邂逅 その2
またまた、運命の出会いです。
こんどはヒロインじゃないですけど。
俺が親父に連れて行かれたのは、立派な建物だった。
「父様、ここは?」
「ここは王立図書館だよ。魔術書や歴史書、地図とか色んな書籍が保管されているんだ」
「ここにその、ゲオルグさんが?」
「そうだ。ここの司書をやっているんだ。といっても本を整理するんじゃなくて、危険な魔術書などを管理する裏の司書だけどな」
危険な魔術書ってどんなんだよ…。
「それじゃあ、行こうか」
親父が図書館に入るのに続いて、俺も一緒に入っていく。
図書館の中は、入口の近くに受付があり奥には本棚があり、たくさんの本が収まっている。
「リュー、こっちだよ」
「あ、はい!」
親父が奥に進んでいくので、ついて行く。
どんどん奥に進んで行き、何回か角を曲がったりしながらある扉の前に着いた。
「父様、ここに?」
「ああ、ここにゲオルグの爺さんがいる」
親父はドアノッカーを手にし、ゴンゴンと扉を叩いた。
「ゲオルグ爺さん!ジェイルだ!開けてくれ!」
すると、ドアがギギギッと内側に開いた。親父に続いて中に入るとそこは、
「うわー」
ここにもたくさんの本棚があり、様々な本がつまっている。よく見ると、何か変な魔力がまとわりついている本もある。
「ゲオルグ爺さん。いないのか?」
親父が奥のほうを見ながら、そんなことを言っている。留守なのか?
「ワシは約束を守らんほど、薄情じゃないわい」
いきなり声が聞こえた。気配がしなかったぞ!後ろを見ると、
「なんじゃ。こいつがお前の息子か」
骸骨がいた。
「うわ!ガイコツ!」
「誰がガイコツじゃ!そこらへんのスケルトンと、いっしょにすでない!ワシはリッチじゃぞ!」
「リッチって不死を研究した末に自分がアンデットになるあの?」
「ほぅ。年の割に博識ではないか。ワシのことを知っとるとは」
あ、あってた?
「リュー、この人?がリューに闇の魔術を教えてくれるゲオルグ爺さんだ」
ゲオルグ爺さんは、黒いローブを着ているガイコツだ。ところどころにアクセサリーをつけている。
「じゃ、俺は用事あるからあとはよろしく!リュー、頑張れよ!」
と言って親父は去っていった。忙しいな。
「・・・」
「・・・」
沈黙が下りる。
「とりあえず、茶でも飲むか」
ゲオルグさんが手を叩くと、ガイコツさん達がティーセットと机と椅子を持ってきた。
「ホレ、座らんかい」
「えっと、ありがとうございます」
ガイコツさん達に、お礼を言いながら座る。カタカタカタッとアゴを鳴らして、ガイコツさんは答える。
「お主、闇の魔術はどれだけ覚えてる?」
「ダークとパラライズミスト、ポイズンミストとダークボールですけど」
「何じゃい、そんだけか」
淹れられたお茶を飲みながら答える。美味しいな、このお茶。
「すいません…」
何も言えねぇ。
「まあ良い。そんくらいのほうが、教えがいがあるってもんじゃ」
「はぁ…」
「もっと気の入った返事をせんかい!」
「は、はい!」
「うむ、よろしい。それでは始めよう」
ゲオルグさんの授業が始まる。
「闇魔術の真髄は、他者を狂わせ支配し気づかれないうちに、敵を仕留めることじゃ。パラライズミストやポイズンミストがいい例じゃろ?」
「でも他者を支配するものは、ありませんよ?」
「それをこれから、教えるんじゃ」
ゲオルグさんが立ったので、俺も席を立つ。ガイコツさんたちが、机を片付ける。
「最初にお主に教える魔術は『サーヴァント』じゃ。他者を隷属する魔術じゃ」
「えっと、それってまずくないですか?」
「何。隷属すると言っても、双方の同意がないとこの魔術は発動せん。それにもともとこの魔術は、魔獣を従えるための魔術なのじゃ。今は奴隷にも使われとるがな」
「魔獣を?誰が使うんですか?」
「ワイバーンを騎獣にしたりじゃ。魔獣を従えるには、その魔獣に勝たねばならん。人の場合は、同意のみだがな。一人で戦わないと従魔にできないから、あまり数は多くないがな」
実力を示して、従えるのか。弱肉強食の世界だな。
「けど、どうやって練習するんですか?」
「こいつを使う」
と言って出したのは、小さな子犬。かわええーー!
