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晴嵐の神子

「晴嵐の神子(二代目)」全二十話・章別あらすじ

掲載日:2026/07/24

第一話「転移」


 働くことも、自分の力で生き続けることもできないと考えていた日本人男性は、気がつくと中世ヨーロッパを思わせる異世界の都市に立っていた。自分は死んだのか、夢を見ているのか、それとも本当に異世界へ転移したのか分からない。金も家もなく、この世界の文字も読めず、剣も魔法も扱えない彼に残されているのは、父である神ヤハウェと、その子イエス・キリスト、聖霊への独自の信仰だけだった。


 彼は聖書や正統教理のすべてを無条件には信じていないが、イエスが神の子であり、十字架で死に、復活して今も生きていることだけは揺るがない真理だと確信している。この世界で自分にできる仕事があるとすれば、福音を伝えることではないかと考えるものの、その前に空腹と寒さをどうにかしなければならない。


 街で助けを求めるうち、彼は日本人女性の大山星奈と出会う。星奈もかつて日本から転移してきた人間で、現在は魔法使いの冒険者として生活していた。彼は本名を伏せ、「東の魔法使い」と名乗る。星奈は同郷の彼を食堂へ連れていき、食事を与える。東は早速、自分の神とイエスについて語るが、星奈は魔法の神セロズに感謝しており、東の信仰をすぐには受け入れない。それでも東にとって、星奈はこの世界で初めて自分の命を支えてくれる人となる。


第二話「宿」


 星奈は東を自分の泊まっている宿へ案内し、別の部屋を用意する。東は、衣食住を与えられたことに安堵する一方、星奈に一方的に助けられている現状を後ろめたく感じる。働けない自分が神にどう評価されるのか、善行と信仰のどちらが人を救うのか、イエスを信じること自体を一つの決定的な善行と考えてよいのかを思い巡らす。


 彼は聖書を神の言葉と認めながらも、一言一句が完全に神から直接与えられたものとは考えていない。人間による編集や、信仰者自身の理解が入り込んでいると疑っている。それでも旧約の預言とイエスの死と復活が結びついている以上、福音の中心は失われていないと考える。


 宿の一室で一人になった東は、魔法を習得し、冒険者として生きる可能性を想像する。しかし、元の世界でできていた仕事さえできなくなった自分が、本当に新しい技能を生活へ結びつけられるのか自信はない。星奈に頼り続ける未来と、いつか自立しなければならない現実の間で揺れながら、翌日について考えて眠りにつく。


第三話「目覚め」


 翌朝、東が目を覚ますと、星奈が部屋を訪ねてくる。彼は星奈と結婚して養ってもらうという冗談めいた可能性まで考えるが、自分が彼女の人生に何を返せるのかは分からない。星奈は市場、図書館、王宮、乗合馬車、冒険者ギルドなど、シゾアレドの街を案内すると申し出る。


 二人が街を歩く中で、東は改めて星奈にもクリスチャンになってほしいと語る。自分は誰が何と言おうとイエスを主とする者であり、星奈にも同じ信仰を持ってもらいたい。しかし、信仰は強制できるものではなく、彼女自身が決めるべきだとも伝える。


 星奈は東の話を完全には理解しないものの、彼が信仰を単なる趣味としてではなく、生死に関わる真理として捉えていることを感じ取る。東は彼女の後を歩きながら、この世界でも自分の苦しみや死への願望は消えていないと考える。やがて二人は、この世界の歴史を知るため図書館へ到着する。


第四話「図書館」


 図書館に入った東は、膨大な書物と知識の存在に惹かれる。しかし、本の文字は彼にはまったく読めず、内容を理解するには星奈に訳してもらうしかない。話し言葉が自然に通じるにもかかわらず、書かれた言葉だけは暗号のように見えることから、何らかの翻訳の力が働いているのではないかと考える。


 星奈が選んだ歴史書から、この世界の過去が語られる。かつて大地は竜に支配され、魔術師たちは竜を退けるため、フィーンと呼ばれる結界領域を築いた。月の魔力を大地へ降ろすことで竜を滅ぼしたものの、その力は土地を砂漠化させた。後世の魔法使いたちは緑を取り戻す使命を背負い、人間、エルフ、ドワーフ、天空へ逃れた者たちの王国と争いが形成されていった。現在のシゾアレドは、シャルル王が治める結界都市である。


