別れ
<side レア>
「リュー、いるー?」
リューが泊まっている部屋の扉をノックする。昨日の事が聞きたかったけど、親衛隊はグルドと一緒に王城に行っていた。異形との戦闘について、国王や大臣たちに説明するためだ。わざわざグルドを呼ぶ必要はないのに...。本当に、頭の固い奴らは面倒だ。
報告は夜までかかった。お姉ちゃん達と出かけてたリューは、もう部屋に戻っているらしい。ビアンカも見ないから、二人で何かやってるのかな。変な事やってなきゃいいけど。
ノックしても返事が無いので、扉を開けてみる。寝てるのかな?
「リュー?寝てるのー?」
部屋の中は、もぬけの殻だった。ベッドが少し乱れているから、どこかに出かけたんだろう。どこに行ったのかな?また街に出たのかな?
ランプを付けるために机に近づくと、上に手紙が置いてある。これって・・・リューが書いたのかな?表紙には「皆がそろっている時に開ける事」と書いてある。・・・とりあえず、皆を集めよう。出来るだけ早く読んだ方がいいと、私の勘が告げている。
大きな部屋に皆を集めて、手紙を見せる。とりあえず全員呼んでくるよう頼んだのに、ビアンカの姿がない。
「ビアンカは?」
「城中探したけど、どこにもいないのよ。一人で街には行かないだろうし、多分リューと一緒なんじゃない?」
リューとビアンカがどこにもいない?・・・そういえば異形との戦いの時、ビアンカを見なかった。戦っていたら、目立つはずなのに。もしかしたら、リューと一緒にいたのかも。・・・とにかく、手紙を見てみよう。そこに知りたいことが書いてあるはず。
二つに折り畳まれている手紙を開いて、皆に聞こえるように読む。内容はこうだ。
『皆がこの手紙を読んでいるころには、俺とビアンカは王国にはいない。どこか遠い、それこそ竜人やエルフ
が一生かけてもたどり着けないような、そんな所に俺はいるだろう。
なので、この前みたいに俺を捜したりはしないでください。絶対見つけられないからな。
もともとビアンカを連れて行くつもりは無かった。こうなるとバレてしまったので、仕方なく連れて行くこ とになったんだ。えこひいきとかじゃないからな?
勝手にいなくなるのは悪いと思ったが、皆を守るためにはこうするしかなかった。あのまま戦っていたら、間違いなく全滅していたからな。それだけは、絶対に避けたかった。
戦闘中に出現した二匹の巨獣は、俺が召喚したものだ。ある所で知り合って、友人だったんだ。いや、人じゃないよな。友獣?まあ、今は関係ないか。置いておこう。
そいつらと俺とビアンカの力があって、異形たちのボスを倒す事が出来た。そのときに負った傷を治すには、その遠いところに行かなきゃいけない。さすがに、死ぬのは嫌だからな。
そういうわけで、俺とビアンカはいなくなったわけだ。別にもう会えない、ってわけでもない。かなり後になるだろうけど、皆が死ぬ頃くらいには会えるはずだ。約束するよ。だから、頑張って長生きしてくれ。
レアはもう親衛隊にいる必要はないだろ?自分がしたいことをして、後悔しないようにすること。自分で考えなきゃ駄目だぞ。
お姉ちゃんは、あまり心配することはないけど、しばらく頭を撫でられないのが辛いな。また会えたら、まとめて撫でるよ。
タマモは自分とその周りの事を、一番に大切にすること。他人に優しく出来るのはいいことだけど、そのせいで自分が不幸になったら駄目だ。
ノエルさん。皇国にいけなくてすいません。絶対にまた会いにいくので、その時に埋め合わせをさせてください。
グルドは帝国で頑張れ。政治の世界は大変そうだけど、グルドなら大丈夫だろう。いい国を作れよ。
ラルカさん、グルドを支えてあげてください。苦しいときに誰かが側にいるかどうかで、辛さが違ってきますから。
ロキも皇国で頑張れ。グルドとは仲良くしておけよ?皆で協力して、平和な国を作っていけ。
ミズキは学院に通ってみたらどうだ?行ってみたいって言ってただろ。紹介状を書いといたから、もし入学したいならそれを持っていけ。まあ、やりたいことがあれば、それをやったらいいんだけどな。自分とよく相談して決めるんだ。
俺が言いたいことは、これで全部かな。俺も遠くで頑張るから、皆も頑張ってくれ。それが一番嬉しい。俺を捜そうとしたり腐ってたりしたら、分かるからな?何回も言うが、俺は大丈夫だ。各々のことに集中すること。お兄さんとの約束だぞ?そんじゃ、頑張ってな。応援してるぞ』
手紙を読み終えて顔を上げると、皆一様に顔を下に向けていた。タマモは泣いている。手紙と一緒にたたまれていた学院の紹介状を、ミズキに渡す。
「・・・やっぱり、あの大きな力はリューさんのだったんですね。また無茶して...。死んじゃったら、どうするんですか」
「リューのことだから、自分一人の犠牲で皆が無事なら安いもんだ、とか言いそうね。残された人たちの気持ちは、考えたことがあるのかしら...」
「その手紙が、リュー君なりの配慮なんじゃないかしら?何も言わないでどっかに行かれるよりはマシだけど...」
「死ぬ頃に会えるとは、どういうことなんだ?種族によって違うだろう。もしかすると、本当は帰ってこないのではないか?」
「・・・それは違うんじゃないかな」
皆が私の方を見る。怯むこと無く、私は思ったことを口にする。
「リューは嘘をつくことはある。けれど、約束を破ったことはないよ。だから、今回も約束は守る。本当に私たちが死にそうになったら、ヒョッコリ帰ってくるよ」
「・・・そうね。皇国には来れなかったけど、デートしてくれたもの。ちょっと違かったけど、約束を守ってくれてたわね。・・・うん、私は待つわ。リュー君が帰ってくるまで、頑張って生きるんだから!」
「わ、私だって待つわ!もっと撫でてくれないと、死んでも死に切れない!」
「私もリューさんに、故郷を見せてあげたいです。もっとリューさんのことを知りたいです。だから、ずっと待ちます。来るまで待ちます、死ぬまで待ち続けます」
「まあ、俺なら数百年は生きられる。そんだけ待ってりゃあ、いくらなんでも間に合うだろ。寿命が長いのはいいことだ」
「いや、きっとセンパイなら俺たち人に合わせるっす。だから、俺がお爺ちゃんになるくらいのころに、帰ってくるんス!」
「・・・私は学院で勉強する。兄者の進めもあるしな。そこで色んなことを学んで、いつか兄者を越える。帰ってきた時に、驚かせてやる!」
「リューを越えるのは、大変だよー?飛び級しないといけないしね」
「そ、そうか...。いそがしくなりそうだな...」
これで皆大丈夫。だから、私も大丈夫。リューは約束を破らないって信じているから。どんなに時間がかかっても、リューは絶対帰ってくる。そう確信しているから。
「それじゃあ、晩ご飯を食べにいこっか。しばらく会えないだろうしね」
「そうね。私たちもまだ食べてなかったし、いっしょに出かけましょう」
皆が出て行く後に続いて、私もリューの部屋を出る。ふと誰かの視線を感じて、近くの窓から空を見上げる。もしかしたら、手紙を読んでるかどうかリューが魔術で見てるのかも。
「待ってるからね。死んでも天国であなたを探すからね」
「レア、早くしなさい。皆待ってるわよ!」
「はーい!今行く!」
そうして私は歩き出す。少しの別れを惜しみながら。