婿候補者に
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………何?
レイ・オーディン?
伝統ある誇り高き?
ヴァンパイア王家の姫?
え〜と、落ち着け『赤木 黒斗』つまりアレだな。
あの子の名前は『レイ・オーディン』と言って、とある一国の姫君ってわけだよな?
そこまでは分かる。
しかし
ヴァンパイアってなんだ?いや、ヴァンパイアについて知らないわけじゃないし、この場所のことも聞きたいけど、一応考えよう。思い出そう。この俺『赤木 黒斗』は思い出す。
『ヴァンパイア』
別の言い方で『バンパイア』とか『吸血鬼』とか言われている。
たしかヨーロッパあたりだかに語り継がれている妖怪。
人間の血を食料として夜中に美女を襲う。
蛇やコウモリなどを操る事ができ、また、それに変化する力を持っている。
影に潜む力もあり夜中や闇の中なら何処にでも現れるとも言われる。
容姿は男女ともに美形で、その美しい姿で相手をたぶらかす。
棺の中で眠る。
飛行能力あり。
太陽の光、ニンニク、十字架が苦手で昼間は寝るか、影に潜んで行動。太陽の光を浴びると燃えて、消滅してしまう。
ニンニクが苦手なのは強力な嗅覚にあり、それを活かして相手の居場所を突き止めることもできる。
十字架が苦手なのは十字だから、と言うより、クロスしてるものが駄目。病院のマークなどでもダメらしい。
『ヴァンパイア』を殺すには心臓に木の杭を打ち込むしかないとか言われてる。
あとは何があったかな?
いろいろあるよな〜
「んあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
もう、いい
どんだけ考え込めば、いや思い出せば気が済むの
じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっっと、待ってるこっちの身にもなりなさい
まったく
こっちは、さっきのセリフについて悔やんでんだから。また、「伝統ある誇り高きヴァンパイア王家の姫だ」っつってしまったてねっ
堅苦しいの」さっきまでの貴族っぽい。いや、モノホンの貴族なんて見たことないけど。そんな感じのたたずまいがなくなり、見た目同様の元気な、口が悪いけど子供みたいになった。この俺『赤木 黒斗』は思った。
しっかし、イライラしているなぁ、ていうか堅苦しい言い方をしてしまったイライラをぶつけるな『赤木 黒斗』は思った。
「カルシウムをとりなさい。ついでにいい精神病院の診察を受けなさい」
「別にいらない
ニンニクぐらいいらない」きっぱりと、ツンとして、目を閉じ顔をプイッと背けて言った。
ニンニク、嫌いなんだ。
まぁ、どうでもいい。
ヴァンパイアとか謎な発言も今のうちに治したほうがいいかと思ったがスルーされたし。この子のイライラを戻して、さっさと聞くか。もはやヴァンパイアとか面倒なので、この俺『赤木 黒斗』は話を戻そうと思った。
「私、ヴァンパイアだよ?」ツンとした顔から打って変わって、キョトンとした顔で素っ気なく、まっすぐ、この俺『赤木 黒斗』の目を見て言った。
……………もう、いいや。付き合おう。この俺『赤木 黒斗』は思った。
「ヴァンパイアぁ?って言うかココは何処かな?」感情込めて疑い深く、しかし見た目小学生の『レイ・オーディン』に怖がられない言葉使いで言ってみたが、声のトーンは全く変わってなかった。さらに無表情だった。まだ変われない。
「ココは私の城の一室、いつもは、お祝い事に使う部屋。詳しいことはオルイトが話すから。オルイト!後はよろしく」レイは目線を近くの柱に向け言った。
「かしこまりました」
コツコツ
足音が部屋に響いた。見れば部屋の柱の影から執事服に身を包んだ老人が歩み寄ってきた。
コツコツ
「はじめまして赤木 黒斗様。
私、レイ様の執事をしております。オルイト・コルルと申します」
そう言って、オルイト・コルルは丁寧にお辞儀した。
「はっ、はじめまして」他人に丁寧に挨拶されるのに慣れてない、この俺『赤木 黒斗』は吊られて少しお辞儀した。
よくよく見ると『オルイト・コルル』は白髪で、皺もあり、鼻の下から髭を生やして口元を隠しており、いかにも老人であったが、弱々しい雰囲気は感じられなかった。
歩み寄ってくる時の歩き方も健康的な歩き方をそのまま映したような歩き方だった。
執事服は皺どころか、埃一つ付いてない。
背筋の伸ばしていて、腕も体の真横にぴったりとくっ付いている。
目には輝きと優しい光が漂っている。
「では、あまり気が進みませんが説明させて頂きます。」
気が進みませんが?
