リューの本気
突然だが、俺達のステータスについて話そう。
レアは龍人族らしい高い体力・筋力・生命力を誇る。魔力と理力がそこまで高くなく、素早さもあまり伸びないが近接職としては、十分すぎる素質だろう。
シャネルちゃんのステータスは、魔力と理力がかなり低い。だが、高い筋力と素早さで高速で動き回り、敵を殲滅することが出来る。優秀な戦士に育つだろう。
シャネルちゃんと同じく獣人のタマモは、獣人にしては珍しく魔力と理力が高い。体力と生命力は低めだが、筋力と素早さもそこそこあるので魔術戦士として、成長して欲しい。
対して俺は、高いのは魔力と理力だけ。他のやつで高いと言えるのは、精々素早さだけで筋力などはお世辞にも高いといえない。
火装や風装を使えば筋力をB、素早さをAに近いBまで上げられるがそれだけだ。結局は魔術に頼らなければ、そこまで強くはないのだ。
だが、ステータス=強さではない。俺がステータス以外でレアたちに優っているもの、それは『経験』の差だ。
神界にいた500年で培った戦闘経験と、体内で力を練る感覚。これは絶対的なアドバンテージになる。
今までは、本気で戦闘したことはなかった。レア達レベルの相手でも、魔術で充分対応出来たからだ。だけど、三人にもなるとそんなことは言ってられなくなる。流石に負ける訳にはいかない。だから俺は、
この世界に来て、初めて本気を出すことにした。
俺が立ち上がると、レア達が剣を構える。警戒されちゃったかな。まあ、いいんだけど。
さて、それじゃあいっちょやりますか。
体内の魔力を圧縮していく。キャパが空くので、どんどん魔力を注ぎ込んでいきそれをまた圧縮する。
この際腕と胴、腰と足回りは分割しておく。後で分けるのは面倒だ。
火装の魔力密度になる。いつもはここで圧縮を止めているが、今回は別だ。続行する。
魔力密度が上がるにつれ、体が悲鳴をあげ始める。大丈夫、軋んではいるけどまだ持つ。
・・・こんなものかな。けっこうキツイ。が、焔纏に比べたら屁の河童だ。
腕・胴の魔力を火、腰・足回りの魔力を風&雷に変換する。すると
ボン! ブワッ! バチバチッ!
上半身からは蒼い炎が立ち昇り、下半身には風と雷が纏う。よし、成功。名付けて、蒼炎迅雷。風は見えません!
うん、焔纏程じゃないが火装に比べたら、上がり幅が違う。速度も前より上がったし、雷で痺れさせることも出来る。
さてと。準備は整った。反撃に転じようかね、とレア達の方を向くと
「お姉ちゃん!早く潰すよ!」
「分かってる!タマモ!」
「はい!フレイムミサイル!」
レアとシャネルちゃんが攻撃を仕掛けてきて、タマモが巻き込む危険を省みず撃ち込んできた。だけど、
「もう、効かないよ」
ガキィイン!と剣と剣、アビスウェポンで作った剣と拳が衝突する。おっと、ミサイルを打ち落とさないとな。
俺はまたアビスウェポンを発動する。今度作る武器は、
ヒュオン! ズバババ!
「な、何ですか、その剣!内包魔力が馬鹿みたいに多いですよ!」
2mはある大太刀をふた振り作り、ミサイルを斬り落とす。さっき作った剣とこの大太刀は、今俺が出来る最大の魔力密度で練ってある。操作も自由自在だ。むしろ関節とかないから、手で動かすより自由度が高いかもな。
両手に剣を持ちブランと下げる。太刀も下に向けておく。もちろんすぐに動かせるよ?
「・・・さっきまでは本気じゃ無かったの?」
「もちろん。初っ端から本気を出すわけないだろ?」
「本気じゃないと思ってはいたけど、ここまでとはね...」
俺の本領は魔術。そこには、もちろん身体強化も含まれる。欠点は魔力消費が激しいことだな。
「それじゃあ、いくよ!」
一足飛びでレアとの距離を縮め、右手の剣(普通)で斬る。レアが剣で防ぎ、そのまま左の剣で斬り上げる。
これは身を仰け反らせて躱されるので、脚に魔力を集中させて蹴りを放つ。
バチバチっ!とよりいっそう電撃をまといながら、蹴りがレアに命中する。レアが吹っ飛んでいく。それを見届ける間もなく、シャネルちゃんが襲いかかってくる。太刀で拳を受け、もう一振りで斬りかかるがこれは躱される。
「レア、大丈夫!?」
「ううう、しいえう」
こうやって、魔力を集中させることで属性を全面に押し出すことが出来る。レアは雷をまともに食らったので、痺れてしまったらしい。
「さっきの、私の獣化と同じね。リューも出来たのね」
「もちろん。魔術しか俺に出来ることはないしね」
「そんなことないのに...」
こんなことを話しているが、シャネルちゃんは隙を見せない。レアが回復するまでの時間稼ぎだろう。タマモは流石に入って来れないだろうしな。それなら、こっちから行こう!