 東は世界の構造に興味を持つ一方、情報を得ることさえ星奈に依存している現状を認識する。自分も文字を学ぶべきかと考えながら、まずは生計を立てる方法を探すため、冒険者ギルドへ行きたいと申し出る。


第五話「冒険者ギルド」


 星奈に案内され、東は冒険者ギルドを訪れる。受付では名前と住所を書くよう求められるが、彼には住所がなく、文字も書けない。星奈が代筆し、名字を「東」、名前を「魔法」として登録したことで、彼はこの世界において正式に「東魔法」となる。魔法をまだ使えないにもかかわらず、先に魔法使いとしての名を得ることになった。


 ギルドの掲示板には、ドラゴン討伐や遺体回収など危険な依頼も並んでいる。しかし東は文字を読めず、仕事選びも星奈に任せなければならない。星奈は初心者でも参加しやすい依頼として、パトモスの森での薬草採集を選ぶ。


 東にとって、異世界での最初の仕事は華々しい戦闘ではなく、草を集める地味な作業となる。それでも無職だった自分が冒険者として登録され、報酬につながる活動を始められることに小さな希望を抱く。同時に、申請も依頼の選択もすべて星奈が行ったことから、自分は冒険者になったのではなく、星奈の庇護下に置かれただけではないかとも感じる。


第六話「魔法使い」


 ギルドで二人は、星奈の魔法学校時代の先輩タルマードを待つ。タルマードはセロズの聖徒でもある男性魔法使いで、星奈とは五年以上の付き合いがあった。星奈は東がこの世界で生きられるよう、タルマードにも協力してほしいと頼む。


 タルマードは東に魔法適性があるかを調べるため、炎の魔法語「タガラアハー」を唱えさせる。東の指先には小さな火が生まれ、強い力ではないものの、魔法を使う素質があると認められる。タルマードは、魔法を覚えれば魔物を倒したり、冒険者として生計を立てたりできるかもしれないと話し、無償で教えることを申し出る。


 その後、東は星奈に永遠に生きたいと思わないかと尋ね、イエスが神と人との仲介者であり、信じる者に永遠の命を与えると語る。星奈は、死後は眠ったままでもよく、永遠に生きることには疲れを感じると答える。東の言葉はまだ彼女の心を大きく変えない。


 夜、東は一人で過ごす寂しさから、星奈に一緒に眠ってほしいと頼む。星奈は彼が何もしないと信じ、同じ寝床で眠る。東は小さな炎で星奈の顔を照らし、性関係を伴わずとも、誰かと同じ夜を過ごす幸福が存在することを知る。


第七話「森での収穫〜魔法の演習」


 東と星奈はパトモスの森へ薬草を集めに行く。星奈は必要な薬草を大量に見つけるが、東の袋には雑草も混じり、何が正しい薬草かさえ判断できない。東は、星奈がいなければ何もできない自分を情けなく感じる。それでも星奈は彼を責めず、採集物を選別し、二人の仕事として依頼を進める。


 森から戻った東はタルマードの家へ行き、古い魔法の杖を譲り受ける。タルマードは炎に加え、土の魔法「メメンディスコー」や氷の魔法「サアグー」などを教える。東は指示を待たずに魔法を放ち、危険な行動をして叱られる。魔法学校に通わず杖を持つこと自体、本来は例外的な扱いだった。


 その後、東は一人で魔法の練習を続ける。氷や土の魔法は美しく見えるが、それをどう食物や金に変え、自分の命を支える技能にすればよいのかは分からない。夜になっても宿へ帰らず、月へ杖を向けながら、魔法使いとしての可能性と、宣教者として死ぬ未来を空想する。


第八話「公衆浴場」


 夜遅くまで戻らなかった東を星奈は心配していた。帰ってきた東に対し、星奈は一人で勝手に行動しないでほしいと注意する。東は自立できることを示したかったが、現実には文字も読めず、道にも制度にも不慣れであり、まだ星奈の助けを必要としている。


 東はこの世界に風呂があるかと尋ね、星奈に公衆浴場へ案内される。浴場で見知らぬ男性に話しかけられた東は、相手の信仰を尋ね、自分はヤハウェ、イェーシュア、聖霊を信じていると語る。イエスは人々の罪のために十字架で死に、復活して神の右にいると説明する。


