初依頼
次の日、朝食を食べた俺は早速依頼を受けるため、ギルドに向かった。一騒動あったけど、大丈夫だろ。
ギルドに入ると、壁に寄っかかって話していた二人組が、俺を見てヒソヒソ話しだした。なになに?
「なあ、アイツが『玉潰し』か?」
「ああ。登録初日に、ダイクローたちが、初心者狩りをしようとして、返り討ちにされたんだ。そのときに、全員の玉を一瞬で潰したから、玉潰しって渾名がついたんだ」
「まあ、組合側もあいつらには手を焼いてたみたいだし、別に気にはしないんだが...」
「・・・最後に蹴られた奴、不能になったみたいだぜ」
「・・・同情しちまうなぁ、男として」
・・・また不本意な渾名が付けられた。何だよ、玉潰しって。玉って何だよ。あれか?股についてるあれなのか!?
「・・・リュー。私はリューが鬼畜でも、気にしないわよ。いっぱい、苛めてもいいのよ?」
「いや、勘違いですから!別に、苛めるのが好きとかじゃないからね!」
ビアンカまで何を言いだすんだ!俺はノーマルだ!!
憮然としながら、受付に向かう。受付には、オビトさんが座っていた。
「おはようございます、リューさん。昨日は大変でしたね」
「今日の方が大変ですけどね...」
「まあ、しょうがないですよ。彼らは、けっこうな問題児だったので」
「初心者狩りってやつですか。あんなの、本当にあるんですね」
「ええ、最近は少なくなってきたんですけどね...。ありがとうございます。これで、彼らも懲りるでしょう」
「それなら、蹴ったかいがありました。依頼を探してきますね」
そう言って、掲示板へ向かう。俺はF・Eランクの依頼しか受けられないんだよな。どんなのがあるのかなー?
Fランク
・お使い
・屋根の修理
・祖母の話し相手
・
・
・
Fランクは、街の中の仕事ばっかだな。別にそれでもいいけど、さっさとランクを上げる為にEランクからやるか。
Eランク
・薬草の収穫 量、質による
・ゴブリンの討伐 一体で銅貨10枚
・ビックワームの討伐 一体で銅貨10枚
・ビックラットの討伐 一体で銅貨10枚
・斑糸蜘蛛の糸の採取 量、質による
・
・
・
ふむ、どれもチョロそうだな。油断するなって方が、厳しいな。
「リュー、こんなのやるの?さすがに簡単過ぎじゃないかしら?」
「まあ、戦ったことが無い人が冒険者になることもあるしね。我慢しよ」
何個も同時に依頼を受けてもいいのかな?聞いてみるか。
とりあえず、薬草から蜘蛛まで依頼書を取って、受付まで持っていく。
「オビトさん。依頼って、何個も同時に受けていいんですか?」
「あー...。特に規定は無いんですけど、冒険者の間では三個までって暗黙の了解があるみたいで。依頼が、無くならないようにするためですね。だから、三個までにしたほうがいいですよ」
「そうなんですか...。分かりました。とりあえず、これとこれとこれを」
そう言いながら、ゴブリン・ビックワーム・ビックラットの討伐を受けることにする。
「それと採取系の依頼って、依頼を受ける前に採ってきて、依頼を受けた後に渡せば依頼完了になるんですか?」
「あ、それは大丈夫です。そういうことをしている方も多いですよ」
これはOKか。そんじゃあ、採取も頑張るか。
ゴブリンどもは街道から少し離れた森に居るということで、その森まできた。チロルの森と呼ばれているらしい。
中に入ってしばらく歩くと、草むらからでっかい芋虫が出てきた。コイツがビックワームか。そのまんまだな。
「ビアンカ、殺ーっておしまい!」
「言われなくても、殺るわよ」
ビアンカが爪に魔力を通すと、爪が伸びて刃物のように鋭利になった。
これは、吸血鬼が使うことが出来る身体強化魔術である。シャネルちゃんが使っていた、部分獣化に近いかな?
