二本の槍と一人の眼鏡
焼肉とはサバイバルである
そこは戦場であった。
各人が右手に二本の槍を器用に用いて高温な薄い網上のプレートの上で足場が少ないにも関わらず、槍を使ってプレートの上にある焼けた肉の上にて争いを繰り広げている。
自らの陣地である白く小さなプレートを背後にし、緊迫な雰囲気が流れていた。
下は高熱地獄。
けれども、ここで引くわけにはいけない。
二本の槍を両手に持つ4人の野郎と共ーーーーブライト、Ⅲしゃいん、タオルヶッツ、その他(特に考えれなかった。)は神妙な面持ちで肉を見ている。
場に漂う沈黙が彼らを包み込むベールとなり、今か今かと焼き上がるのを待つときだった。
「フハハハ!先手はこの俺、ブライトが戴いたぁ!」
メガネの少年ーーーブライトはトングを用いて焼けた肉を数枚取り、他の3人が取るより先にかっさらっていった。
「ブライト、貴様、そのトングは肉を焼いた時に使ったはずじゃ…!?」
肉をかっさらわれたⅢしゃいんは恐る恐るブライトに問う。
焼いた肉が生焼きの場合、食中毒になる可能性は極めて高い。
もちろん、焼いてから食せば何の問題もないのだが、肉を回収するために使ったのは焼くための道具、トングだ。
生肉には何らかの細菌がいることは確かであり、そんな生肉を掴んだトングを用いて肉をとれば命取り(トイレ的な意味で)となる。
しかしッ!Ⅲしゃいん、タオルヶッツ、その他は自らの頭の中から大切な事実を完全に忘れていた。
ーーーーーーーブライトという奴は、財宝の為なら手段を選ばない。
紛れもない事実。
けれど、認めたくない。
普段、ゲラゲラ笑っていてシリアスが似合わない眼鏡にはあのような素早さと頭の機転が働くとは信じたくないのだ。
口を開けば中2思考。
開かなくとも中2思考。
そんな自分達より劣ることを知らない眼鏡にはない、と信じていたのだから、自分達の中にあった「ブライトは愚鈍である」という一本の柱を子供の時に他人により、自分の砂山をへーきな顔をして叩き潰されたような感覚に陥った。
ブライトは焼肉を喰らい続けるのをやめない。
サンシャインは普段なら焼肉に友人と来たならば、散々ふざける。
タオルケッ=ツも多分、友人と来たらふざける。
その他は間違いなく、友人と来たら黙々と食べ…ないだろう。
だが、目の前で2本の箸に加えて肉を焼くため以外に店員に頼んだ新たなトングを持ち、3刀流を実行しているブライトはどうだろうか?
肉やらが来るまではあれだけ自分達と話していたというのに、今は全く放す気配がない。
例えるなら、今のブライトは食事中の捕食者だ。
目の前に肉があるから、彼は肉を食らい続けることをやめない。
その他三人はビビンバと拉麺とモロコシ食べますたとさ。