感謝
「それで、この中には何が入ってるんだ?」
「さあ?見たことがないからな。ロクな物ではなさそうだけど」
まあ、キメラの研究をしてるくらいだしな。もしかしたら、研究書かもしれないし。
じゃあ、鍵を開けて…。って、鍵ないじゃん。どこにあるんだよ。
「・・・なくしたな。もう三百年くらい前だからな」
「どうすんだよ、これ。湖の中に戻すか?」
「待った。私が開けてみる」
そう言ってミズキがヒレを構え、箱に向かって振り下ろす。バキン!と大きな音がして、蓋が切り裂かれる。思ったより、脆いな。いや、ミズキの力が強いのか?
中には、一つの指輪が入っていた。何だろう、これ?
「ミズキ。これ、何か分かるか?」
「見せてくれ。・・・すまない、私には分からない。何らかの気導具だと思うんだが」
「見せて見せテー。うーん、普通の指輪みたいダケド…」
「そうね…。何も装飾もしてないし、気を強化する指輪かしら?」
みんなも分からないのか…。もしかしたら転移の気導具かもしれないから、指に嵌めてみる。すると、
「うお!」
急にミズキが、半竜の姿になる。いつの間にその姿に戻ったんだ?
「何だ?私に何かついてるのか?」
声は変わらず、幼女モードのままだ。もしかして、元の姿を見せるのか?
指輪を外すと、幼女に戻る。つけると、半竜になる。うん、間違いなさそうだ。
「これは、本当の姿を見せる指輪だ。恐らく、その研究者が怪を見るために作ったんだろ」
「へー、貸しテ。・・・ウワ!竜にナッタ!」
俺には必要ないな。勿体無いから、とっとくけど。
「そんじゃ、街に戻ろうか。ミズキは・・・行ったことはないよな。俺から離れないように」
「分かっている。そういえば、お前のことは何と呼べばいいんだ?」
「そうだなー...。俺たちのこと、どう見える?」
フェイさんとビアンカに聞いてみる。参考にはなるだろ。
「そうだネ...。兄弟カナ?」
「親子にも見えるわね。若い父親と幼い娘」
「ふむ、兄弟か...。それなら、兄者と呼ばせてもらおう。よろしくな、兄者」
兄者か。また古風な妹を持ったな。兄者とか始めて聞いたよ。
街に戻る。ミズキは街を見るのが初めてだったらしく、街が見えてきた時からテンションが鰻登りだ。
「兄者、兄者!あれが街なのか!?大きいな!石が壁になっている!」
「あれは怪の侵入を防ぐ為にあるんだ。上にはほら、弓を持った兵が警戒してるだろ?」
「おお!すごいな!中に入るのが楽しみだ!」
街に着いたら、さらにテンションが上がっていく。
「人がいっぱいいるな!彼らは、何をしにきてるんだ!?」
「この街に住んでる人もいるし、商人、討人も。色んな人がいるよ」
「そうなのか!あ、あれは何だ!?甘い匂いがするぞ!」
屋台の方に走っていく、ミズキ。離れるなって言ったのに...。
「しょうがないわよ。初めて待ちにきたんだし。見た目通りの反応だと思うけど」
「ソウダヨ。大目に見てあげヨウヨ」
「そりゃ、そうですけど...。攫われたりしたら大変じゃないですか」
屋台の向かう。ここはりんご飴を売っているのか。
「これは、何だ!?とても甘そうで、ツヤツヤしてるぞ!」
「お嬢ちゃん、りんご飴を知らないのかい?これは、リンゴを水飴で包んだんだ。食べるかい?」
「それじゃあ、一つください」
屋台のおっちゃんに、飴を一つもらいミズキに手渡す。
「いいのか!?いただきます!」
飴にかぶりつくミズキ。嬉しそうに飴を食べている。買い甲斐があるな。
「んく。美味いな、これは!こんなに甘いもの、食べたことがない」
「気に入った?あんまり食べると、虫歯になるからこれだけだぞ」
