戻ってきた日常
「それで、皆はいつから神界にいるんだ?それに来るタイミングも同じみたいだったけど...」
レアたちが落ち着いたところで、気になっていたことを聞く。寿命が違うから別々に来ると思ってたんだけど...。何かこう、神界に慣れていない感じが似たような感じだ。また部長が何かやったのか?
「ああ、それね。死んだ時期はそれぞれだったけど、ここに来るのはそろえたんだ。いっしょのほうがいいと思ってね」
「そうですか、ありがとうございます。今度一杯おごりますよ」
「君、酒は飲めなかっただろう?飲めないまま死んじゃったんだし」
「イグナシアに行って、少し飲めるようになりました。向こうでは、十五で飲めましたし」
「へー...。それなら期待してもいいのかな、楽しみにしてるよ」
部長はこれでオッケー。後は・・・ビアンカだな。姿が見えない。来てないのか。
「ビアンカさんは後から来るって。忙しくて中々抜け出せないみたいだよ。大変だねー」
「忙しいのは部長も同じでしょう?フォローはしますけど、期待しないでくださいね」
「まあ、君が事情を説明したら少しは軽くなるでしょ。もしかしたら、お咎めなしかも!」
「いや、それはないです絶対。携帯に連絡いってるでしょ?覚悟してくださいって」
「・・・死なばもろとも...」
「やめてください。俺はこれからなんです!一人で頑張ってください!二日経っても終わらなかったら手伝いますから!」
「・・・全力を尽くすよ」
部長の背中に哀愁が漂っている。・・・一日半にしておこう。
「そういえば、なんで集まってるんだ?何かやるの?」
「・・・ああ、そうだった!リューに会えて興奮してて、すっかり忘れてた!」
「そうでした。私たち、パーティーの準備をしてたんです。リューさんお帰りなさいパーティーです!」
「箱庭の中の方が、兄者が喜ぶと思ってな。兄者の知り合いは、ここから出られないらしいしな」
「そういうわけで、早く行きましょ!色んな人たちが待ってるわよ!」
レアやシャネルちゃん、タマモとミズキに手を引かれていく。ノエルさんは俺の背中を手で押しながら歩き、ロキとグルドとラルカさんは後ろからついてきている。・・・こういうことだけで、地獄で頑張って良かったと思うな。神界には友人といえる友人がいなかったからな...。マジプライスレス。
箱庭内にある広場に色んな人とやらは集まっているらしい。リアとかベスとかカルラたちだろうけどな。あ、俺の部下もいるかも。無事だといいけど...。
広場に近づくにつれ、大勢の騒ぎ声が聞こえてくる。大方、飲み比べでもしてるんだろう。毎日やって飽きないのか?先生も言ってるぞ。酒は飲み始めしか酔えないって。恋と香もまた然り。けっこう似てるな、恋と香って。
広場に入ると、ベスとその他諸々が酔いつぶれており、その奥ではカルラが青い顔で杯を傾けている。
「うぐぅ...!これで、どうだ!」
「オオ!他の人より持つネー。それじゃあ・・・はい、もう一杯!」
「ぬお!?うぐぐ...。うえ...」
「吐くなら向こうで吐いテネー」
カルラが広場の奥へと走っていく。飲み比べをしていた相手は、立ち上がって大きく一伸び。
「んうぅぅー。フウー...。ここの人たちはだらしないナー。もっと持つ人はって...」
艶やかな黒い角を持った女性と目が合う。彼女はしばらく固まった後、広場の奥へ歩いていった。
「・・・ミズキ。あれって、フェイさんだよな?」
「そうだぞ?まさか・・・覚えてないのか!?」
「いや、覚えてるけどさ...。なんで奥に行っちゃったんだ?あと、フェイさんは俺のことを覚えてるのか?」
「ああ、全部思い出してるぞ。兄者がいなくなった後に、王国に転移してきたんだ。兄者が残した気術具を使ってな。記憶は魂に残っていたらしい。ほらあっただろう、魂から隷属するってやつだ」
「そうだったのか。タイミング悪すぎだろ...。奥に行ったのは・・・照れてたから?」
「そうだろうな。ずっと想い続けていた人とようやく会えたんだ。距離感があっても仕方ないだろう」
「俺はそんな感じはしないけどな。あんまり変わってなかったし」
「そんなこと言っては駄目だぞ。綺麗になったとか色気が増したとか、大人っぽさを匂わせて褒めてあげなきゃな!」
「女心は大変だな...」
