魔術の授業
野外演習から日がたち、四月になった。俺たちは二年生になり、今日が始業式だ。
「昨日は入学式だったね」
「初々しかったわね」
「去年は僕たちもあんな風だったんだよ」
いやー、新入生たちは緊張してたなー。ガッチガチだったな。
俺は特に新しい魔術を覚えてない。とりあえず目立たないようにしたいし、魔術を使い込みたいしね。
タマモは、かなり魔術をコントロールできるようになっている。大きさから密度まで思いのままだ。
レアとシャネルちゃんはさらに強く美しく、そして可愛くなっている。マジで美少女に育っている。俺には少しもったいないかな…。
ビアンカはまだ存在強化できていない。早くしてやりたいな。
今日からは自分で授業を選んで、履修していくことになる。
レアとシャネルちゃんは武術科のみの履修になり、戦術や兵の運用法なども学ぶことになる。
俺とタマモは魔術科でも授業を受けるので、簡単な戦術などは学ぶが魔術も専門的に学習することになる。新しい魔術の開発とかだね。
今日から授業が始まる。最初は魔術の授業か。楽しみだなー。
「楽しみですね、リューさん!」
「そうだな。どんな授業をするのかね」
タマモは身長が伸びて、体型も豊かになってきた。最初はあんなにちんちくりんだったのに…。俺は嬉しいよ。
「というか、ビアンカもついてくるのか?」
「現代の授業がどんなもんか、見てみたいのよ」
「目立つような真似すんなよ…」
「了解」
教室に着いた。中には数十人の生徒が入っていた。これで一クラスか。
「席はどこでしょう?」
「自由席みたいだな。空いてるとこに座ろ」
適当に空いている席に座る。お、窓際の席が空いているな。あそこにするか。
タマモと席につく。すると、隣でしゃべっていた少年達がこちらをチラチラ見ながら、ヒソヒソ話している。どれどれ?
『おい!あの獣人の子メチャクチャ可愛いな』
『仲良くなりたいな…。誰か話かけてこいよ!』
『でも見ろよ。隣にアイツがいるぞ』
『うわ!紅蓮の魔術師か!』
『気に食わない奴を燃やすっていう、あいつか?』
『それはデマ。入学式であいつの才能を僻んだ奴のな。本当は稀代の天才魔術師だってさ』
『そうなのか…。僻むなんて、ガキみたいだなそいつら』
『ハハハ。まったくだ』
・・・紅蓮の魔術師ってキンブ◯ーかよ。いやだなー、焔の方が良かったな。
「リューさん、どうしたんですか?」
「い、いや。何でも無い」
聞かれたくねぇー!
「ほれ、授業を始めるぞ」
少しへこんでいると、ひげが豊かなお爺さんが入ってきた。まんまダン◯ルドア先生だな。他にいなかったのか…。
「儂が、魔術の授業を担当するアルバスじゃ。よろしくな」
うわー、偶然の一致だー。不思議なこともあるもんだなー。まさか名前まで一緒だとわなー。
「最初に言っておくが、儂はおんしらに魔術を教える気はない」
おおう。初日から授業放棄か?
「儂がおんしら教えるのは、魔術の改造じゃ」
「魔術とは、呪文を唱えて効果がでるだけのものではない。己の工夫次第で、違う魔術に化けさせることも出来る」
「おんしらが今年やることは、3つ新しい魔術を作って儂の前で使用してもらう」
生徒たちの間でざわざわと声が広がる。まあ、いきなり魔術を作れって言われてもな。
「そんなに心配せんでも良い。先輩に助言を求めても、図書館で調べても良い。やり方はおんしら次第じゃ」
「授業は基本的に自由じゃ。新しい魔術を覚えても良いし、サボっても良い。まあ、後がどうなるかはしらんがな」
先生が怪しく笑う。恐!ブルッとしたぜ…。
「それでは、今から開始じゃ!三年は教室で待っているぞ」
先生の声から少し遅れて、生徒たちが慌てて教室を飛び出していった。開幕ダッシュだ!この世界にもあったのか!