飴を食べながら、大通りを歩いていく。ミズキの興味は、尽きることがない。
「兄者!あの店は何を売っているんだ!?」
「あの人が持っている、野菜は何て言うんだ!?」
「あれは?あれは!?」
様々な物を指差しては、俺に何か聞いてくるミズキ。その目はキラキラと輝き、外界への興味で一杯だ。
そうしてミズキに色んな説明をしながら、宿屋に戻っていった。
夕食をとってから、風呂に入る。入るのだが...。
「兄者、一緒にお風呂に入りたいんだが」
「・・・何で?」
何故か一緒に風呂に入りたいらしい。俺なんかと入って、何が楽しいんだか。
「兄妹は、一緒に風呂に入るらしいからな。私もそうしてみようと思った訳だ」
「ふーん。なら、さっさとしろよ。明日は早くに出発するからな」
先に風呂に入る。後ろでは、ミズキが服を脱ぐ衣擦れの音がする。
頭を洗っていると、ミズキが入ってきた。俺の後ろに座って、手ぬぐいを泡立てている。
「背中は私が洗うからな。私の体も洗ってくれ」
「はいはい。あ、力は抜けよ?皮がはがれる」
ミズキが背中を洗っていく。うん、中々上手いな。良い力加減だ。
「気持ちいいか、兄者?」
「ああ、気持ちいいよ」
「そうか。ふふふ、楽しいな。体を洗うというのは」
「そうか?よし、それじゃ交代だ」
ミズキの脇に手を回して、俺の足の間に座らせる。
「はい、目を閉じて。いいって言うまで、開けちゃ駄目だよ」
「よろしく頼む、兄者」
髪の毛を手で洗っていく。一本一本が細いので、切らないように丁寧に。
「・・・ふう。流すぞー」
桶にお湯を入れ、泡を流していく。次は体だな。
「もう目を開けていいぞ。次は体な」
まずは背中を洗う。白磁の様に真っ白な肌を、傷つけないよう慎重に。
背中を洗い終わった後は、わきと腕、ヒレを洗ってから胸に進む。まだ未発達の小さな物を、撫でるように洗う。
「ん、兄者。そこは優しくしてくれ...」
ぷにぷにの腹をすぎて、足や股、尾びれを洗っていく。
「ふわ!あ、兄者!そ、そこは!」
「はいはい、動かない。洗いにくいだろ」
倫理的にアウト?幼女に欲情するわけないだろ。妹を洗ってるようなもんだ。全然、問題無し。
ようやく体を洗う終わる。かなり気を使ったので、疲れた。湯船で癒そう。
「ふう、ふう...。やっと終わった...」
「くすぐったか?湯船に入ろう」
お湯に浸かって、ふ〜と息を吐く。至福の時間だ。
「ふわー...。ん、ふう...」
「もう眠いか?早めに出ることにするか」
そうして、風呂を出た。俺も眠いな...。
「ほら、もうちょっと頑張れ。もう部屋だぞ」
「うん...。頑張るぅ...」
ミズキをおんぶして、部屋まで戻る。体が小さいから、寝るのも早いのか?
部屋に入り、あらかじめ敷いてあった布団に寝かせる。俺も自分の布団に入ろうとしたのだが
「兄者ぁ...。一緒に寝てくれぇ」
「ん?しょうがないな。今日だけだぞ」
そう言いながら、ミズキの布団に入る。ミズキは俺に抱きつき、俺は頭を撫でてやる。
「兄者...。・・・ありがとう、兄者」
「一緒に寝るくらい、いつでもしてやるぞ?」
「そうじゃない。私を助けてくれて、一緒に連れてきてくれて、感謝してもしきれない。もし兄者がいなかったら、私はあそこで腐ってただろう」
「兄者がいたから、街を知れた。りんご飴を食べれた。一緒に風呂に入れて、こうして一緒に寝ている。とっても嬉しくて、幸せだ。こんなに可笑しい私を、抱きしめてくれるなんて」
ミズキは泣きながら、俺にお礼を言い続ける。俺は、ミズキの頭を撫でながら、そのお礼を聞き続けていた。