実戦試験
「それでは、試験用紙をまわしてください」
筆記試験が終わり、用紙を前に送る。やっぱ、そんなに難しくなかったな。数学は九九までだったし。
「どうだった」
隣の狐っ娘に聞く。緊張はとけたみたいだけど、
「はい!落ち着いて、試験を解くことができました。本当にありがとうございました!」
狐っ娘がペコっとお辞儀してくる。律儀だな〜。
「そういえば君、なんて言うの?僕はリューテシア、リューって呼んでね」
「私はタマモです。リューさん、本当にありg」
「もう十分だよ」
タマモの頭を撫でる。「ふみゅ〜」とタマモはなすがままだ。いい子だな、撫でさせてくれるなんて。
「それじゃあ、次の試験に向かおうか。俺は武術と魔術を受けるんだけど」
「私も同じです!魔術は授業なんですけど」
「ん、おそろいだね。同じクラスになったら、よろしくね」
タマモと一緒に、次の試験会場に向かう。「えへへ〜♪おそろいだ〜♪」と言っていたのは、無視しておく。
次の試験会場は、王都で行った鍛錬場みたいな場所だった。学院では、訓練場と言うらしい。
訓練場の前で、さっきと同じ生徒たちが集まっていた。レアとシャネルちゃんんは、終わるまで会えないか。色々心配だな。レアたち可愛いから、ナンパとかされてないかな? 過保護?褒め言葉です。
「ここで、待つみたいだね」
「そうみたいですね。あ!あそこのソファー、空いてますよ」
空いているソファーがあったので、タマモと座って待つ。お、呼ばれ始めたな。試験内容は、受けるまで分かんないのか。
「き、緊張しますね…」
タマモに目を戻すと、また緊張してきたらしく、少し震えていた。アガリ症なのかな?
「まったく。ほら、よしよし」
「えへへ、すいません。私、この試験に自信がなくて」
「どうして?」
「うまく魔術を操れないんです。才能がないみたいで…。そのせいで、故郷じゃおちこぼれって言われてて…。みんなに怪我させちゃったり、物を壊したり。・・・怖いんです。ここでも失敗して、みんなから馬鹿にされるのが…」
タマモが自虐するように、笑いながら言う。・・・まったくこの子は、ホントに世話を焼かせるな。
「大丈夫だよ」
タマモの頭を、俺の肩に抱き寄せて撫でる。
「それなら、僕がいっしょに訓練してあげる。おちごぼれなんて、言わせない。見返してやろうよ」
「・・・迷惑じゃないですか?私、操れないからとっても迷惑かけちゃいますよ?リューさんも、馬鹿にされちゃうかもしれないんですよ?」
「そんなの全然平気。タマモが、一人ぼっちになっちゃうほうが辛い。大丈夫、いっしょに頑張ろう?」
「・・・はい!よろしくお願いします!」
タマモが笑いながら、泣いている。目尻にたまった涙をふいてあげる。
「それなら、まずは試験を頑張ろうか」
「そうですね、頑張ります!」
タマモの頭を撫でてると、
「255番の方〜。来てくださーい」
「あ!私の番号です。それじゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい。落ち着いてやるんだよ」
と言って、タマモが走って試験官の元に向かっていった。がんばれよ〜。
それから、しばらく待っていたら
「隣、座っていい?」
「いいよ」
隣に座ってきたのは、茶髪の少年だ。ふむ、顔は普通だな。こいつは、味方だ。
「俺は、アランだ。よろしくな!」
「僕はリューテシア、リューって呼んで」
アランか、良い奴そうだな。
「リューか。ここにいるってことは、武術をやるんだよな?」
「剣を鍛えているんだ」
「そうか!やっぱり男なら、剣だよな!」
うお!親父みたいなことを、言う奴だな。
「俺は大人になったら、騎士団に入りたいんだ。ジェイル様みたいなすごい騎士になりたいんだ!」
親父みたいに!? ・・・うん、頑張れ!
「そ、そうなんだ。頑張ってね…」
「おう!それで、リューは何になりたいんだ?」
「僕?僕は・・・何だろ?」
「おいおい…」
そういえば、考えたことなかったな。とりあえずレアたちを鍛えるために俺も強くなったけど、レアたちを鍛え終わったらどうしよう?
