求婚騒ぎ
春休み中に終わりそうにありません。
魔術の授業を終えて、武術の授業をしている訓練所にタマモ達と向かう。どうやら延長しているらしい。
訓練所につくと、
「俺の嫁になってくれ!」
「何言ってるの?」
グルドがレアに求婚していた。これはまた急展開だねぇ。
「だから俺の嫁に、いやリュージュ帝国の妃になってくれ!」
「・・・」
うーん、状況が読み込めない。
「りゅ、リューさん!レアさんが求婚されてますよ!止めなくていいんですか!?」
「え?何で止めるの?」
「だ、だってレアさんはリューさんと結婚したいって」
「レアが誰と結婚するかは、レア自身が決めることだろ?レアに任せよ。それより、どうしてこうなった」
「私が説明するわ」
シャネルちゃんが現れた。
「あ、お姉ちゃん。お願い」
「分かったわ。ことの発端はあいつの言ったことよ」
〈side シャネル〉
「この中で一番強い奴は誰だ?」
武術の授業で模擬戦をすることなった時に、グルドがこんなことを言いだした。
「一番強い人?武術だけで?」
「うむ、一体誰だ?」
そうね...。私かレアのどちらかだとは思うけど、どっちかしら?
というかグルドは一番強い人と何をするのかしら?・・・模擬戦よね、この流れなら。めんどくさいわ。
「多分レアよ」
「ほう!レアなのか。それでは、模擬戦をしよう!」
「ええ、私が!?お姉ちゃん!」
ごめんなさいね、レア。脳筋の相手は疲れるの。
二人が向かい合う。強い人とやりたいって言うんだから、グルドも強いのよね。帝国は実力主義だって聞くし。
「うん?レア、お主竜人族か?」
「竜人族じゃなくて龍人族!間違えないでよね!」
リューが付けてくれたものだもの、そこは譲れないわ。
「龍人族?何が違うのだ?」
「羽が無いの!竜人が言う羽無しよ」
言っちゃってもいいのかしら?私たちは気にしてないけど。
「羽無しか。元老が言っているあれか。俺は気にしないぞ」
「私だって気にしてないよ。リューがいるもん」
「ほう、リューがいるから気にしないか。まあいい。準備はできたか?」
元老?何のことかしら?リューなら何か知っているかも。
「ふん!・・・準備できたよ」
レアが体に魔力を通すと、腕が鱗に覆われ体から魔力が立ち上る。竜化魔術ね。レアの場合は龍化魔術かしら?
「それでは行くぞ!」
グルドが飛び出し、レアに斬りかかる。なかなか速いわね。けれど
「はぁ!」
レアは下がって剣を躱し、直に突きを放つ。
「ほ!中々良い突きだな!ヒヤヒヤしたぞ!」
「そんなことが言える余裕、なくしてあげる!」
グルドは躱すが、レアは剣を戻した後鞘に戻して腰に対して水平に構える。魔力を足下から練り上げ、剣に集中させる。あの構えって、リューの?
「大技か。それなら俺もだそう」
グルドは剣を大上段に構える。グルドの剣にも魔力が集まっていく。
二人は構えたまま動かない。どっちが先に動くかしら?
「ゼリャア!」
グルドが一気に距離を詰める。レアはまだ動かない。グルドの剣がレアに向かって振りおろされようとした時、
「・・・破竜」
レアが高速で剣を鞘から振り出す。剣が最高速に達した時に
ガギィイイン! バギン!
剣と剣がぶつかり、片方の剣が砕ける。砕けたのは
「・・・参った。剣術には自身があったのだがな」
グルドの剣だった。レアは振り切った剣を鞘に戻す。みんな、何が起こったのか分からないって顔をしてるわね。まあ、あんだけの速さだしね。
「ははは!いや、本当に参った!本気で向かったのに、負けてしまった!」
うわー、狂ったように笑い出した。気にでも触ったのかしら?
「うむ!レアよ!俺の嫁になってくれ!」
はい?