「ここは赤木様達の暮らす人間界とは別の世界、妖怪が住む『魔界』でございます。
そして、この国は『魔界』にある1つの国でございます。
本来なら婿をとるようなことはせず、この国の王子が次の国王になります。しかし、男子を産む前にレイ様の母上様、つまり女王様が数年前に病に倒れ、とても子をなせる体ではないのです。
そこは国の決まりにより、姫であるレイ様が国を継ぐことになりことをえました。
レイ様が国を継ぐことになり、レイ様は成人の歳に結婚する相手を決めなくてはいけなくなりました。そこに我は、我こそは、とここぞとばかりに国中の男達が婿に名乗り出ました。
我が国は婿に迎えられる可能性のある者に証であるペンダントを作り、送りました」
オルイト・コルルは懐から1つのペンダントを取り出す。
「俺のと似てますね」
「左様にございます。赤木様も我が国の姫君。レイ様の婿の候補者に選ばれたのでございます」
「………………………へぇ」この俺『赤木 黒斗』は無表情で一言だけ発した。
「信じられませんか?」
「…………なんで人間である俺が妖怪の世界の、妖怪の国の、妖怪の姫の婿に選ばれたんですか?」
「それは面白そうだから」今まで、オルイトに説明を任せていたレイが会話に加わってきた。
「今まで、あなたの人間界での色々な姿を見てたのよ?不良どもに蹴られながら子猫を庇ったり、子猫のために長い道のりを走ったり、基本的に物事に無頓着なあなたは影では色々やってるってね。そこで、そんな奴が婿候補に加わったら面白そうじゃない」笑顔で楽しそうに言う。「っんっどくせぇ〜。勝手に決めてんじゃねぇよ」
「だって、最初に話してもあなたはめんどくさがるでしょ?」
「婿とか聞くと、手続きやら書類やらくだらねぇモンに手を出さなきゃいけなくなんだろ?」
「別に必要ないよ」
「ヴァンパイアの姫に、人間の婿なんてシュールすぎんだろ」
「いや別に妖怪と人間のハーフは、どちらの世界にもいるし」
「国民やら大臣やら父上、母上が泣くんじゃねぇか?」
「あたしが勝手に決めて、勝手に作らせて、勝手に送って、勝手にやってるだけだから平気」
「婿に連絡があります。とか言われても俺は無視するからな」
「クスクスクス。あなたにそれができるかなぁ?」
「?どーゆーことかな?」
「オルイト」レイはオルイトに目を向ける。
「はい。赤木様」レイとオルイトは目と目で確認した。「婿候補に選ばれた者のなかには野蛮な輩もいるのでございます。このペンダントには同じ婿候補者の気配を察知する特別な石が組み込まれており、その力は本来、候補者同士の交流と発展のためでした。しかし、その力を探知機代わりに次々と婿候補者を襲い、自分の力を示そうとしているのでございます」少々、悔しそうにオルイトは言った。「国王は、この自体を止めようとせず逆に野放しにしており、大臣も手を出そうとしません。そんな中で赤木様のような、特別に選ばれた者、ましてや人間ともなれば狙う輩は必ず出てきます」オルイトは、この俺『赤木 黒斗』の目をしっかり見て言った。
「ご理解していただけましたか?」
「大体分かった。………一言言います。婿候補者の枠から降りる。キョーミねぇ」
「ムリよ。本人の意志だけではやめられないよ。やめるんなら王家が直接、決断を下さないと」
「じゃあ、簡単だな。お前がやめろって言えば済む話じゃあねぇか」
「いーやーよ面白そうだもん。ていうかあんた、人の話を聞いてないのあたしは、あんたを巻き込んだ張本人なんだよ?そんな奴がやめろなんて言うと思う?」
お前は人じゃないけどな。ていうか、この子、先生や親に「相手が嫌がってんならやめなさい」って習わなかったのか?
「嫌がってないくせに、どちらかというと嫌も好きもなしに何も考えてないだけか」
「………はあ、じゃあ勝手にやってろ。俺は何もしないけどな」
「最初から素直にそう言えばいいのに」ニコニコと効果音がつきそうな顔でレイは言う。
案外、簡単に承諾されたな。って、まてよ。つまり、いいってことだよな。いや、いいのかよ声に出そうかと思ったが変化は生まれなさそうだと思って、かわりにため息をついた。
はあ
「レイ様。まもなく家庭教師の方がいらっしゃる時間にございます」
「えぇ?もう、そんな時間?」
「んっ?家庭教師?俺がココに来たときは夜だったはずたよな?」
「そうよ」
「左様にございます」
「あたしは夜型だから」
「妖怪には夜型、昼型の両方がございまして、夜型は夜に、昼型は昼に学問に育むのでこざいます」
普通の学校と、夜間学校の両方があるって感じか。んっ?ちょっと、まてよ。この子の勉強の時間がそろそろってことは俺達人間が寝る時間になってるって事だよな?……………………………………………………………………………帰ろう。帰って寝よう。明日も学校だし。この俺『赤木 黒斗』は思った。
「もう、俺に話すことは全部話したのか?」この俺『赤木 黒斗』は確認をとる。
「はい。必要な事は全て話しました」
「じゃあ帰る。帰るにはどうすればいい」
「ペンダントをお持ちになりながら、意識を集中させて下さい。そうすれば元いた場所に帰れます」
オルイトに言われて、この俺『赤木 黒斗』はペンダントを握って、意識を集中させていく。
遠く、レイの甲高い声が聞こえた。
「あなたはもう逃げられないから」おそらく笑顔で楽しそうに言ってたと思う。
思う。という曖昧な表現なのは目を開けた瞬間には既に自分の部屋だったからだ。この俺『赤木 黒斗』はまとめる。