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洞窟の奥

「ふふふ...。わざわざ殺されにこんな所まで来るなんて、本当にご苦労様です。その無駄な努力を評して、世界で初めて神の顔を見た人にしてあげましょう!」


洞窟の最奥の広間。そこに入った俺たちに、そんな言葉がかけられた。・・・ここにいるのは、俺とビアンカと邪神だけ。今の声は邪神のものだろうけど、全然重みがないな。人を嘲るような、他人を見下すのが楽しくってしょうがないって感じだ。邪神じゃないみたいだし、誰がこの部屋にいるんだ?どうやって、邪神の力を手に入れた?

備え付けられている、燭台に火が灯される。ろうそくの明かりで照らされた部屋の奥に、問題の誰かが座っていた。


「こんにちは。あなたは確か・・・リューテシア君でしたね。そちらは、従魔でしょうか?ずいぶん強い個体をお持ちで」

「・・・あんた、誰?」


そこにいたのは、眼鏡をかけた三十代くらいの男。決してリシシューさんではない。そいつが、偉そうに足を組んで立派な椅子に座っていた。


「・・・あ。こいつ、映像の魔術具に映ってた男よ!殺されてたはずなのに!」

「殺されたのではありませんよ。あれは、神と同化するための儀式だったのです。その結果、このように神となることがが出来ました」

「はあ...。そんなあんたが、どうして俺のことを知っているんだ?」

「けっこう有名なんですよ。なんせ、帝国と皇国の王子と友人関係にあるんですから。それ以上に、あなた自身の実力が飛び抜けていることも、諜報対象になった一因ですね。まあ、この忠告が活かされることは、ないでしょうが」

「ふーん...。神と同化したってのは、どういうことだ?神と、一体になったってことか?」

「そういうことです。神が私の中に入って、力を貸してくださっているのです」

「・・・へえ...。それなら、今の俺で余裕勝ちだな」

「はあ?あんた、何とおっしゃったんですか?神に勝てると?確かに、強い力をお持ちのようですが、そんなんで神に勝てると?」

「ああ、勝てるな。あんた、力を隠してるだろ?見せてみろよ。俺も隠してんだ」

「ほう...。よく、私が力を隠していると見抜きましたね。いいでしょう。その慧眼を評して、真の力を見せてあげましょう!」


勝ち誇ったように、眼鏡が叫ぶ。この人、評してとか、あげましょうって言い回しが好きなんだな。さっきも言ってたし。

ドウッ!と衝撃が巻き起こり、眼鏡の人から発せられる力が、グングンと上がっていく。あげる前の倍以上ほどで、力の上昇が止まった。


「はははーーー!!!どうです!これでも、まだ勝てると言えますか!?」

「それで目一杯なのか?もっと上げられないのか?」

「当たり前じゃないですか。これから死ぬ人に、遠慮をする必要はないでしょう」

「・・・どうやら、本当にそれで目一杯みたいだな。見当はずれも、いいとこだったな...」

「ねえ、リュー。これが本当に、邪神の力なの?こんくらいなら、私でも...」

「さっきから、何をブツブツ言ってんです?早く、あなたの力を見せないさい。どうせ、私には敵わないでしょうが」

「・・・まあ、いいか」


隠していた力を解放する。眼鏡以上の衝撃が、俺から発生する力は眼鏡を越えて、かなり多い量で止まった。


「これが俺の実力だ。あんたを、上回ってると思うけど?」

「・・・こんなの、何かの間違いです!私は神なんですよ!?あなたみたいな、人間ごときに、負けるはずがありません!・・・そうだ。見た目だけ、誤摩化しているだけに違いありません!そうに決まっています!」