「りゅ、リューさん!私たちも行かなくていいんですか!?」
「大丈夫だ、先輩は逃げないよ。それよりも」
先生の方を見る。
「今は先生に話を聞こうじゃないか」
「ほう…。何を聞きたいんじゃ?」
「改造と改良の違いとかですかね」
「改良は欠点を補うこと。改造は改めて造り直すことじゃな。何か思いついているのか?」
「一応は。見せたいので訓練場にいきましょう」
そんなこんなで訓練場。人はいない。
「それでは、見せてくれ」
「はい」
俺はファイアバーストを10mくらい離したところに撃ちださないで発生させ、トルネードを重ねる。この間コンマ数秒。
そのまま火を巻き込んで、竜巻が完成する。前にもやったファイアトルネードだ。
「ふむ。ありきたりじゃがまあ良いじゃろ。リューテシアは一つ完成じゃな」
「凄いです、リューさん!こんなことも出来るんですね!」
こういうのでいいのか。いろいろ考えておくか。
「タマモは何か思いついた?」
「いえ…。まだ全然思いつきません…」
「そっか。とりあえず先輩に話を聞きにいこうか」
「はい!」
「ほほほ、仲が良いな」
俺とタマモは三年生の教室に向かった。
三年生の魔術科の教室には、二年生が集まって話を聞いていた。みんな進級がかかっているのからか、ずいぶんと真剣だ。
「先輩さんは、誰も空いていませんよ?どうしましょう…」
「大丈夫。ここにいればそのうち」
「あ!リュー君遅いわよ〜」
このようにノエルさんが出てきます。誰かの相手をしてなくて、良かった…。
「魔術の改造よね。懐かしいわ〜」
「去年のことですよね?」
おばさん臭いよー。
「リュー君はもう終わったの?」
「いや、まだ授業初日ですよ。終わるわけないじゃないですか」
「私も、リューさんならすぐに終わらせるかと思ってました」
「過大評価しすぎだよ…」
案はあるんだけどね。やってる暇がなかった。
「一つは出来ましたけどね」
「初日で一つ出来るのも凄いわよ。規格外ね〜」
なんですか、その目は。人外を見るような。あなただって似たようなもんなんですよ。
「私は半年で終わらしたけどね」
「それも十分凄いと思います…」
全くだ。
「それでリュー君は良いとして、タマモちゃんはどうするの?」
「それを先輩に頼みにきたんです。何か助言をくれませんか?」
「よろしくお願いあします!」
タマモが頭を下げる。
「それじゃあ、始めましょうか。リュー君も一緒にやる?」
「はい。何かヒントがあるかもしれないので」
「うん!頑張りましょうね」
「火を大きくして、形を潰したら...」
「でも、それじゃあ改良じゃ...」
しばらく、ノエルさんと話していると
「お、タマモじゃないか!」
タマモと同じ狐耳を持った、少年が話しかけてきた。タマモと同郷かな?
「おいおい、本当に学院に来たのか!全然魔術を使えないお前が!」
「それは...」
「ハハハ!笑えるぜ!魔術でいろんな場所を壊しまわってたお前が、魔術科に来るなんてな!」
「...」
タマモは唇をグッと噛み締めて、何も言わない。膝の上で手を握り締めている。
「何か魔術使ってみろよ!ほら! ん?お前は確かリューテシアだったな」
狐の先輩が俺を見る。
「結構魔術が使えるんだよな?タマモとつるんでるなんて、あんまり大したことなさそうだな」
俺を見ながらそんなことを言う狐。何言ってんだこいつ。
すると突然
「そんなことないです!!」
急にタマモが叫んだ。
「ああ?何だよ、タマモ。文句でもあんのか?」
狐がタマモに詰め寄る。
「りゅ、リューさんはあなたには分かんないくらい凄いんです!何も知らないのに、そんなこと言わないで!」
震えながらタマモは狐を睨み、言いかえす。ずっと自分を苛めてた奴で、怖いだろうに...。
「はん!そんなに言うんなら証拠見せろよ、証拠!見せてくれんなら信じてやるよ」
無茶苦茶言うなよ...。そんなんどこに...。
「...なら私と勝負してください!私が勝ったらリューさんに謝ってもらいます!」
おいおい、何言ってんだよタマモ!