気持ち
野党のアジトには、そこそこの量の宝が眠っていた。お金に宝石、高価そうな服とかもあった。
全部、俺の影の中に突っ込んで、アジトを後にする。影の中も整理しないとな。魔力も補充しないといけないし。
それから、数日馬を走らせ、翠雲までの道の中継街、紅雲に着いた。ここらへんの街は、全部~雲って名前らしい。
「はー、やっと着いター。お腹減っター」
宿を取ってコクヨウたちを預けたら、近くに迷宮や遺跡がないか情報を集めようと思っていたのだが...、食事にするかな。
「屋台がたくさんあるんで、そこで食べ物を買いましょうか。何にします?」
「エ!?買いに行っていいノ!?それなら、早ク!売り切れちゃうヨ!」
フェイフェイさんに手を握られ、物凄い力で引っ張られる。
「え!?ちょ!うわ!」
「ちょ!リュー!?」
思わずビアンカの手を握ったのだが、そんなことなど物にもせず、フェイフェイさんは屋台に向かってまっしぐら。どんだけ、腹減ってたんだよ!?
「ア!焼きいかダヨ!おっちゃん、六個ちょうダイ!」
「あいよ!ほら、熱いから気をつけな!」
「焼き鳥!十二本もらうネ!」
「ほい、お待ち!」
「焼きおにぎり!何個かお願いネ!」
「焼きそば三ツ!」
「お好み焼きモ!」
あっちこっちを見て周り、見かけた屋台の食べ物を買っていくフェイフェイさん。そんなに食えないよ…。
フェイフェイさんが落ち着いたのを見計らって、公園にあったベンチに座る。膝の上や横には、様々な食べ物が器に盛ってある。
「それじゃあ、食べヨ!いただきマース!」
そう言って、焼きそばを食べだすフェイフェイさん。
「俺たちも食べようか。ほら、これ美味しそうだよ」
「ありがと、リュー。うん、美味しいわ、このおにぎり」
それぞれが、好きなものを食べ始める。・・・懐かしいな。縁日みたいだ。
しばらく食べ進めていると、焼き鳥が俺ので最後の一本になってしまった。
「あ…」
俺が焼き鳥を食べようとすると、寂しそうな声をあげるフェイフェイさん。あげるか。
「フェイフェイさん、いりますか?」
「いいノ?じゃあ、アーン…」
と言って、目を瞑り口を開けるフェイフェイさん。俺が串をいれてあげると、ハムハムと頬張るフェイフェイさん。ビアンカの視線がキツイ…。
「エヘヘ。恥ずかしいネ…」
フェイフェイさんは、顔を朱に染め照れ隠しをするかのように、お好み焼きを食べる。可愛いなー。
食べ物は、半分以上がフェイフェイさんの胃袋に消えていった。大食いなのに、なんであんなに腰が細いんだ!
