邪神対策
『それで、天使の俺にそうやって神を倒せと言うんです?自爆特攻なんてしませんよ」
『もっと現実的な案だよ。でも、そういう方法もありか...。検討しておくよ』
『すいませんしなくて結構です。本題に移ってください』
『オッケー。その方法というのは...』
『ゴクリ...』
『・・・君に神獣の力を、一時的に宿すって方法さ』
『神獣の?箱庭に住んでた奴らですか?」
『その通り。君が箱庭に勤めてたから、出来ることなんだよ。普通プライドの高い神獣が、一時的にはといえ自分の力を貸してくれるんだから。いやー、愛されてるねぇ』
『えーっと、いまいち話が見えてこないんですが...。どういうことですか?』
『簡単に言っちゃうと、神獣の魂の一部を君の中に移すんだ。そうすると、君は神獣の力を得られるって寸法さ』
『・・・神獣の力に、俺の体は耐えられるんですか?』
『天使の体を、甘く見ちゃあいけないよ。計算上では、戦闘くらい出来るように設計されてるね』
『戦闘くらい、ですか...』
『戦闘が終わっても、しばらくは保てるかな。君のは特別製だから、かなり頑丈なんだよ』
『特別製ね...。不測の自体を想定して?』
『不測じゃないよ。予測してたから、頑丈にしたんだよ』
『そうですか。それで、俺に力を貸してくれるのはどいつですか?リア?それともベス?』
『真っ先に彼女らが立候補したんだけど、君とは相性がそれほど良くなくてね。説得させるのに、苦労したよ』
『相性?』
『君は火を使うからね。水を操るリヴァイアサンは、相性最悪だよ』
『・・・それで、結局誰が力を?』
『ガルーダになったよ。知り合いでしょ?』
『ああ、カルラか。よく喧嘩してたな。確かにあいつは太陽神の乗り物で、自身も火の鳥だから合ってると思うけど...。他にも火を使う奴はいたでしょう?』
『君と仲が良かったってのもあるけど、一番は鳥だったからかな。天使には羽があるし』
『滅多に出しませんけどね。そんで、どうすれば魂を移せるんで?』
『簡単だよ。天使になる時と同じように、念じればいい』
『了解しました。出来るだけ使わないようにしますけど』
『まあ使うだろうね。頑張ってね。僕も個人的に応援してるよ』
『ははは..。そんなら、なおさら負けるわけにはいきませんね。・・・絶対に負けませんから』
『うん。五分五分の勝負だけど、君なら絶対に勝てる。頑張ってね』
『はい!』
人事部長と市野一誠の会話より抜粋。最後不自然に抜けていた部分である。
スイッチをさらに押し込むと、俺の体が暖かい光で包まれる。金色の光だ。
背中から六つの翼が発生し、後ろにブワッ!と広がる。鳥みたいなものではなく、白い炎で出来ている翼だ。さらに変化は続いていく。俺が来ている服が粒子に包まれたかと思うと、一瞬の内に学ランへと変わる。俺が神界にいたときと同じ格好だ。懐かしいな...。死んだ時のこの学ランを来てたから、神界に着いたときもこの格好だったらしい。俺がこの服を着ていたいって言ったら、師匠が知り合いに頼んで仕立て直してきてくれたんだよなー...。色々強化もしてあって、すごい丈夫になっていて。大切な服だ。
部長が気を利かせてくれたのかな。どんどん借りが増えていく...。
周りを見ると、何故か真っ黒の空間にいた。いつの間にこんな所に?邪神の仕業・・・ではないな。多分、部長とかだろう。今度は何が出てくるんだ?
「そんなにキョロキョロするな。阿呆みたいだぞ?」
俺の前に、突然一人の少年がどこからか出てくる。・・・なるほど。本当に、今日の部長は気が利くな。ちょうど話しておきたかったところだ。
「久しぶりだな。念願の転生を果たした気分はどうだ?」
「そりゃ、いい気分だよ。頑張って働いた甲斐があったってもんだ」
「ふーん。人間ってのは、よく分からないな。神界の方が、絶対いいだろうに」
その少年は、少し大きめな赤いパーカーとダメージジーンズをはいた、オレンジ色の髪と目を持っている。こいつがあのガルーダなんて、最初見たときは信じられなかったな。その後鳥になってもらって、ようやく信じれたけど。
「それはそうだけど、あそこはきれいすぎるんだよな。人間臭さがないっていうか、あるもの全てが整いすぎて、居心地が悪い」
「そういうものなのか...。到底理解できそうにないな」
「そうだろうな。神に人の心が分かるわけないし」
おっと、こんなこと話している場合じゃない。いつまでここにいれるか分からない。さっさと、話したいことを話しちゃおう。
「それは置いといて。ありがとな、力を貸してくれて」
「そのイグナシアだっけ?その世界がなくなると、お前も神界も困るらしいし、別にいい。俺にデメリットがあるってわけでもないしな」
「いや、プライドとかの問題が...」
「箱庭にそんなの気にする奴は、ほとんどいない。それに、あの男に直接依頼されたわけだ。俺を馬鹿にすることは、あの男を馬鹿にするのと同義だ。自殺行為だろ」
・・・部長って、かなりすごい人なんだな。ハゲって言って、大丈夫だったかな...。
「だからそんなこと気にしないで、思う存分俺の力を使え。あんくらいの邪神なら、一瞬で焼失出来るだろ」
「あー...。そんな火力は出せない。世界が壊れる」
神鳥というだけあって、こいつも神並みの力を持っている。そんな力を全力で使おうものなら、あっという間に世界が燃え尽きるな。
「・・・ってことは、お前は出せる力に制限がかかってるってことか!?」
「そうなるな。持久戦になるな」
「持久戦でも、壊れると思うぞ?強い力がぶつかり合うと、世界の耐久値も削られ続ける。結局、お前が勝っても世界が壊れる。勝負に勝っても、試合に負ける」
「それに、邪神は世界が壊れてもいいんだろ?全力の一撃を放つと思うんだが...」
うわ...。思ったより、俺が不利だな。・・・そういえば、
「火って破壊と再生の象徴だよな。ってことは、お前の火で世界を再生できないか?再生できるなら、俺も全力で戦える!」
「・・・出来なくはないな。神なんだし。だけど、そんな無理をしたらお前の体がもつかどうか...。戦闘するので、体は限界なんだろ?」
「戦闘の後も、しばらくは保つらしいけど...。ギリギリになるな。他にもやりたいことはあったんだが、そこらへんは気合でなんとかするよ」
「気合って...」
「俺の師匠がそんな感じだったんだよ。けっこうあるぞ、気合の効果」
気合でなんとかしろ!って、修行中によく言われたな...。今回も、気合に頼ることになりそうだ。
「んじゃ、俺はもう行くな。帰ったら、何か奢るよ」
「楽しみにしてるからな。お前の部下たちが頑張ってるけど、やっぱり箱庭はお前の管轄だ」
そう言って、ガルーラは去っていった。俺も早く戻ろう。この力があれば、邪神なんかに負けはしない。