レイ・オーディン
?
この俺『赤木 黒斗』は見知らぬ部屋の中にいた。
大きさは学校の体育館程度。
しかし、体育館なんて身近な雰囲気は感じられない。
まず、部屋の作りが、この俺『赤木 黒斗』の知識の中で、というか日本で見られるかどうかすら怪しい。部屋全体が大理石の作りだ。さらに、窓も異常だ。まるで教会にでもある様々な色のガラスをくっつけて作った大きな、縦に3㍍ぐらいありそうな窓。そこから差し込む光、雲に少し遮られた月の光は部屋全体を照らさずに斜めに半分くらい照らしている。
そして、自分が立っている所には赤くて、長いカーペットが引かれていて、この俺『赤木 黒斗』の後ろにある古めかしい大きな木製の両開き扉。前方には一段一段の横幅が広い巨大な、前、横どこからでも上がれる階段がある。階段を上がった先には暗くて分からないが何かありそうだ。普段は閉じられているが皇帝があそこからおいでになるときに開きますと言わんばかりに左右に束ねられた大きな赤いカーテンがあるし。カーペットに並走するように、一定の間隔で高い柱が並んでいる。その柱にはある程度の高さに蝋燭が立てられていて、火の灯った何本もの蝋燭は不気味な感じがする。
???
訳の分からないことだらけだ。何処だココは?何でこんな見たことない部屋にいるんだ?この俺『赤木 黒斗』は自分の部屋にいたはずた、実際に今は寝間着姿だし!!『テレポート(瞬間移動能力)』か!?いや、あり得ない。この俺『赤木 黒斗』に超能力なんてある分けないし。実は木箱には睡眠薬が入っていて開けたら薬がプシューって仕掛けで、この俺『赤木 黒斗』は知らず知らずのうちに誘拐されましたか?いや、それも無いな。この俺『赤木 黒斗』を誘拐しても得になることなんか無いし、理由があったとしても、こんな手の込んだ誘拐なんてしなくていいわけだし。もっと簡単な誘拐方法は沢山あるからな。じゃあ、この状況は一体なんなんだ?特に拘束されてる訳でもないし、髪が濡れているから時間が経っているってんじゃない。ていうか、この俺『赤木 黒斗』は気絶していたわけじゃないんだから。気絶していたら目を開けたときに立っているのはおかしい。ここは思考を最初に戻そう。ココは何処だ?ん?この俺『赤木 黒斗』は「何処だココは?」って考えたんだっけ?「ココは何処だ?」って考えたんだっけ?どっちだっけ?どっちでもいいか。無駄な考えだった。まず、場所だ。見知らぬ部屋。見た感じ人はいない。手がかりは何か無いかな?
ここで手のなかにあるペンダントに目を向ける。そして、記憶を辿ってみる。
理解不能だ。
説明不能だ。
解析不能だ。
はあ、考えていても埒が開かない。部屋は何も無さそうだし、出てみるか。
この俺『赤木 黒斗』は部屋を後にしようと、後ろの古めかしい大きな木製の両開き扉に向かおうとした。
その時
「人のことを無視してんじゃないわよ」
甲高い女の子の声が聞こえた。耳が痛くなりそうだ。
「さっきからココにいるのに気付きなさいよ」
声は部屋の奧。階段の方から聞こえてきた。
「いくらなんでも、ココまで鈍感だとは知らなかったわ」
まるで、喧嘩中の主婦みたいなことを言い放つ。
誰かがいるなら探しに行く手間が省けた。この俺『赤木 黒斗』は階段の方に歩を進めた。雲から月が現われてきて、部屋全体が淡い色で照らされていく、勿論、声の主の姿も。
階段の一番上に、縁を金で加工された赤い生地の大きな椅子に、明らかに椅子とのサイズが会っていないドレスを着た金髪少女が、金の肘掛に腕を掛けながら、詳しく言うなら肘から先を掛けて座っていた。
「お前は誰だ?」
歩を部屋の中央まで進めて聞いてみた。部屋がデカ過ぎる。相手は聞き取れないだろうと思い、もう一度はっきりと大きめに言おうと、この俺『赤木 黒斗』は思った。
しかし相手の女の子は答えた。明らかに距離的に聞き取れるはずのない音量だったのに。
「わが名はレイ・オーディン。 伝統ある誇り高きヴァンパイア王家の姫である」