五分ほどでフェイさんは戻ってきた。少し頬を染めながら、俺を見上げてくる。
「その・・・りゅー君ダヨネ?顔が変わってるケド...」
「はい、そうですよ。・・・前の方が好みでした?」
「い、いやそういうのじゃなくテ!りゅー君の顔が好きなんじゃなくて、りゅー君そのものが好きなんだから、どんな顔のりゅー君でも大好きダヨ!」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです。本当に...」
「エヘヘ...。でも驚いたヨ。りゅー君が天使だったナンテ。そうだ、色んな人たちが待ってたんダヨ!って...」
酔いつぶれた人たちが積み重なっている広場を、フェイさんと見る。フェイさんはテヘペロ☆といった感じで頭をかきながら、
「やりすぎちゃったカナ?」
「やりすぎです。かなりの酒豪ぞろいですよ。どんだけ空けたんですか...」
「十数樽は空けたんじゃないカナ?全員で飲んだから、私は数樽分くらいしか飲んでないと思うヨ」
「数樽分って...。あれって、けっこう強いやつですよ。それを数樽飲んでピンピンしてるって、どこの勇者ですか...」
そりゃあ、皆潰れるわ。フェイさんと飲みにはいかないようにしよう。
潰れてた奴らの酔いを覚ますため、全員を湖まで連れて行き中に沈めていたら、夕方になってしまった。これに懲りて、しばらく酒は謹んで欲しいものだ。
「戻ってきた早々、何をしてるのかと思ったら...。フェイの仕業だったのね...」
「エヘヘ、久しぶりビアンカ!元気でやってタ?」
「そうね...。元気と言えば、元気だったわね。なんせ、元気じゃないと死んじゃうもの...」
運んでいる途中で、ビアンカがやってきた。姿は全く変わっていない。吸血鬼だしな。それはいいとして、元気じゃないと死んじゃうって、どういうことだ?
「なあ、ビアンカ。どこで働いてるんだ?そんなに厳しいところなのか?」
「セラフィム様のところよ」
「・・・頑張れ」
仕事の合間の息抜きと称して、訓練をつけてるんだろうなぁ。俺も昔よく呼ばれてたからなぁ。息抜きなのに、午前中ずっとやらされてたからなぁ。ああ見えて、師匠は武闘派だ。気合いとかを持ち出すこともある。そんな師匠との訓練は、過酷ここに極まれりだ。無理にでも元気を出さないと、死ねる。
「うええぇぇぇ...。気持ち悪ぃですわ...。何なんですの、あの鬼娘は...」
「あんだけ飲んで、まったく酔ってねえなんて...。本物の化け物だ...」
「失礼な人たちダネー。ていうか、あんたたちには言われたくなイ!」
ベスとリアが頭を抑えて呻いている。そうなるくらいなら、飲まなければいいのに。ていうか仲いいな。飲みニケーションってやつか。
「イッセーもそう思うだろ!?あんな強い酒を一気に飲んで、まったく酔っていないんだぞ!?」
「ちょっと強いだけダヨー。故郷にはもっと強い人がいたしネ」
「なんて種族ですの...。まさに酒を飲むために生まれてきた人たちですわ...」
皆が復活するまで、しばらくかかりそうだ。宴会はお預けになるかもな。
思ったより皆は早く復活し、現在宴会の真っ最中だ。潰れるくらい飲んだはずなのに、酒を飲むスピードはどんどん早くなっていく。
「はっはっは!まだまだいけるぞー!」
「全然余裕っすよ!それとも、箱庭の方たちはそんなもんなんすかー!?」
グルドとロキがフェイさんに変わって、飲み比べを始めている。普段なら絶対に負けないんだろうが、いかんせんさっきのダメージが尾を引いているようで、あまり杯が進んでいない。
「全く、何をやっているんだか...。それはどうでもいいから、そっちでのリューの話を聞かせてくれる?」
「いいよー、何から聞きたイ?色々アルヨー。ビアンカやミズキのおすすめハ?私は初めての時カナ」
「私は兄者と初めて会った時だな。あれで私の運命が変わった」
「私は一緒に温泉に入ったことね。あれが初めてだったし」
「詳しく聞かせて!隅から隅まで、余すとこなく!」
女性陣はフェイさんたちから、別の大陸での俺の話を聞いている。後で色々問いつめられそうだな...。
俺はというと、少し離れた所で一人でちびちびと酒を飲んでいる。しばらくぶりの箱庭だからか、少し感傷的になってるのかな。
そんな俺にカルラが近寄っていた。飲み比べを観戦してたのに、何をしに来たんだ?
