表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

38万キロ彼方から

作者: invisiblehand

 幼い頃、いつもあなたと見ていたあの月を今も変わらず私は見ている。

私は一人、ビルの屋上から望遠鏡を覗き込んでいた。

そこで流れるゆったりとした時間が居心地がよく、今でもあなたはとなりにいるような気がして。

吐く息は白く染まり、冷たい風の中へと消えていく。

一点の曇りない澄み切った空が広がっていた。

目を瞑れば思い出す。あなたが想いを伝えてくれたあの日、この場所で交わした約束を。

 

 手を伸ばしても決して届かないあの月を、あなたは私にプレゼントすると言った。

そしてあなたは、その言葉のままに宇宙へ行ってしまった。

私の左手にはあの日あなたから貰った懐中時計。

約束の時間。約束の場所――。

会えなくても、もう一度あなたを見ていたい。

そんな思いで私は望遠鏡を覗きこむ。


 思わず涙がこぼれた。


 月を覆ういくつものクレータ―。そのひとつ、約束の場所(コペルニクス)にあなたは立っていた。

宇宙服を身にまとうあなたの左手には、あの日、一緒に時を刻み始めた懐中時計。

あなたはそのまま私に手を振り続けていた。

私も手を振り続ける。あなたからは見えなくても。――きっと見えているから。


 ねぇ、私たちは今、世界で一番の遠距離恋愛をしているのかな?


 ――その日の朝、あなたからそれは届いた。

月が太陽をさえぎる皆既日食。その光の一部が漏れて輝く瞬間。私は手をかざした。

世界一大きなダイヤモンドリング。


 それは、あなたからのプロポーズだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