自分に自信を持っていた奴が、それをへし折られて慌てふためく。そうして、次第に現実逃避に走るこの光景。滑稽の極みだな。見てて飽きない。


「あなたは目障りです!さっさと、死ねえぇぇぇぇーーーー!!!」


もう、なり振りかまう余裕もないようだ。異形と似たような肉で出来た、大剣で斬りつけてくる。かなりの量の魔力がのっているが、まあこんくらいなら問題ないな。

片手を上げて迫る剣に、トンと軽く止める。瞬間、ゴウッ!と燃え上がる剣。肉が焦げる臭いが、辺りに広がる。


「はあぁぁぁ!?どういうことですか!?何で、神の攻撃が止められてんですか!こんなの間違ってます!世界が間違っていますよ!」

「間違ったのは、あんただよ。神を人の身に入れたら、人の限界を超えられるわけないだろ」


神の力は、世界すら壊すことが出来る。そんな力を操るには、その力より頑丈なボディがないと駄目だ。自分の力で、自分の体を壊しちゃうからな。

故に、人の体じゃ神様の力は使えない。この世界風に言うなら、Sくらいの力までだな。


「まったく...。少し考えれば、分かることだろうに...。神様も不憫だな...」

「うるせえぇぇーー!!お前なんて、誰もお呼びじゃねえんだよ!とっとと消えやがれ!」


うっさい眼鏡を、蹴っ飛ばして黙らせる。壁に激突した眼鏡は、ズルズルと落ちて尻をついた。気絶したのか?


「・・・どうして、こんなことが...。神が絶対のはずなのに...。私に逆らえる者なんて、いないはずなのに...」


どうやら強すぎるショックで、眼鏡の繊細ハートはボロボロようだ。ブツブツと同じことばかり呟いている。これはどうしたもんか...。


「とりあえず殺しちゃえば?こいつを殺せば、邪神も死ぬんでしょ?」

「そうだな。殺せるうちに、殺しておくか」


せめて苦しまないよう、一思いに殺してやるか。苦しめる余裕もないしな。

手に炎をまとわせて、眼鏡の首に狙いを付ける。眼鏡はまだ呟きを止めない。


「この私が、死ぬ...?神である、この私ガアァ!?」


うん?今の声、少し変だったな。最後だけ、まるでうめき声みたいだったぞ。どうしたんだ?


「ウグ!?アアアアアァァァ...!わ、我が神よ...。何故、このような仕打ちをぉぉぉ...!!!」


何かに苦しみながら、そう叫ぶ眼鏡。体からは邪気がほとばしり、力の大きさが膨れ上がっている。まさか・・・危ないと思った邪神が、こいつの体を乗っ取ってるのか!?今のうちに殺さないと!


手刀を首に落とすが、溢れている邪気が間に入り、ガキンッ!と防御される。攻撃を止めた邪気はそのまま俺の手を押し返し、俺の体ごと吹き飛ばした。


「リュー!大丈夫!?」

「俺は平気だ!それより、そいつに気をつけろ!邪神が出てくるぞ!」

「え!?」


眼鏡の魔力がどんどん大きくなっていき、だんだん体が黒く光り始める。次第に光は強くなっていき、爆発するように輝いた。

目をあけると、そこには角と尻尾をはやした眼鏡が、膝を立ててうずくまっていた。

立ち上がる眼鏡。その瞳は黒く染まり、口は裂け牙がちらりと見える。


「まったく...。やけに自信があるようだったので任せてみたら、この有様だ...。まあ、こんなところに天使がいるなんて、誰にも予想は出来ないか。なあ、そう思わないか?」


どうやら俺に話しかけているみたいだけど、それに答える余裕は俺にはない。俺に向けられるプレッシャーで、気を張ってないと押しつぶされそうだ。


「・・・あんたは、邪神なのか?」

「何だ?悪魔にでも見えるか?見た目で勘違いするほど、お前は無知でないだろう」

「邪神なんだな?」

「・・・いかにも。私が、あの肉塊どもの元。元老院とやらに召還された邪神だ。以後、よろしく」


そう挨拶して、俺たちにお辞儀をする邪神。くそ...。最悪の展開になっちまったぞ...。



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