ビアンカが腕を一振りすると、細切れになるワーム。討伐証明部位である、触覚を回収しておく。
「あ、あっちにもいるぞ。さっさと倒そう」
「そうね。そういえば、その剣の試し斬りはしなくていいの?」
蒼黒鋼を指差しながら、俺に尋ねるビアンカ。そういや、まだだったな。
「まあ、折りを見てやるよ。早くしないと逃げられるぞー」
「逃げないわよ、あんなに足が遅いんだから」
ビアンカと話しながら、のろのろと逃げていくワームを追いかけていった。
あの後ワームを七体、ビッグラットを五体倒した。まだ、ゴブリンは見つかってない。
「ゴブリン、いないなー」
「誰かが倒しちゃったのかもね。森を出て、街道沿いを探してみる?」
「どうしようかねー?」
この後の方針について、話し合っていると
ガサガサ
『ギャッギャッギャ!』
六体のゴブリンがビッグラットを抱えて、歩いてきた。集団で行動してたから、見つからなかったのかな?
「ギャ?ギャギャギャ!」
「「「「「ギャウギャウギャウ!!!」」」」」
俺たちを見つけたゴブリン達は、ラットを置いて棍棒を構える。良いカモが来たとでも、思ってるんだろうか?
「ねえ、リュー。コイツらのラットを、私たちが討伐したってことに出来ないかしら?証明部位の歯は残ってるみたいだし」
「うーん...。まあ、とりあえず倒すか。コイツらで試し斬りをしていいかな?」
「私は良いわよ。近接戦闘って疲れるのよね...」
ビアンカに下がってもらい、蒼黒鋼の剣を構える。
「「「ギャギャギャー!」」」
前の三匹が殴り掛かってくる。まあ、遅すぎるんだけどね。
剣に魔力を通す。言われた通り、けっこう魔力を食われる。これは、使う人がいない訳だ。
斬れ味を強化した剣を、右から殴り掛かってくるゴブリンに合わせる。すると
スパッ!
と擬音が鳴りそうなくらい、スッパリ斬れた。食った魔力の分だけの働きはしそうだな。さっさと殺っちゃうか。
その後は一方的な虐殺だった。そりゃあもう、斬れ味強化した剣でスッパスパですよ。
それから、森で魔獣を倒し続けた結果
・ゴブリン 九体
・ビックワーム 十二体
・ラット 七体+ゴブリンの持っていた分二匹
・斑糸蜘蛛の糸 三体分
・薬草 五束
こんだけ採れました。まあ、いい感じかな?とりあえずこの時点で稼ぎは最低銀貨二枚と銅貨八十枚。
これ以上狩ると、迷惑をかけそうだったので自重しといた。恨まれたくはないしな。
日が暮れる前にギルドに戻った。
「あ、リューさんお疲れ様です。依頼は達成できましたか?」
「はい。これが証明部位です」
採ってきた物をだす。さて、薬草とかはいくらになるかな?
「けっこう狩れたんですね。あ、薬草と糸は査定します」
そう言って、手に取って薬草と糸を見るオビトさん。
しばらく査定してると
「・・・はい、完了しました。特に痛みや傷も無いので、薬草は一束銅貨十枚で、糸は十五枚で買い取ります。依頼完了ですね」
「はい。あと、薬草と糸は別の採取依頼があったんですけど」
「それも、累計依頼完了数に追加しておきますよ。今日の報酬は・・・銀貨三枚と銅貨九十五枚ですね」
報酬を受け取る。一日の稼ぎが約銀貨四枚。日本円にして約四万円。高くね?
「けっこう高いですね」
「命をかけてますし、それに酒や娼婦に使ったらあっという間になくなっちゃいますからね」
ああ、酒と娼婦か。そりゃ、なくなるわ。
「これで、五回の依頼達成です。残り十五回で昇級ですので、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。そういえば、一日五件って早いんですか?」
「それは、もう。普通、一日二・三件ですよ。無理は禁物ですよ」
このペースなら、すぐにEにはなれそうだな。さっさと上げちゃいますか。