お互いの距離
「勝負?俺がお前と?」
「は、はい!私以外にだれがいるんですか!」
「ははは!いいぜ、やってやるよ。俺が負けたら謝ってやる。けど、お前が負けたらどうすんだ?」
「私は...私は何でも言うことを聞きます!」
おい!本当に何言ってんだタマモ!
「おい、タマモ!どうしてそんなことするんだ!俺は別に」
俺がそう言おうとすると、
「大丈夫です、リューさん。負けなければいいんですから」
なんとも安心させることを、タマモが言ってくれた。負ける気はないみたいだな。
「リュー君。優しいのはいいけど、少し過保護すぎない?見守ってなさい」
「...はい」
タマモを信じよう。
訓練場に移動した。ここで勝負するようだ。
「お互いに魔術を撃ち合って、先に降参させたほうの負けだ。これでいいよな?」
「かまいません」
訓練所の真ん中で向き合うタマモと狐。
「それじゃあ、いくぜ!ファイアアロー!」
タマモに向かって火の矢が飛んでいく。タマモは動かず、矢をもろにうける。
「ははは!そんなもんか!たいしたこないな!」
「こんなものですか?」
煙の中からタマモが無傷で出てくる。
「は!?なんで効いてないんだよ!?」
「魔力で抵抗したんですよ。知りませんか?」
これは身体強化の応用で体に流す魔力の密度を上げることで、魔術に対する耐性ができる。戦士や剣士なら覚えておきたいな。
「お、お前そんなに魔力を制御なんかできなかったじゃないか!?」
「リューさんと一緒に、訓練したんです。一年でこんなに出来るようになりました」
タマモがファイアランスを15本発生させる。俺が入学式でやったやつだな。
「ひ!い、いったいそれをどうするつもりだ!」
「撃つんです。あなたに向かって」
「や、やめてくれえ!謝る!謝るから!!」
狐が地面に這い蹲って、タマモに懇願する。タマモは冷えた目でそれを見下ろし
「...私じゃなくてリューさんに謝ってください」
と言って、俺の方に来た。
「す、すまない!この通り!この通りだから許してくれ!」
狐は俺を見ながら、土下座しているが無視してタマモに駆け寄る。
「大丈夫か?やけどしてないか?」
「はい、完璧に抵抗しました。どうでしたか?私」
「ちゃんと出来てたよ。大人になったな、タマモ」
「えへへ、まだまだです。リューさんはもっと凄いじゃないですか」
「俺は昔からやってたしな。タマモののびもすごいよ」
タマモも大きくなったなー...。そろそろ潮時かな...。
授業が終わり放課後になった。俺は、部屋でビアンカとあることについて話をしている。あることとは、
「え?レアたちと距離を取る?」
「うん。あんまりベッタリでも不味いでしょ?」
しばらくレアたちと離れようと思ったのだ。
「どうしてそんなことするの?」
「えっとね、俺はいつまでもレアたちとは一緒にいられないでしょ?」
「そうなの?」
あれ?何かおかしいな?
「そりゃそうでしょ。結婚するわけでもないし」
「...結婚しないの!?」
ものすごく驚かれた。なぜだ!?
「てっきりレアたちと結婚するものだと決め付けてたわ...」
「それじゃあ、ビアンカはどうなるんだよ...」
「わ、私はリューの従魔っていうか、愛人っていうか」
ビアンカは、モジモジしながら愛人宣言をする。くっそ、可愛いぞこいつ。
「そ、それはおいといて結婚はしないの?」
あ、話逸らした。
「うーん...。推測だけど今レアたちが俺に懐いてるのは、刷り込みみたいなもんだと思うんだよね」
鴨とかのあれだよ。
「なるほど。だから、距離をとればそれが薄れるんじゃないかって思ったわけね」
「そゆこと」
意思を汲んでくれるのは、便利だなー。
「でも、そうされるレアたちのことは考えた?急にリューがそっけなくしたら、混乱するわよ」
「うん。だから、少しずつ離れていこうと思う。ゆっくりと慣れさせるよ」
「レアたちが感づいたらどうするの?」
「そん時は、たぶんビアンカに相談すると思う。そしたら、一人で生きていけるようにしたいとか言っといて」
「適当ね。はあ、分かったわ。来たらなんとか言っておく」
「ありがとう。あ、ビアンカはずっと俺の物だからな」
勘違いされると困る。
「そ、そう。...ありがと」
デレた。ビアンカがデレた。貴重だな。
こうして、俺はレアたちと少し距離をとりだした。
「リュー!お昼ごはん、食べに行こう!」
「あ、ごめん。今日はアランと食べる約束をしてるんだ」
「アランと?珍しいわね」
「そんなことないよ。アランは僕の唯一の男友達だよ」
「そうなんだ...。じゃあ、晩御飯はいっしょに食べようね!」
「うん、分かった」
早速翌日から始めることにした。と言っても、最初は一緒にご飯を食べない、みたいな感じだけどな。
しかし、けっこう心が痛むな。こう、レアの期待に満ちたキラキラした目が落胆するのを見るのは
けど、これもレアたちのためだ!頑張んなきゃ!
〈side レア〉
リューがよそよそしい。
私は今、リューについて考えている。授業中だけど、もう勉強した内容だから平気だ。
最近、リューが一緒にご飯を食べてくれない日がある。アラン君と一緒に食べてるみたいだ。
リューくらいの年の男の子は、あまり女の子と一緒にご飯を食べないみたいだ。食堂で観察した限りだけど。
だから、リューが男の子と一緒にご飯を食べるのはしかたない。私は今までリューにいっぱい甘えてきて、それがリューの重石になっていることも分かる。
でも、リューから離れたくない。リューといっしょにいると、リューの温かさに包まれる。
リューの顔が好き。リューの声が好き。リューの香りが好き。全部好き!リューの全てが好き!
でも、リューの足手まといにはなりたくない。どうすればいいんだろう...。
とりあえず、ビアンカに相談しよう。一番年上だしね。
〈side ビアンカ〉
放課後にレアが訪ねてきた。相談したいことがあるらしい。リューの予想通りね。
実際に聞いてみると、自分の想いが重石になっていると思っているようだ。どうしましょう。
「何で重石になっていると思うの?リューは、そんなこと思ってないと思うわよ?」
「だって、ずっとリュート一緒にはいられないし...」
リューと同じね。育てただけのことはあるわ。
「リューと結婚すればいいじゃない。それなら、ずっと一緒よ?」
「結婚!?私がリューと!?...えへへ♪」
トリップしてるわね。正気に戻さないと。とりあえず頭を叩いておく。
「いた!で、でもリューは貴族だし...」
「そんなの愛の前には関係ないわ」
私が言うことでもないけど。
「うーん...。じゃあ、少しリューから離れてみる!いろいろ見えてくるものがあるかもしれないし」
「そう。レアがそうしたいのなら、そうしなさい」
幸か不幸かリューと同じ結論に至った。似たもの同士なのね。
「でも、無理は駄目よ。我慢できなくなったら、襲い掛かっちゃいなさい!」
私もそうしちゃったしね。また、してくれないかしら...。
「うん。ありがとビアンカ。相談にのってくれて」
「いいのよ。若者を導くのも、年長者の務めだしね」
これでレアとリューの距離が、少しは離れるかしら?結果は、神のみぞしるところね。
旅行先で書くのは大変です。