発見
紅雲から旅すること三週間。碧雲という街を経由し、ようやく翠雲に着いた。神樹森を背後に望む、森から出てくる怪を倒す為に作られたらしい。
森の中には、けっこう強い怪が生息しているらしく、腕利きの討人がここを拠点にしているようだ。北の白楼、南の砂漠、東の森、西の迷宮が怪が集まるスポットだそうだ。俺たちが回っていく場所だな。有名な場所だけど、こんなところにあるのか?
「さてと、翠雲に着きましたけど、もう森に入りますか?それとも、情報収集しときます?」
「とりあえず、入ってみようヨ。怪の強さも知っておきたいシ」
「そうね。対策も練りたいし。ひとまず、入ってみましょ」
街を出て、森に入る。俺たちの他にも、数個のパーティーが森に入ろうとしている。少し離れた所から、入ることにする。
森の中に入ると、前までの空気と一変して、冷えた空気が肌を撫でる。葉っぱで空は見えず、隙間から漏れる日光がキラキラと輝いている。綺麗だな...。
「綺麗だ。こんなところに、怪が住んでいるとはな」
「こんなところだから、ジャナイノ?怪だって生き物なんだから、良い所にすみたいんジャナイ?」
「そういうものかしら?怪がそんなこと考えるかしら?」
女性陣が、思い思いの感想を口にしている。怪に、心はあるか。難しい命題だな。
「ほらほら、さっさと進む。ジッとしてると、怪が寄ってくるよ」
「もう来たみたいだが...」
前を見ると、数匹の狼が俺たちに向かって駆けてくる。早いな、まだ入ったばっかだぞ。
狼は四匹。俺に向かって、飛びかかってきたのだが
「はぁ!」
「ソリャ!」
「せい!」
ビアンカとミズキは徒手で、フェイさんは木で迎撃する。狼達は、腹や頭を貫かれて倒れていった。
「俺一人で充分だったぞ。わざわざ、出てこなくても大丈夫だ。自分のことを心配しなさい」
「つい、体が動いてな。大丈夫なら、手を出される前に倒してくれ」
「そうよ。全然動かないから、不安だったのよ」
「勘違いされるようなことをスルナー!」
そんなことを言われても...。俺の戦法は、基本一撃必殺だし。相手が突っ込んでくるのに合わせて、攻撃を入れるんだし...。それか、魔術での弾幕かな。
森の奥に進んでいくに連れて、出てくる怪も強くなっていく。最初は餓狼の森バージョンみたいな奴だったが、今では斬裂蟷螂の番が出てくる。現在戦闘中だ。
「キシャアア!」
大きなカマキリ斬りかかってくる。鎌を避け、下から硬化した刀で斬り飛ばす。
「シャアアア!?」
「シャア!」
もう一匹のカマキリが俺を鎌で斬ろうとするが、下から迫り上がってきた石の壁に阻まれる。その隙に、ビアンカとミズキが手刀でカマキリを斬り刻む。
「ふう。こっちは終わったわよ。そっちは?」
「これで!終わったぞ」
頭を斬ると、カマキリが崩れ落ちる。こいつらまでは、相手をしたことがあるんだよな。道はまだ中盤。もっと強い奴が出てくるだろう。
「私はまだ余裕だ。全然行けるぞ」
「私も大丈夫!ばっちこーい、ダヨ!」
「こんくらいなら余裕よ。前より人数も増えてるんだしね」
大丈夫みたいだな。それじゃあ、先に進もう。
しばらく進むと、また怪と遭遇した。なんか定期的に交戦しているような気がするな。気のせいか?
遭遇した怪は、立派な角を持った二足歩行の兜虫だった。キチキチと歯を鳴らし、俺たちを威嚇している。
俺たちが身構えると、羽を広げ高速で突っ込んできた。けっこう早いが、ミズキ(半竜時)ほどではない。避けて、刀で斬りかかる。が、
ガキン!
と堅い甲殻に止められる。斬れ味Bでも、駄目か。けど、ここまでは予想通り。次が本番だ。
「リュー、手助けしようか?」
「いや、大丈夫。対策は練ってある」
再び兜虫が突っ込んでくるので、俺はそれに向かって走り出す。
角が目前に迫るまで引きつけ、膝を曲げ体を地面スレスレにまで沈め、攻撃を避ける。そして、膝のバネを利用して一気に刀で斬り上げる!
ズバッと擬音が付きそうなくらいに、見事に両断される兜虫。やっぱり腹は柔かったか。
「危ない真似は止してくれ、兄者。見ている方の気持ちを考えろ」
「それは、俺も同じ。無理はしないでくれよ」
さて、大分進んできたけどまだ着かないのか?太陽はもう真上に昇ってるぞ。
「フェイさん。まだ見つかりませんか?」
「ウーン...。奥の方に、怪しい気配があるんだけど...。ソレカモ」
「怪しい気配?・・・確かに変な気がするわね」
俺も集中して、気を感じ取る。奥の方に大きな気が存在している。動かないから、生物じゃないのかな。
「とりあえず、そこに行ってみよう。この森にあるなら、出来るだけ早く見つけたい」
「ドウシテ?」
「砂漠と迷宮は、この森に比べて広さが段違いに広いです。砂漠の遺跡は砂に沈んでいるかもしれないですし、迷宮にいたってはまだ何階あるかすら分かってないんです」
「そうね。この森なら気を探知すれば、案外簡単に見つかりそうだし。出来るだけ、時間をかけたくないわね」
ビアンカは分かってくれたみたいだ。それじゃあ、進んでいきますかね。
途中で熊とか猪、でっかい蜥蜴なんかを撃破して奥に進んでいく。そういえば
「なんでここは神樹森って言うんですか?神樹があるんですか?」
「正しくは、あるって言われているンダ。色んな神話や伝承に出てきているんだけど、未だに見つかっていないんダヨ」
「へー、まだ見つかってないんですか」
どこにあるんだろうな。神樹って言われるくらいなんだから、大きいと思うんだけどな。
森の中を歩いていく。緑はどんどん濃くなっていき、もう日光も届いていない。鼻は濃密な草の匂いで一杯だ。シャネルちゃんがいたら、苦しんでいただろうな。
「・・・!りゅー君!変な結界がアル!きっとここにあるよ!」
「本当ですか!?どこにあるんです!?」
「目の前!今から通れるようにするね!」
そう言って、ブツブツ呪文を唱え始めるフェイさん。ここに結界があるのか。全然分からないな。
・・・そういえば、昨日の指輪は本当の姿を見せるんだよな。まだ、確証はないけど。
この指輪なら、結界が見えるようになるかも。影から取り出し、指に嵌めると。
「おお!見えた!」
薄緑色のドームが、目の前に現れる。てっぺんはかなり高いところにあり、ここからでは見えない。
ドームは気で出来ており、うっすらと波打っている。触ったら・・・駄目だよな。
「何が見えたんだ、兄者。その指輪...。なるほど、それで結界が見えたのか。私にも貸してくれ」
ミズキに指輪を渡す。指輪を嵌めると、「おお!これは見事な結界だな!」と驚いていた。・・・結界を見たことないだろ。
ビアンカにも見せる。ぜひ魔術師的な観点から、感想を聞かせてもらいたい。
「これは!・・・すごいわ。結界魔術は魔力を均一にしなきゃいけないのに、こんなに大きな結界を維持できるなんて。しかも、術者なしで。極めて高度な技術が盛り込まれているわ。ぜひ、この術式を作った人に、ご教授して欲しいわね」
要は凄いものらしい。そうして、フェイさんが結界を開けるのを待っていた。