「ふう、ご馳走様デシタ。どう?美味しかった、りゅー君?」
「はい、美味しかったです。な?ビアンカ」
「ええ。ちょっと味が濃かったけど、美味しかったわ」
「そう、良かっタ。りゅー君にこの大陸の味を覚えてもらいたいカラネ」
「・・・知ってたんですか?俺たちが、別の大陸から来たって」
「うん。りゅー君達のことを調べてた時に、五右衛門さんっていう討人から聞いたんダ」
「そうですか…。すいません、黙ってて」
「いいんダヨ。私だったら、言わないダロウシ。私も勝手に聞いちゃったカラネ」
「そう言ってもらえたら、助かります」
「デモサ、りゅー君は何でそんなに帰りたいノ?もしかして、恋人でもいるノ…?」
フェイフェイさんが、不安そうな顔で俺を見上げながら聞いてくる。
「恋人なんて、いませんよ。帰りたいのは、約束しているからですよ」
「恋人っていうよりは、保護者の方が合ってるわね。まあ、それも適当とは言えないけどね…」
抱いちゃったしな…。後悔はしていない。
「そうなんダ…。・・・それじゃあ、組合に行こっカ。情報は、あそこに集まるシネ」
そう言って、ゴミを集めて立ち上がるフェイフェイさん。
「そ、そうですね。行きましょうか」
「あ、ソウダ。これから、わたしのことはフェイって呼んでネ。約束ダヨ?」
「わ、分かりました。これからも、よろしくお願いしますね、フェイさん」
「うん、ヨロシイ!よろしくね、りゅー君!」
組合に向かって、迷宮や遺跡の情報を探す。が、特にそのような情報は見つからない。
「ないですねー」
「りゅー君、コレハ?近くに大きな湖があるんダッテ。何か見つかるかもヨ」
「そうね…。底に何か沈んでるかもしれないし、行くだけ行ってみましょ」
そうだな…。とりあえず、行ってみるか。行かないで、そこにあったら目も当てられない。
翌日、徒歩で湖に向かう。紅雲の湖と言うらしい。ここの世界は、地名で山や湖の名前をつけることが多いな。
道中、襲いかかってくる怪は蹴散らしていく。街の近くだから、そんなに強いやつはいないしな。
一時間ほど歩くと、大きな湖が見えてきた。あれが目的地かな。
大きさは、結構大きい。向こう岸まで、200mくらいだな。底は見えない。水辺に怪はいない。こういう水辺には、魔獣とかは集まるんだけどな…。
「周りには、特になにもないネ」
「底に何かあるかもね。行ってくれば?」
「そうするよ。俺はいなくなるけど、気をつけてな。何が出るか分からないしな」
上着とズボンを脱いでいき、湖に入っていく。冷た!まだ、水が冷たいよ…。
風の魔力を顔の周りに集めて、簡易の酸素ボンベの様な物を作る。よし、いくか。
ザブンっと湖の中に潜っていく。水はかなり綺麗で、100mくらい下まで見ることが出来るが、湖底は見えない。この湖は、相当深いんだな。
身体強化を施して、素早く潜っていく。水圧は、気で体を保護しているのでへっちゃらだ。怪が住んでても、刀を影の中に入れてあるので、逃げるくらいはできるだろう。
潜っていくうちに、だんだん底が見えてきた。・・・見た限りでは、なにもなさそうだな。
一応、外周に沿って泳いでいく。大した物はなかったので、戻ろうとしたその時。
ヒュン!
「ッ!ぐぼ!」
殺気を感じて身を翻すが、躱しきれず脇腹を斬られる。強化してたから、斬れはしなかったけど、衝撃で呻く。くっそ。何だ、一体!?
謎の敵は、続けざまに俺を攻撃してくる。このままじゃ、気が切れて斬り殺される!風の魔力を集めて、足と手から噴射し、高速で上昇していく。敵は俺を追いながら、斬撃を飛ばしてくる。
攻撃を避けながら、どんどん上に上がっていき、ようやく湖面に着いた。勢い良く空中に飛び出す。
「リュー!?どうしたの!?」
「敵がいた!追いかけてくるから、気をつけろ!」
「と言うことは、底に何かあるんダネ!」
「そんなこと、言ってる場合じゃありません!ッ!来ます!」
服を着る間もなく、敵が湖面を飛び出てくる。影から刀をだし、構え備える。俺を追っかけてきたのは
「グルルルゥ…」
人型の蛟だ。ヒレが刃物のように、なっている。何だ、こいつ?怪の一種か?
「こいつ!?竜カ!?」
「竜?こいつが?鮫じゃないんですか?」
「うん。半竜っていうのカナ?竜と他の生き物の雑種ダヨ」
「私達の大陸には、こんなのいないわよ。ドラゴンは基本的に、他の生物と交配しないしね」
こいつに竜の血が入ってるなら、簡単にはいかないな。逃げることも考えないと。
そう考えながら、警戒していると、鮫が口を開いて
「グル…。ニ、ニゲテ…」
と言いながら、俺たちに襲いかかってきた。