「と言うわけよ。訳分かんないわ」
「うーん...。俺もよく分かんない。グルドに聞いてみようか。おーい、グルド!」
とりあえず状況確認だ。何でレアを嫁にしたいんだろ。まあ、だいたい予想はついてるけどね。
「ん?リューか。今は忙しいのだが」
「あ!リュー!助けてよー」
うっわ、レア嫌そうだなー。止めないけど。
「なんで急にレアに求婚したの?」
「うむ!よく聞いてくれた!俺の国では強さがもっとも重要だ。身分なんかは二の次だ!」
「だからな、俺の嫁になる奴は強くなければならん。少なくとも、俺と殺りあえるくらいの強さじゃなきダメだな」
ふーん、根っからの実力主義なんだな。
「だが、前に俺の居たとこにはそんな奴は一人もいなかったのだ。だからこの国に嫁を捜しに留学したのだ」
そんな事情があったのか。けど
「わざわざ王国に来なくても、良かったんじゃないのか?帝国にも強い女の子くらい、一人や二人はいるだろ」
「親父には『ついでに友達の一人くらい作ってこい』と言われたな」
前いたとこには、友達がいなかったのか。まあ、こんな性格だしな。難しいか。
「あ、それ俺も言われたっす。嫁と友達を捜してこって」
ロキもか。王様の考えることは、同じだな。
「それで、自分に勝ったレアを嫁にしたいと」
「おう!強いのが大前提だが龍人族であるのも良いし、何より可愛いしな!」
お!可愛いか。これなら、レアも少しは考えないかな?グルドもなかなかイケメンだしな。
「やだ。嫁になんてなりたくない」
バッサリいったな。
「むう。何で嫌なのだ?悪いとこがあるなら直そう」
「別にグルドが悪いわけじゃないよ」
「なら何故なのだ?」
「それはね」
レアが一息溜めて
「私がリューのことを、どうしようもなく大好きだからだよ」
みんなの前にとんでもない爆弾を投げ込んでくれた。
「ちょ!レア、何言っての!?」
「え?リューのことが大好きって言ったんだよ?」
お、男らしい!男らしいよ、レア!
「リューのことが大好きか...。どのくらい好きなのだ?」
「寝ても覚めても、リューのことばっか考えてるくらい大好き!」
おおお!恥ずかしい!恥ずかしすぎる!レアが話してるのに、俺の方が恥ずかしいよ!
「そうか。・・・ふふふ。それならば俺がリューに勝てば良いのではないか!」
「はい?」
「好きな相手に思い人がいるなら、そいつから奪い取れば良い!障害があるほど恋とは燃えるものだからな!」
「えーっと、頑張ってね?リューは強いよ」
「うん?ずいぶんと余裕だな。リューが負けないと確信であるのか?」
「うん。リューはグルドなんかに負けないよ」
「ふっふっふ。その余裕をぶち壊してくれよう!リュー、勝負だ!」
「えーーー」
何で俺に飛び火するんだ...。当然ちゃあ当然だけど。
「ごめんなさい、リュー君。あの馬鹿王子をけちょんけちょんにしてくれる?」
「いいんですか?本気そうに見えましたけど」
「いいのよ。人の嫁に手は出しちゃいけないしね」
「いや、俺の嫁ではないんですけどね...。まあ、おれのしかばねをこえていけって感じではありますが」
これは親の気持ちだよな...。よくわからんよ、人の心は。
「リュー、さっさとかかって来い!打ち負かしてくれよう!」
「じゃあ、いくけど。魔術を使ってもいいの?」
「いいぞ!本気でなければ意味はないからな!」
「それじゃあ」
「後悔、しないでね?」
〜五分後〜
プスプスと焦げているグルドは放っておいて、食堂に向かうことにする。早くしないと昼休みが終わっちゃう。
「リュー、鬼ね...」
「リューさん、怖かったです...」
「あのくらいで丁度いいんだよ。ね?ラルカさん?」
「ええ、若にはいい薬です。それにしても、あの時のリュー君は良かったわ」
シャネルちゃんとタマモが怖がっている。そんなに怖かったのかな?
シャドーバインドで動けなくした後、最低出力ライトニングボルトでビリビリさせただけなのに。
レアに手を出そうとしたんだから、こんくらいは覚悟の上だよね!
その後、新たに「雷光の処刑人」と言う名前が加わったことをリューはまだ知らない。