95話ぶりの登場
祝百話!これまで読んでいただいて、ありがとうございます!
この小説もラストスパート。最後まで書き切ります!
変化はすぐに訪れた。魔力の奔流がどこからか発生し、俺の体を白い魔力が、ビアンカの体を黒い魔力が覆っていく。しだいに魔力が、炎と凍りに変換され、周りを燃やし、凍らせていく。
魔力が収まり、今の自分の状態を把握する。・・・うん。神界にいたころのまんまだな。
ビアンカを見る。特に変わった所はないが、あえて言うなら髪だな。自慢の金髪が、さらに輝きを増したことかな。後ろから光が当たってるみたいに、キラッキラ輝いている。髪自体が光ってるみたいだ。
「・・・これは凄いわね...。リューの言ってた、邪神くらいの力なんじゃない?ねえリュー・・・って、どうしたの!?髪と目が真っ黒よ!?」
「え、マジで!?そんなとこまで戻されてるのか...。顔はどうなってる?」
「顔?変わってないわよ。髪と目だけ」
さすがに顔までは、変えないか。いきなり顔の形が変わったら、不都合なことのほうが多いだろうし。
「それじゃあ、いきましょうか。とりあえず前線の敵を...」
「あ、それは別の奴にやらせるから。ビアンカは俺についてきて」
そう言いながら手を開くと、中には蒼い鱗と褐色の爪が、一つずつのっていた。あいつらは、こんなことを想定して、俺の渡したのか?・・・いや、ないな。あいつらが、そこまで考えているとは思えないし...。たまたま上手くいっただけだな。それでも、助かったことには変わりない。帰ったら、礼を言っておかなきゃな。
そう思いつつ、鱗と爪に魔力を込めると、空中に魔法陣が発生する。同じ色の、蒼と茶色の魔法陣だ。クルクルと加速しながら回転していき、だんだんその光を強くしていく。ひときわ大きく輝いたと思ったら、陣の中心が白く変化した。湖面のように、揺らめいている。
その中から、何か巨大な物が出てくる。片方は細長い、もう片方はがっしりとした大きな角を持ったシルエットだ。
「ちょ、何よアレ!?魔獣!?」
「そんなこと、あいつらに言ってみろ。引き千切られるぞ」
「引き千!?い、一体何を呼んだのよ...!」
俺がいれば大丈夫だとは思うけど、一応な...。今は人型じゃないし、少し小突いただけで大怪我になりかねない。
しだいに、そいつらの全貌が見えてきた。目が覚めるほど蒼い龍と、筋肉の鎧に包まれた二本の巨大な角を持った獣だ。
地に降り立った二匹の獣は、辺りを見渡した後、俺に目を向け
「まったく...。こんな惨状の中呼び出して、どんな礼をしてくれるんですかねー?楽しみですわねー」
「いいじゃんかよ。久々に暴れられるんだし、何より他ならぬイッセーの頼みだからな!こんくらい、お易い御用だぜ!」
「いきなり話しだすな、リア、ベス!驚いてるだろ!」
人型の時と、同じテンションでしゃべりだした。威厳も糞もないな。せっかくの神獣姿なのに...。もったいない。
「・・・え?リュー、知り合い?」
「神界で、俺が担当してるとこに住んでるんだ。問題児だから、見ておかないといけないんだよ...。あ、名前はリアとベスな」
『誰が問題児だ、誰が!』
声をそろえて異議を唱える、リアとベス。相も変わらず、仲がいいな。
「そ、そう...。もしかして、神獣なの?」
「若いけど、けっこう強いぞ。こいつらに、ここらへんの異形を殲滅してもらう」
かなりの数が湧いているけど、二人なら十分消しきれるだろ。追加で湧いてきても、問題ないだろうし。
「ここにいる奴らを、全滅させればいいのですわね?みたところ、邪神の下僕と見ましたが...」
「こんなやつら、イッセー一人で十分じゃないのか?どうして、わざわざ俺たちを?」
「俺は、元になってる邪神を倒さなきゃいけないからな。出来るだけ力を使いたくないんだよ」
「・・・冗談で、そんなことを言うような人ではないと思っていたのですが...。本気ですの?」
「もちろん本気だ。勝算もある」
「消されるかもしれないんだぞ?それでも、やるのか?」
「やる。というか、こんな惨状を見た後なんだ。俺が絶対やるって決めてることくらい、お前たちなら分かるだろ?」
「・・・それもそうでしたわね。いいですわ。やるだけ、やってやりますわよ」
「そうだな!リューなら、邪神だって倒せるかもしれないし!」
これで軍は大丈夫だろう。念のため、白雪も呼んでおこうか。空の敵は、二人でもめんどくさいだろうし。
「白雪ー!」
俺が一声かけると、数秒で白雪はやってきた。早いなー。どこにいたんだろうな?
「やっと出番!?なにすればいいの?」
「こいつらと協力して、ここらへんの異形を、全部倒してほしい。白雪には、空にいるのを任せる」
「分かった!リューも頑張ってね!」
そう言って、軍の方に飛んでいく白雪。
「ほら、お前たちも行って。白雪だけに任せるつもりか?」
「そんなこと、ありえないですわ!行きますわよ、べス!」
「おうよ!多く倒したほうが勝ちだからな!」
異形たちに突撃していく、リアとべス。多く倒したほうが勝ちって、何体倒したのか分かるのか?こんな数で。まあ、俺には関係ないか。数えろっても、言われてないしな。
「うし。俺たちも行くぞ。確か、あそこらの山の中腹の洞窟に、元老院の残党がいたんだよな?」
「そうらしいわよ。行ってみれば、異形が出てきてるだろうから、一目で分かると思うわよ」
「よし。その洞窟には、邪神とは俺一人で戦うから、ビアンカは雑魚を倒してくれ」
「私も戦わなくていいの?いくらなんでも、厳しいんじゃ...」
「大丈夫だって。俺は強いぞ?」
「・・・分かったわ。でも、危なくなったら、助けにいくからね」
「分かってるよ。そんなことにならないほうが、いいんだけどな...」
もうリアたちは、異形たちの中で暴れ回っているみたいだ。数が結構減っている。だが、遠くから増援が来てるのが見える。やっぱり本気じゃなかったか。リアたちを呼んで、良かったな。白雪じゃ、あんだけの数は倒しきれないだろうし。
「おし!一気に山まで突っ切るぞ!ビアンカ、進路確保は任せた!」
「任せないさい!何もさせないで、邪神のとこまで連れて行ってあげるわ!」
俺たちは、異形の中に走り出した。目指すは、山の中腹だ!
<side 軍の一兵士>
「くそっ!右翼が突破されるぞ!援護にいけ!」
「魔術隊、援護しろ!こっちも抜けられるぞ!」
俺の目の前には、馬鹿みたいな数の化け物が蠢いている。そいつら全部が、俺たちを喰おうと襲いかかってきている。始めは調子良く倒せていたのに、しだいに皆疲れが見え始め、今では何とか支えているといった状況だ。このままじゃ、崩されるのも時間の問題だ。
そう思っていると、本当に前が崩されて、異形どもが傾れ込んできやがった。帰ったら、結婚式を挙げる予定だったのに...。すまない、約束は守れそうにないよ...。
死を覚悟し目を瞑る。しかし、いつまでたっても、喰われる痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、目の前に巨大な茶色い壁がある。何かと思って上を見ると、恐ろしい顔の獣が異形を食べていた。
俺の記憶は、そこで途切れている。目を覚ますと、仲間の奴らに介抱されていた。一体なんだったんだ...。