「まあ、学院にいる間に考えるよ」
「決まったら、聞かせてくれよ!」
「285番の方〜。来てくださーい」
「あ、呼ばれた。それじゃあ、行ってくるね」
「頑張れよー!」
アランの声を背に受けて、試験官さんの元に向かう。
「285番の方ですね?それでは、ついてきてください」
試験官さんの後を追う。広い訓練場に着いた。
「それでは、頑張ってください」
と言って試験官さんが戻る。奥に誰かいるので、進んでいくと
「ふふふ。リュー君、久しぶり♪」
「ええ!?エリザさん!?どうしてここに!?騎士団は!?」
エリザさんが、木剣を持って立っていた。なんで、この人が?
「騎士団を辞めて、ここの教師になったの。レアちゃんや君も、今年入学するって聞いてたしね」
「そうなんですか…」
「それじゃあ、始めましょか。魔術は、強化魔術のみ。時間は、こちらが止めるまでよ。剣でいいわね」
「はい、それでいいです」
木剣を受け取って、構える。とりあえず様子見で強化魔術を練る。この人は、苦手だな。
エリザさんは、剣を構えたまま動かない。先手は譲ってか?それじゃ。
一気に懐まで入って、袈裟切りを放つ。後ろに下がって躱されるので、突きを放つ。これも避けられエリザさんが横に斬ってくるので、
しゃがんで左手で殴る。これは当たると思っていたが、避けると同時に回し蹴りを放たれる。避けれないとふんで、後ろにとんで出来るだけ威力を殺そうとする。蹴りをくらって吹っ飛び、着地する。
「まだまだ本気じゃないわね。全力をだしなさい。落とすわよ」
うえ!脅してきやがった。だから、この人は嫌いなんだよ。くそ、しょうがない。
人刃一体から、風装を発動する。今は力より、速さが欲しい。エリザさんは風装を纏った俺を見て、
「ッ!本当に面白いわね、リュー君。その年で、そこまでできるなんて!」
一瞬で間合いを詰めて、横を通りながら斬る。ガードされるが振り向いて、ガンガン斬りつけていく。
だが、かなりの速度で斬っているにも関わらず浅くはいるだけで、危ないのはガードされるか躱される。マジかよ…。全力でやっても無理なのか。
いつまでも斬ってはいられず、隙をついてエリザさんに斬られそうになり、一旦剣でガードし距離をとる。さて、全力は通用しなかった。どうするか…。
「うん!もう大丈夫よリュー君。今の実力は分かったわ」
「へ?終わりですか?」
「あら、まだ何かあるの?さっきのが、全力だと思ったんだけど?」
「いえ、ないですけど…」
「それならいいわ。この試験は、今の実力を見極めるものよ」
はぁ。全然敵わなかったな。
「リュー君は、魔術の試験もあるでしょ。そっちも頑張りなさいよ」
「はい。ありがとうございました」
俺は、エリザさんの奥にある扉を通っていった。
扉の近くに魔術の試験会場までの道が書いてあったため、その通りに進んでいくと今度は別の訓練場に生徒がたくさん集まっていた。
「あ!リューさん、こっちですよー!」
タマモが俺に手を振っているので、そっちに向かう。
「タマモ、どうだった?」
「落ち着いて出来ました!武術はそこそこできるんですけど、魔術がうまく操れないので…」
「そっか…。今出来なくてもまだまだ時間はあるから、今できる全力をだそう?」
「はい!」
タマモが笑顔で答える。いい子だな、タマモは。
「そういえば、なんでこんなに人が集まってるんだ?武術の試験は一人ずつだっただろ」
「えっと、みんなの前で魔術をあの大きい水晶にぶつけるんですって。精神力を見るって」
緊張にのまれない精神が必要ってか。
「あ、見てください。あの人、魔術を撃ちますよ」
水晶から少し離れた所に男の子が立ち、
「ファイアランス!」
ボウ!と火の槍が水晶にぶつかり、散る。『おおー!』と、感心したような声が周りから聞こえる。
ふむ、俺くらいの年ならあれくらい使えればすごいのか。成長速度上昇って、やっぱりすごいな。
「リューさん。あれってすごいんですか?私、うまく操れないですけどもっとすごいの撃てますよ?」
タマモが聞いてくる。タマモは、もっと強いのか。
「まあ、人それぞれだよ。そろそろ俺たちの番かな?」
俺ももっとすごいの撃てるけど、どうしようかな。憎まれっ子世にはばかるからな〜。
そんなことを考えながら、順番がまわってくるのを待っていた。