「ウルフの子じゃ。こいつなら勝負するまでもないじゃろ」
子狼だったのか、それじゃあ
「サーヴァント」
すると俺の魔力が子狼に流れこんでいき、それが収まると子狼の目が青く変わっていた。
「目が…」
「成功じゃな。そのように従魔になると目が青くなる。次は解術じゃな。解放するよう念ずるのじゃ」
解放、解放と念ずると目が赤く戻った。
「よし、とりあえずはこれで良しとしよう。それでは次の段階に移ろう」
次の段階か。何をさせられるのかな?
「お主には、夜に墓場に行き従魔を連れてきてもらう」
はい?
「はぁ、どうしてこうなった」
懐かしいセリフをはきつつ、俺は鍛錬場に向かっていた。
ゲオルグさんは、夜に詳しく説明すると言って俺を図書館から追い出した。行くところもないので、鍛錬場に戻ろうと思ったわけだ。
何で墓場何だろうな。墓荒らしにならないかな?
とか、考えながら歩いていたら
「痛ってー!!このガキぶつかりやがった!」
前のほうで誰かが騒ぎ始めた。
「おいおい、どこ見て歩いてんだああん!?」
「謝れよ、オイ!」
ガラの悪い三人組が、誰かを囲んで絡んでいる。絡まれていたのは、
「何だよ!お前らからぶつかって来たんだろ!?」
俺と同じくらいの少年が、三人組に噛み付いていた。
「こいつ反省するどころか、俺たちのせいにしてきやがったぜ!」
「これはお仕置きしなくちゃいけないなぁ」
…雲ゆきが怪しくなってきたな。周りの大人は巻き込まれたくないのか、目をそらしている。
どこに行っても、人間は同じだな。
しょうがない。
「こら!なにしてるんだ!」
俺は、少年を殴りつつ三人組に相対する。
「何だお前。お前もお仕置きされてぇのか?」
「僕はこの子の連れです。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ほら、お前も」
少年の頭を下げつつ、俺も頭を下げる。
「何だ、連れか。俺らはこいつに迷惑かけられたんだ。どう落とし前つけてくれるんだ?」
「お前らが悪いんだろ!」
少年が叫ぶのを黙らせつつ、どうするか考える。そうだな…。よし、
「あっ!騎士さんだ!」
『な、なにぃ!』
三人ハモって、後ろを振り向く。面白いなぁ、この人達。今のうちに!
「ほら、逃げるぞ!」
「あ、ああ…」
少年の手を引いて走り出す。人ごみの中に紛れて逃げる。
「オイ、騎士なんていないって逃げられた!」
「クソ!どこいった!」
「覚えてやがれー!」
三人の叫び声を聞きつつ、俺らは出来るだけ遠くに逃げるため逃げるのだった。
「ここまでくれば、大丈夫かな…」
鍛錬場の近くまで来たので、走るのを止めると
「おい!何で逃げたんだ!!」
少年が詰め寄ってきた。
「何でって、じゃあなんで君は逃げなかったんだ?」
「だって、俺は悪くない!悪いのはあいつらだろ!?」
「本当に?絶対に自分がぶつかってないって言い切れる?」
「そ、それは…」
少年が言いよどむ。
「で、でもどうして逃げたんだ!?男なら、逃げちゃダメだろ!は!もしかして、お前は女!?」
「んなわけないだろ」
チョップをズビシッ!といれる。「うげ!」と少年がうめく。ノリがいいな、こいつ。
「いってー。なにすんだよ」
頭をさすりながら、少年が睨んでくる。
「あのな、お前はあいつらに勝てんのか?」
「勝てないけど」
「だろ?それなら逃げればいい。そして強くなってから、また挑めばいい」
「でも、逃げたらダメだって…」
「それは、勝てそうな相手だったらだ。絶対に負ける相手に挑むのは、勇気じゃなくて無謀だ」
「それに、もし相手が魔獣とかだったらどうする?お前は無駄死にするだけだ。立ち向かう勇気と、相手の力量を読めない無謀を一緒にしちゃダメだぞ」
それっぽいことを言ってやると、
「・・・そうだな。怒鳴ったりして悪いな。あと、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。それで君の名前は?」
「俺の名前はロキだ。皇国から来た」
「皇国から?」
「ああ。父様についてきたんだ」
「へぇ…」
商人とかかな?
「それじゃあ、俺の方がこの国の先輩だな。これからは俺のことを先輩と言うように」
「うっす!よろしくっす先輩!」
ノリがいいな、こいつ。部下を思い出すな。元気にしてるかな、あいつら。
「じゃあ、行こうか」
「ついて行くっす!先輩!」
こうして、ロキといっしょに鍛錬場に向かうのだった。