後始末
俺が放った光線が邪神を消し飛ばした。それはよかったのだが...。
空に出来た、大きな黒い穴。俺が撃った光線は世界をも貫いてしまったようだ。早く修復しておかないと。それに、邪神が壊したところも直さなきゃいけないし。ここからが本番だな。
ふと、体に違和感を覚える。右を見ると、腕が肩関節からスッポリとなくなっている。ちょうど金色になっていた部分だ。背中の翼はまだ残ってるから、光線を撃ったせいでなくなったんだろう。・・・神界に戻ったら、治してもらえるだろうし問題ないな。修復にも、支障はない。
「とりあえず、大きい傷から直してくか。細かい傷は、後でまとめてやっちゃおう」
右腕がなくなってしまったので、左手だけ上げて穴に向かって炎を放出する。出された炎が穴の近くで揺らめくと、少しづつ穴が埋まっていく。完全に塞がるまで、ずっとこのままか...。
そういえば、みんなは無事かな。リアとベスがいるから、そう簡単にはやられないと思うけど...。早く戻って確認したい。あ、そういえばこの後、シャネルちゃんやノエルさんやロキに付き合わなきゃいけないんだっけ。何とか一日にまとめないと、大変なことになりそうだ。動けないんだし、今のうちに考えておこう...。
<side レア>
目の前に広がる異形の群れ。そのうちの数体を、まとめて斬り飛ばす。斬っても斬っても尽きることのない異形たちに、そろそろみんな限界が近いみたいだ。動きが悪くなって、キレが落ちている。
そう思ってる私も、かなり疲れている。腕が全然上がらないし、疲労で視界が歪んできている。
「レア、大丈夫?疲れてるんでしょ。少し後ろで休んでなさい」
「・・・大丈夫。まだまだ戦える。リューやビアンカは、もっともっと頑張ってるんだから...。私も負けてなんかいられない!」
「レアが大丈夫なら、いいんだけど...。無茶だけはだめよ。あなたが怪我したら、みんな悲しいんだから」
お姉ちゃんはそう言って、異形の中に突撃していった。お姉ちゃんこそ、無茶しちゃ駄目なのに。人のことをいえないよ...。
山の近くでは、二匹の巨獣が暴れ回っている。多数の異形を腕の一振りで消し飛ばし、口から出す水流で切り刻む。リューが確実って言い切ったのは、あの二匹がいたからなんだ。
山の頂上の跡、窪んだ更地になった所では、強い力がぶつかり合っているのが感じられる。片方は禍々しい魔力で、もう片方は私がよく知っている魔力。リューの魔力だ。量が馬鹿みたいに大きくなっているけど、確かにリューの魔力だと分かる。
気を引き締め直して異形と向かい合った直後、突如戦場に響き渡る爆音。再び山に目を向けると、爆煙がモクモクと立ち上っている。まさか、リューが!?よく目を凝らすと、空中に浮かぶ人影。そして急激に上昇していく、邪神の魔力。何をするつもりなの...!?あんな魔力が解放されたら、私たちなんかひとたまりもないわよ!リューは・・・まだ生きてる。魔力もそんなに減ってない。あそこで何が起こってるの!?
次々と起こるおかしな事態に困惑していると、今度はリューの魔力が爆発する。あの元凶と、同じくらいのパワーだ。そしてそのエネルギーが、一筋の金色の光となって放出される。その光は元凶を飲み込んだ後、空に大きな穴をあけて消えていった。
元凶が飲み込まれたと同時に、異形たちにも変化が起こる。動きがピタリと止まったと思ったら、グズグズと溶けるように体が崩れていった。これって、リューが勝ったの!?
「・・・おい、異形が消えたぞ。もしかして、終わったのか?」
「・・・復活しないな。俺たち、勝てたのか?王国を、家族を救えたのか!?」
最初は再生するのではないかと皆疑っていたが、しばらく待っても蘇らないのをみて、あちらこちらで歓声が巻き起こる。
「リューが言ってた作戦とやらが、成功したみたいだな。俺たちの勝ちだ!」
グルドがそう叫ぶのに呼応して、全軍の兵士が一気に勝利の叫びを上げる。リューがやってくれたんだ!元凶を倒してくれたんだ!
「レアー!!!勝ったわよ!リューが、倒してくれたのよ!」
お姉ちゃんが駆け寄ってきて、私に飛びついてくる。でも、私の目はまだ空に注がれていた。
「お姉ちゃん、あの穴...。まだ閉じてないよ」
「え?あ、ホントだ。もうすぐ閉じるんじゃないの?」
「そういう様子はないみたいだよ...。なんだろう。すごい嫌な感じ...」
まるで異界の底に繋がっているような、心の底から凍えるような感じ。この世のものじゃない?
あまりの悪寒に怯んでいると、穴が炎におおわれていく。さっきの光線と同じ金色だ。炎が触れた所から、普通の空に戻っているから、穴をあけた人が直しているんだろう。リューなんだろうけど、
「リュー、無事かな...。私たちも、あそこに行ったほうがいいのかな?」
「・・・行かないほうがいいと思うわ。行っても何も出来ないだろうし」
「そうだね...。約束を破ったことはないもんね。今回も、しれっとした顔で戻ってくるよね...」
「そうよ。ビアンカだっているし、大丈夫よ」
お姉ちゃんと一緒に、空を見上げる。リューが無事なことを、祈りながら。
「おーい、イッセー!死んでないかー!?」
「無事ですのー!?どこにいるんですー!?」
しばらく修復に専念していると、遠くからべスとリアの声が聞こえてきた。戦闘が終わったから、俺のところに来たのか。
「あ、いた!って、なんだその格好!?翼が金色になってるぞ!」
「あの男が言ってたでしょう。神獣の力をイッセーに貸すと。もう忘れたの?」
「あー...。・・・そういえばそんなこともあったな」
巨獣の姿の二人が更地の中に入ってくる。こいつらがいると、どこもかしこも狭く感じるな...。
「まったく...。それで、イッセーは何をしてるんですの?帰るなら一緒に帰りましょうよ」
「まだ帰らないよ。こっちでやり残したことがあるからな。今はあの穴をふさいでるんだ。放っておくと、せっかく救えた世界が壊れちゃう」
「大変だなー。世界を直せるなんて、ガルーダはすごいな。俺は壊すことしか出来ないし」
「そうですわねー。では、私たちは先に戻ってますわね。また箱庭で会いましょう」
「早く終わらせて帰ってこいよー!待ってるからなー!」
そう言ってべスとリアは、地面に空いた穴に入っていった。そこから神界に帰るのか...。空じゃないんだ。
「リュー!どこいるのー!?」
今度はビアンカか。これから忙しくなりそうだな...。