「こんなところにいたのか。何してるんだ?」
「ちょっと思うところがあってな」
そのまま隣に座るカルラ。持って来たのであろう酒瓶を、俺に差し出してくるので受け取る。
「思うこととは?」
「まあ、昔のことを思い出してただけなんだけどな。まだ生きてた頃は、特別な何かになりたかったんだ」
「なんだよ、特別な何かって。アバウトすぎるだろ」
「ああ。我ながらアホらしいよな。そうなるための努力もしないで、なりたいとか思ってたんだぜ。ちゃんちゃらおかしいよ」
乾いた喉に、一口酒を注ぐ。過去のことはあんまり話したくないんだが、まあ自分から言い出したんだからな。最後まで話さないのは、マナー違反だ。
「自分がなんで生きているのか、分からなかったんだ。何のために存在しているのか。存在理由ってやつだな。そんなだったから、異世界に行きたいなんて言ってた」
「・・・そんなもの、人間が分かるわけないだろう。昔のお前は馬鹿だったんだな」
「放っとけ。神様なんて信じてなかったんだよ。でもまあ長い間生きて、そんなの分からなくてもいいって思い直した」
「ほう。その心は?」
「特別な存在になるより、大切な人たちと一緒に生きてく方が楽しい。そう思ったんだ」
元々俺は平凡な学生だ。そんな特別なものになれるほど、出来た人間じゃない。人並みな幸福で十分だったんだ。
「それにあれだろ。どんなにファンタジーなところ行っても、過ごすうちに慣れるしな。箱庭や地獄もそうだったし」
「お前が言うと説得力が強いな...」
「そうだろうそうだろう。非日常だって、慣れたら日常になる」
そう言いながら皆を見る。自分がどう思うかが重要なんだ。たとえそれが、どんなにありきたりの幸福でも、それで良しと思えるなら。
「お前らしい結論だな。そう言うってことは、見つかったんだな?お前なりの幸福が」
「おう。見つかったとも。今もこうして見ているしな」
「・・・なるほど。それは確かに、ありきたりでテンプレートな幸せだな」
カルラも皆の方を見る。覚ってくれたようでなによりだ。言葉で説明するのは、ちょい恥ずかしい。
「リュー!飲み比べがヒートアップして、ちょっとしたことで喧嘩が始まっちゃった!」
「・・・そんな所だったな、ここは。それで、どんなことが原因なんだ?」
「リューが帰って来たってことで、昔のことを話してたら、おにぎりの具で口論に!」
「またか!どうせシャケか梅干しかだろ。明太子が正義だと言っとけ」
「そ、それが周りの人間を巻き込んで、一大決戦を開始しちゃって!ほらあれ!」
レアがやって来て、来た方を指差す。そちらでは熱線や竜巻や濁流が飛び交い、周囲は酷い有様になっている。
「うわー...。あそこにいた奴らが皆戦ってんのか....」
「今は天むす派も加わって、三つどもえで潰し合ってるの!早くしないと怪我人が出る!」
「まったく...。帰って来た初日くらい、ゆっくりとさせてほしいもんだ」
そう言いながらも、腰を上げて軽く身体をのばす。こうは言ってるものの、実際は満更でもない。だって、これは俺が望んでいた日常なんだから。
「そんじゃ、寝る前の一仕事だ。さっさと片付けますかね」
そうして俺は、レアと一緒に歩き出す。騒々しく荒々しいが、どこか優しい仲間たちの元へ。
これでこの話は完結です。少しすっきりしませんが、グダグダにはしたくなかったので。
今まで読んで頂いて本当にありがとうございます。これからも小説を投稿していきますので、読んでもらえたら嬉しいです。本当にありがとうございました!