洞窟にて
<side リア>
体を思いっきり捻り、回転させながら異形の群れに突っ込む。高速で回転した私の体に、少しでも触れた奴らは、粉々に切り刻まれていく。
そのまま空へと上がり、地面に向けてブレスを撃つ。高圧水流のブレスが、一帯の異形をぶった切り。地面には切られた異形の残骸と、黒い血液で染め上げられている。
「ふう。これで、ここらへんのは全滅ですわね。他には...」
右のほうでは、ベスが暴れている。本人ご自慢の、筋肉モリモリな腕を振るい、鋭利な爪で異形を引き裂いている。向こうもやる気満々、絶好調ですわ。私も負けてられないですわね。まだあそこらへんに、残っているのが...。
残った異形を探していると、山のほうから轟音が響いてくる。見上げると、土ぼこりを巻き上げながら、降りてくる異形の大群。あまりの量に、黒い津波が迫っているようにも見える。
「・・・一誠が私たちを呼ぶのも、無理ありませんわね。これは、ちょっと骨が折れそうですわ」
さてと。一誠に褒めてもらうためにも、人肌脱ぎましょうか。ベスには負けませんわよ!
ビアンカの背中を追って、山道を走っていく。かなりベスたちの方にいってるものの、それでも結構な数が俺たちの方にも来ている。
「邪魔よ!どきなさい!」
前方の異形は、片っ端からビアンカが凍らして、蹴っ飛ばしながら進んでいる。
俺はほとんどすることがないのだが、たまーに俺にも襲ってくる奴がいる。木の上とかだと、ビアンカも対処出来ないみたいだ。
そういう奴らは、ビアンカ同様蹴っ飛ばして先を急ぐ。俺の場合、炎が付与されているから、木が燃えないか心配だな。森林火災って、怖いんですよ?
しばらく走り続けると、来た方からベスたちの咆哮が聞こえてくる。振り返ると、ちょうど異形たちの大群と衝突したところだった。・・・あんくらいなら、問題ないな。もっと増える前に、片を付けないと。
そうこうしているうちに、目的地らしき洞窟に着いた。入り口から異形が溢れていて、付近は足の踏み場もないくらい、異形で満ち満ちている。
「カオスね...。こんな小さいところから、あんな数の異形を出したのかしら?」
「他にも、出してるところがあるんだろうな。そうでなきゃ、中は異形でいっぱいだよ」
どう入ったもんだか...。下手に刺激すると。あいつら全部が俺たちに向かって、傾れ込んでくるし...。一発で消しきれば、問題ないんだが...。
「ビアンカ、いけるか?」
「もちろんいけるわ。そのための力でしょう?」
「よっし。やってくれ」
俺がそう言うと、一瞬ビアンカの姿がブレ、直後全ての異形が大きな氷柱で串刺しにされていた。これは・・・時間を止めたのか。
「どのくらい止めてたんだ?」
「はぁはぁ、そうね...。だいたい五秒ってとこかしら?消費が激しすぎて、使える回数は少ないけどね...」
肩で息をしながら、ビアンカが答える。五秒も時間を止められるのか...。使えそうだけど、危険な魔術だな...。
「もう時間を止めたりすんなよ。あまり多用すると、ビアンカ自身が危ない」
「分かってるわよ。使いたくても、しばらくは使えそうにないわ。厳しすぎてね」
「ならいいんだけど...。無理はすんなよ」
「リューもよ。死んでも神界で会えるけど、消えちゃったら二度と会えないのよ。お願いだから、絶対に無理はしないで。危なくなったら、逃げるわよ」
「無駄だと思うけど...。まあ、負けなきゃいいだけだな」
「ずいぶん自信があるのね。怖くないの?」
「怖いに決まってるだろ。でも、勝算があるからな。なんとかなるかな?と思ってる」
「なんとかなるかな?って、ずいぶん楽観的ね...。本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって!さっさと中に入るぞ。また異形が出てくる」
洞窟の中は、思ったより暖かかった。生暖かくて、むしろ気持ち悪いな...。
億から風が吹いてきているので、やっぱり他にも出口があるみたいだ。まあ、今はどうでもいいか。早く奥に進まないと。
洞窟の道は狭いので、襲ってくる異形も数が少ない。サクサクと敵を倒しながら進んでいく。
「リュー、あれ...」
ビアンカが何かを見つけたみたいで、細い道から見える小部屋を指差している。寄り道して見にいくと、そこには腐乱した人らしき死体が、無造作にいくつも捨ててあった。においが流れてこなかったのは、上に空気穴が開いているからだな。
「これは・・・遺体なんだろうな...。何に使ったんだ?」
「・・・生贄じゃないかしら。邪神を呼び出すための。別のところにも、こういう部屋がたくさんあるみたいだし」
「目立つし魔獣を引きつけるから、外に捨てられなかったのか...。どうしてビアンカは分かったんだ?」
「臭ったのよ。吸血鬼の鼻は、人より優れているの」
人を探すためにか。鮫みたいだな。遠くの血の臭いを、嗅ぎつけるらしいし。
「とりあえず、燃やしておいてやろう。このままじゃ、死んでも死に切れない」
炎を出して、遺体の山に火をつける。燃え盛る遺体に背を向けて、俺たちは再び奥へと進み始めた。
遺体の山があった場所から進むこと十分、ようやく洞窟の最奥らしき所についた。着いたのだが...。
「これは・・・入れないな」
「こんなものがあるなんて...。神様って、こういうことをするの?」
奥に通じる道を、異形の壁が塞いでる。グチョグチョ蠢いているその姿は、まさに肉塊そのものだ。時々、ボトボトと異形が壁から溢れ出て、地面に落ちている。
「聞いたことはないけど、するんじゃないか?戦術的に」
この壁を破壊させて、敵を疲弊させる。異形が出てきているのは、自然再生しているからかな。余分なものが、異形として出てきているみたい。さっさと消しちゃうか。これを消せば、しばらく異形は出てこないだろ。
「じゃあ、消しちゃうから離れてて。肉片が飛び散って、汚れるかもしれないからな」
「どうするの?焼き消す?」
「もっといいものを、俺は使えるだろ。さっさと離れた離れた」
ビアンカを壁から離し、消失を放つ。壁の真ん中に、大きな丸い穴が空き、向かい側の通路が見える。
「・・・って、いいの!?抑えていくんじゃないの!?」
「ふう...。いいからいいから。閉じないうちに、奥に進むぞ」
ビアンカの背を押して、肉壁に開いた穴をくぐる。その時に、空いた穴の縁を炎で焦がしておく。これで、少しは再生が遅れるはず。
壁の奥は、道全てが異形の肉に覆われていた。足を踏み入れると、グチャっと嫌な感触を覚える。らしくなってきたな。奥から、大きな力の気配がする。
「ねえ、リュー!抑えなくていいの!?あれ、けっこう魔力使うんでしょ?」
「前まではな。今は最大量が増えたから、そこまで多くはないな」
「じゃあ、邪神もそれで消しちゃえば?」
「この世界の枠の中で作った技が、神様に効くと思うか?」
「・・・そう言われると、全く効きそうにないわね...。結局、正面からぶつかるしかないのね...」
そうして、ようやく道を抜ける。大きな広間に出て、向かい側の影になっているところに、禍々しい邪神の力を感じる。さて。鬼が出るか蛇が出るか...。・・・邪だろうけど。