなら、砂丘と呼ばれるだろうしな」
砂に沈んぢゃったら、どうしようもないしな。
「それじゃあ、次は南の砂漠に向かうってことでいいですね。砂漠を探索するのに、必要な物ってありますか?」
「とくにないんじゃないカナ?砂よけは、りゅー君の気導術で風の結界を作れば、問題ないし、水はびあんかさんがだせるシネ」
「俺は、結界の魔術は使えませんよ。俺の大陸じゃ、個人で運用できるようなものじゃなかったんです」
「でも、りゅー君野営の時、気導術で警戒してたヨネ?あれは、結界じゃナイノ?」
「あー...。あれは、魔力をそのままお椀状に広げて、中に入ってきた奴を感知しているんです。結界なんて大層なもんじゃないですよ」
「ふむ...。基礎は出来てるみたいだな。これなら、すぐに覚えられそうだな」
え?これ結界の基礎なの?魔力操作の練習と、総量上昇を兼ねた訓練みたいなもんだよ?そのまま魔力を放出するから、消費が激しいんだよな。
「でも、砂漠を探索中に結界を使うなら、魔力効率が良いほうがいいですよね。途中で切れたら、動けなくなりますし」
「そしたら、死ぬわね。リュー、早く覚えて熟練して。長時間使用できるようにするのよ」
「そうだな。それじゃあ、明日の明朝出発ということで。ミズキ、今日から教えてくれ」
こうして、次の目的地、南の砂漠の街、黒砂を目指すことになった。この大陸の街の名前は色ばっかだな。
部屋に戻って、荷物をまとめる。壁に刀が立てかけてあったが邪魔だったので、影にしまおうとする。
「あれ?形が変わってる。進化したのか?」
どうやら、グランデイルを吸収して進化したようだ。ステータスは、こんな感じだ。
銘 乱牙丸
種類 打刀
素材 玉鋼 暴乱牙竜の爪
値段 ただ
属性 なし
制作者 かみ☆さま
特殊能力 吸収成長 硬化 血強化
成長値 21/360
丈夫さ B
斬れ味 B
使いやすさ E
少し厚めな刀身が特徴的な刀だ。斬り裂くだけの刀から、グランデイルのように押し斬ることも出来る刀になった。これで安心して打ちあえる。
それにしても、焔纏が出来るようになるとはな。まだ短時間、使ったら戦闘不能になるが、ついにここまで来た。もうこれ以上昇華出来ないかな。師匠を超えるとか・・・無理だろ。あの人には一生勝てる気がしない。これ以上、強くはなれないか...。
レア達、どうしてるかな...。病気とかになってないといいけど...。
〈side レア〉
リューが学院を出ていってから数ヶ月。学院は夏休みになり、私はお姉ちゃんと一緒に実家に帰省していた。
お父様がリューはしばらくチロルの街で活動する、と言っていたので、久しぶりに会いに行くことにした。
馬を借りてチロルの街に向かう。リューとビアンカ、元気にしてるかな?
途中でお姉ちゃんとも合流して、組合に向かう。ガントルさんは泊まっている宿屋を聞いてなかったので、組合で待つことにしたんだ。
組合に入ると、あまり人はいなかった。昼間は依頼をしてるのかな?
見た所、リューはいない。受付の人に、聞いてみようかな。えーっと、あの男の人でいいか。
「すいません。リューテシアとビアンカという冒険者はいますか?」
「リューテシアさんとビアンカさん...。あなたは?」
「私たちは、リューの幼なじみよ。学院に通ってるんだけど、休暇になったから会いにきたのよ」
お姉ちゃんが答える。男の人は、顔を歪めて顔を伏せる。?どうしたんだろう?
「・・・そのお二人は、二ヶ月間の生存不明で死亡扱いとなっています」
「・・・」
死亡?死亡って、死んだってこと?え、どうして?なんでリューが死んでることになってるの?
「・・・どういうことよ。あなた、ふざけてるの?」
「ふざけてません。リューさんとビアンカさんは、二ヶ月前チロルの山に行ったきり、帰ってきていません」
「そんなことあるわけない!リューは学院最強だったのよ!そんな簡単に...」
お姉ちゃんが受付の人に何か言っているけど、私の耳には何も入って来ない。
そんな。そんなそんなそんなそんなそんなそんな...!死ぬ訳ない!リューが、ビアンカもいるのに死ぬ訳がない!
「嘘でしょ...?ねえ、嘘なんでしょ?嘘って言ってよぉ...」
お姉ちゃんが男性の襟をつかんだまま、泣き出してしまった。私もいつの間にか、座り込んで泣いていた。どうしてよ、どうしてリューはいつも先に逝っちゃうの...。
「・・・これは、あくまで私の推測なのですが、リューテシアさんはまだ死んではいないと思います」
受付の男性が、リューが死んでないと言う。どういうこと?さっき、リューは死んだって。
「リューテシアさんとビアンカさんの遺体は、発見されていません。それに、チロルの山で古代遺跡が発見されました。そこには魔術具が安置されており、使用された形跡も残っています。その魔術具の効果は分かっていませんが、このことから」
「その魔術具は転移の魔術具であり、リューテシアさん達はそれによって転移させられたのではないかと推測されます」
転移...?ってことは、リューは死んでない!また会える!一緒になれる!
「・・・それは、本当?」
「あくまで可能性の話ですが、私はこうだと信じてます。リューさんの強さは私もよく知っているので」
探さなきゃ。リューを見つけなきゃ!絶対、またリューと一緒になるんだから...!
そのために、強くなろう。有名になろう。リューを見つける為に...!。