みんなの本気
ボーッコボッコ、フルボッコ!
「え?な、何言ってるのリュー…?卒業って?」
レアが信じられない、信じたくないという顔で俺をみる。思わず声をかけそうになるが、我慢する。
「飛び級するんだよ。俺の成績なら十分いけるしね」
「ちょ、ちょっとリュー!どういうことよ!」
シャネルちゃんが詰め寄ってくる。
「この学院でもう勉強することはなさそうだし、それなら早く外に行きたいからね」
「だからって、いきなりそんな…」
シャネルちゃんが呆然と膝をつく。
「わ、私もします!一緒に飛び級して、冒険者に…」
「無理だ。俺が飛び級出来たのは、魔術の研究が評価されたからだ。タマモには、それがないだろ?」
俺の研究とは無詠唱に関することだったか?ちゃんと体系化されてなかったから、俺の経験からまとめてみたら、アルバス先生が勝手に研究所にだしてそれが評価されたらしい。
「それに、タマモはちゃんとこの学院を出なきゃいけないだろ?飛び級はあまり評判がよくないからな」
なにしろ前例がない。言っても信じてもらないだろうな。
「そ、それはそうですけど、でもリューさんと離れたくないんですよぉ...」
タマモはぐすぐすと泣き出してしまった。
「うーん、そんなこと言ってももうエリザさんにもう校長に頼んでもらってるからな。今さら断る訳にはいかないし」
そう言うと、レアがゆらりと立ち上がる。そうして
「・・・それなら私を倒してから行って...」
「え?」
あれ?壊れちゃった?
「そんなに冒険者になりたいんなら、私を倒してから行きなさい!!」
「・・・マジで?」
俺がレアと勝負か...。昔は勝てたけど、もう流石にキツいよなー。第一、俺は魔術師だし。
「そ、そうよ!私も倒さなきゃ絶対に行かせないわよ!」
「そうです!私の屍を超えていってください!」
シャネルちゃんとタマモも乗っかってきた。えーっと、
「三対一?」
「当たり前だよ!飛び級するくらいなんだから、私たち三人くらい勝てなきゃ可笑しいよ!」
そこまでして離れたくないのか。
「分かった。それじゃあ、訓練所に行こうか」
『絶対負けないからね(ませんからね)!』
こうして、レア達と勝負することになった。・・・本気、だすか。
〈side レア〉
リューに部屋に来るよう言われて、部屋に行ったら私が帝国の公爵の子だと言われた。
そんなのはどうでもいい。問題はリューが学院を飛び級で学院を卒業して、冒険者になってしまうことだ。
リューは私が公爵の子だとかいうことは気にしてない、と思う。お姉ちゃんやタマモだって、気にしてないし。
私だって、そんなの知らない。私はライジルト公爵の娘じゃなくて、ガランド伯爵の娘だ。何でリューは、私に帝国に行って欲しいんだろう?
それより卒業だ!リューが卒業するのを止めなくちゃ!どうすれば、いいんだろう…。
リューは魔術の研究のおかげで、飛び級で卒業出来るらしい。もちろん、授業の成績とかも加味されてるんだろうけど。
魔術はもう結果が出てるから、武術でなんとかしなきゃ。武術で・・・それなら
「・・・それなら私を倒してから行って…?」
これなら、私にも勝ち目がある。これしかない!
・・・これでも負けてしまったら、私じゃリューを止めれない。そうなったら・・・後で考えよう。戦いが終わってからだ。
リューが得意なのは、魔術だ。剣術の腕も普通より強いけど、私達程じゃない。遠くから魔術を撃たれたら危ないけど、訓練所はそこまで広くない。しかも、三体一だ。これなら、勝てるかもしれない。
絶対に負けない。私はリューと一緒にいるんだから!
訓練所に着いた。剣をとってきて、抜く。レアたちも剣を構える。
「みんな、準備は出来たか?」
「リューこそ。荷物は準備しなくていいわよ」
「リュー、何でそんなに冒険者になりたいの?」
「俺は、まだ住んでいるこの世界のことを全然知らないからね。自分の目で、世界中を見てみたいんだ」
「・・・とても楽しそうですね。私も家のことが無ければ、きっとリューさんのついて行ってました」
「そうか。俺も出来たら、連れていきたかったよ。本当だよ?」
「分かってますよ。でも、行かせません。私はリューさんと一緒にいたいですから」
そういう訳にはいかない。レアたちの為にも、俺は勝たなきゃいけない。
「それじゃあ、いくぞ!」
ゲイルバレットを連射する。火だと威力が高すぎるし、タマモには効かないだろう。
レアが正面、シャネルちゃんとタマモは左右に分かれて距離を詰めてくる。風弾は剣で打ち落とされていく。
くそっ、やっぱり効かないか。あの程度じゃ、足りない。もっと量を増やさなきゃ。
風弾を増やしつつ、アビスウェポンを発生させる。一人につき五本、計15本操作する。これで、ようやくレアたちの足が止まる。
けれど、俺も魔術の操作で手一杯だ。これじゃあ、手詰まりだな。
けれど、俺が手一杯なのに対してレアたちはまだ余裕がある。
「こんなものなの、リュー?手加減してると負けちゃうよ?」
レアの腕がどんどん鱗に包まれ、角が伸びて行く。さらに足の様子がおかしい。っておい!足まで鱗に包まれるぞ!尻尾まで伸びてるし、これがレアの本気か!?
「そうよ。龍化魔術の第二形態。これなら、ゲイルバレットくらいならへっちゃらだよ」
「本気ね、レア。それなら私も…」
シャネルちゃんの四肢に魔力が集まっていく。身体強化の応用か。けど、一つ一つのレベルがかなり高い。しかも毛が伸びてフサフサになってるし、獣人の固有技か?
「そうよ。部分獣化って言ってね、獣と同じくらいの速さと力を引き出せるの」
「そんなの出来たんだ。知らなかった」
「ごめんね、リュー。けど、私は負けたくないの。リューと一緒にいて、一緒に生きたい」
シャネルちゃんが自分の願いを語る。・・・叶えてあげたいけど、今すぐには無理だ。
「ごめんね、姉さん。それはダメだよ、姉さんの為にも」
「・・・うん、分かってるわ。だから、こうしてるの!」
シャネルちゃんが殴り掛かってくる。腕と胴に火装、腰と足回りに風装を施し剣でうける。
横からレアが斬りかかってくる。バックステップで大きく距離を取る。と、
「フレイムミサイル!」
とタマモが炎の弾を二十個ほど放ってくる。高速で抵抗して、衝撃に備える。
ドンドンドン!
と体に衝撃がはしる。熱は遮断出来るけど、衝撃までは殺せなかった。煙が晴れるとそこには
「リューさん、もらいました!イグニスイレイザー!」
極太の熱線が迫ってくる。レア達はすでに避難済みだ。くっそ!
無詠唱でテンペストを放つ。イレイザーじゃ、爆発に巻き込まれる。
荒れ狂う竜巻と消し飛ばす熱線がぶつかり合う。威力は拮抗していて、お互いに押し込み合っている。
二つの魔術は一瞬明るく輝いたと思うと、
ドゴオォォン!!!!
と暴風と熱波を伴って大爆発を起こした。
「うおおおお!!!」
エアクッションを正面と真後ろに発動させて、熱波と衝撃を殺す。
だが、衝撃を殺し切ることができずゴロゴロと転がっていき、壁にぶつかって止まった。
「痛たたた。ああー、畜生」
体を確認しながら立ち上がる。・・・よし、目立った怪我はなし。
強くなったなあ。もう、本気出さないと勝てないか。
覚悟、決めるか!