「天へと続く階段」
それは天へと続く階段に見えた。わたしの目の前になぜか突然現れたそれは、幅ニメートル程の透き通ったガラスで出来ているように見えた。上の方は、雲に隠れてどうなっているのかわからない。これはいったい何だろう、と通学途中のわたしは鞄を肩にかけたまま、だたぼんやりとその階段を下から見上げていた。
周りを見回すが、誰もその不思議な階段を気にかけている様子の人は見当たらない。もしかしてこの階段が見えているのはわたしだけなのだろうか。
好奇心に駆られて、一歩階段に足をかけてみる。透き通ったガラスのように見えていたが、踏み出した足を中心に波紋が広がり、しゃらん、と鈴が鳴るような音がした。
えい、ともう一歩踏み出す。わたしの体重は完全に階段に支えられて、またしゃらんと鈴の音が鳴った。なんだか面白くなって、しゃらん、しゃらんと音を立てながら階段を上っていると、透き通った階段の真下から、驚いた顔でこちらを見上げる少年の姿が見えた。たぶん、中学生くらいだと思われる少年は、こちらを見上げて、目をごしごしとこすって、それからちょっと頬を染めて意味ありげに微笑んだ。 そこではじめてわたしは、透明な階段で真下から覗かれたら何を見られるかに思い当たって、思わず、スカートを押さえた。しかし流石に真下から覗かれていては完全に隠しきれるものでもなく、あわてて階段を駆け下りようとしたところで急に階段が光になって消えた。落ちる感覚があって、真っ暗になった。
目を覚ましたら、知らない場所だった。そばに泣き崩れた格好の母がいて、話によるとわたしは通学途中、交通事故に遭ったということだった。ふと、あの階段を上り続けていたらわたしは死んでいたのだろうかと思った。あの少年に感謝すべきだろうかと思って、でもスカートの中覗かれたんだから一発くらいはぶん殴らなくちゃと思い直した。
元ネタはリアル中学二年の頃に大学ノートに書いていた、詩のような散文です。そちらはただ、天へと続く階段を延々と上り続けるだけの内容だったので、オチっぽいものを付け加えてみた感じです。これを書きながら昔はわけのわからんものをいっぱい書いていたなーと封印された黒歴史をちょっと思いだしました。