グングニルを放ち、同時に飛び出す。グングニルは雷そのものなので、かなり速い。光速の数分の一くらいだったかな?
先に槍がシャネルちゃんに到達する。シャネルちゃんは、なんとか身を捩らせて回避するが体勢は崩れた。今!
二振りの剣と太刀、合計四振りが同時にシャネルちゃんを捉える。ガン!と四つの剣閃が襲い、シャネルちゃんを吹き飛ばす。
あ、ちゃんと刃は潰してありますよ。アビスの方もね。
「イグニスイレイザー!」
タマモがまたイレイザーを撃ってくる。
「ふっ!」
今度は脚に魔力を集めて、爆発させ横に大きく飛び、回避する。さすがに二回も当たらないぞ。
ドガアァン!壁にぶつかる。うっわ、壁の一部が抉れてる。かなり威力が高いんだなー。
「ふう、ふう。避けないでくださいリューさん!当たらないじゃないですか!」
「何言ってんだよ!避けるわ!」
まったく、何を言いだすかと思えば。そろそろ、レアも復活するかな?
「むう、こんな隠し球があるなんて知らなかった。酷い、騙すなんて」
「俺はやりたいことを、やらしてくれない方が酷くないか?」
「そ、そうだけど…。もう会えないなんてやだよ…!寂しくて死んじゃうよ!」
・・・ん?何だって?
「そうよ!私だって、まだリューとしたいことが、沢山あるのに!何で離れていっちゃうの!」
「そ、そうですよぉ!リューさんの方が酷いです!何にも言わないで何処かに行っちゃうなんて!もっとリューさんと一緒にいたいですよぉ!」
あー、成る程。何で、こんなに必死で引き止めるのかと思ったら、もう会えないと思ってたのか。まったく、こいつらは…。
「はあ、何でそんな風に思ったんだ?」
「だってだって、いつもはリューは先に進んでて、すぐに見えなくなっちゃうんだもん!」
「手で掴もうと思ってもすり抜けていっちゃう。だから、抱きついて離さなければ、そんなことにはならない。ずっと一緒にいられるんだもん!」
レアが吐き出すように叫ぶ。そうか、そんな風に思ってたのか…。不安だったんだな。
「そんなことしない。たとえ少しの間離れてても、絶対戻ってくるよ」
「グスッ、ヒグッ。だって、リューはもう卒業して冒険に行っちゃうんでしょ?そしたら、もう会えないよぉ」
「そうよぉ…。やだ、リュー。行かないでぇ…」
「いやですよぉ…。もう会えないなんて、やだぁ!」
レア達が縋り付いてくる。みんな泣きはらして、顔がグチャグチャだ。
「そんなことないって。ちゃんと卒業式を見にいくよ」
「ほんと?嘘じゃない?絶対?」
「うん、絶対だ。約束だよ」
三人を撫でて抱きしめる。
「・・・分かった。絶対約束だからね」
「破ったら、許さないわよ…」
「そうですよ。もし来なかったら、世界中を探し回って見つけ出しますからね」
「そりゃ、破るわけにはいかないな」
その後、しばらく撫でているとレアが耳元に口を近づけて
「じゃあ、証を残して?」
「うん?」
「絶対また戻ってくるって、証を残して」
証って何だ?うーん…。
俺が証について考えてると、シャネルちゃんとタマモまでのっかってきた。
「そ、そうね!そのくらいしないと駄目よね!安心できるし…」
「そうですね。リューさん、私をリューさんのものにしてください。それなら、絶対リューさんは戻ってきます」
えっと、何なんだ?証って。
「その、証ってなに?よくわかんないんだけど…」
『・・・はぁー』
レア達が一斉にため息をつく。な、何だ?悪いことでも言ったか?
「リューさんはデリカシーがなさすぎです!」
「そうよ。ムードもへったくれもありゃしないわ」
「それなら言うよ!せーのっ」
『私達の処女を貰って(下さい)!』
・・・はあああああ!!!???
まだまだこんなもんじゃないですよ!