 しかし男性は、東の信仰を否定しない代わりに、「あなたの中では正しいのだろう」と受け流す。東がどれほど確信していても、他人には一人の奇妙な男の意見にしか聞こえない。東は、人は言葉そのものよりも、語る人間への信頼によってその内容を受け入れるのではないかと考える。自分一人の伝道には限界があり、まず星奈を信仰へ導き、彼女の言葉によってこの世界へ伝える必要があると思うようになる。


第九話「回心」


 浴場を出ると星奈が東を待っていた。東は、自分がいなくても星奈は困らないが、自分は星奈なしでは生きられないと告白する。さらに、本当は死にたいこと、新しい肉体と頭脳を与えられて天国で永遠に働きたいこと、この世界で生き続けたいとは思えないことを話す。


 星奈は、自殺すれば自分が悲しむ、自分は東に生きてほしいと答える。その言葉を受けた東は、イエスについてこれまで以上に体系的に説明する。神と人との間には罪による断絶があり、一人の神であり一人の人であるイエスが仲介者となる。罪のないイエスは人々の罪を負って死に、陰府へ下り、三日目に復活した。神がイエスを復活させたことは、イエスと神の正しさを示している。復活を信じる者は、その正しさの証人として神に受け入れられる。


 星奈は、なぜイエスでなければならないのか、なぜ自分の主人にふさわしいのかと尋ねる。東は、イエスが預言を成就し、病人を癒やし、神の国を告げ、死んで復活した王の王だからだと答える。


 星奈は完全には理解できないものの、東の言うことを信じてみようと決める。セロズに対する感情は整理できていないが、イエスは実在し、今も生きているように思えると語り、「私の主人はイエスです」と告白する。東にとって、星奈の回心は、自分にもこの世界で成し遂げられる仕事があったことを示す最初の出来事となる。


 その後、二人は三位一体、両性説、原罪、乳児の救い、星奈の家族の行方などについて話し合う。東自身にも答えられないことは多い。星奈は東の弟子として従うだけでなく、自分でも考えながら信仰を深めることを選ぶ。


第十話「主の母」


 東はイエスの母マリアについて考える。マリアが原罪を免れていたのか、肉体のまま天へ上げられたのかは分からない。カトリックの教義や聖母出現をすべて否定するつもりもないが、マリアを使徒や殉教者より上位に置く考えには抵抗を覚える。彼は、聖書や教会の教理をそのまま信じるのではなく、自分の信仰に必要な部分だけを拾い上げようとする。


 星奈は、自分が信仰を得たことを友人のサーシャ、タロキラ、パルミエたちにも伝えたいと話す。東一人の確信だったものが、星奈自身の伝道への願いに変わり始める。洗礼を受けていないことを気にする星奈に、東は洗礼という儀式よりも、イエスへの信仰が人を救うのだと答える。


 同時に星奈は、次の冒険者の仕事として、魔力を帯びた猪サーガーグの討伐を提案する。無防備では危険だが、結界魔法を使えば安全に狩れるという。東は、自分の成長につながる可能性があるとして参加を決める。


 二人は再び同じ場所で眠ることにする。東は、星奈の回心を喜びながらも、自分が彼女を正しく導けるのか、彼女の信仰を自分の独善へ巻き込んでいないかという不安を抱える。


第十一話「大山星奈との魔法の特訓」


 サーガーグ討伐に備え、星奈は東に魔法の特訓を行う。魔法語には、威力を高める「ディ」や、性質を変える「ラー」などの語を組み合わせることができる。東は言葉を何度も重ねられるものの、炎、氷、土の攻撃魔法は実体を持たず、空回りしてしまう。魔法語を唱える能力はあっても、攻撃力には結びつかない。


 星奈は、東に何らかの機能不全があるのではないかと考え、結界魔法を試させる。東が杖を構え「フィーン・フィーネー」と唱えると、半透明の障壁が現れる。星奈が土塊や巨大な岩をぶつけても、結界は破壊されない。攻撃魔法は役に立たなくても、身を守る結界については異常なほど高い適性があることが判明する。


 東は敵を倒す魔法使いにはなれないが、少なくとも自分を守り、星奈の戦闘を妨げずに参加できる。万能な力ではなく、自分の限られた役割を得たことになる。


 訓練後、二人は噴水の前に座る。虹を眺めながら、東は星奈との静かな時間を幸福に感じる。一方で、魔法を使えても仕事や生活へ結びつけられなければ意味がないという不安は残り続ける。


第十二話「神学談義〜雨降るシゾアレド」


 東と星奈は、神とイエス、聖霊の関係について話し合う。東は、人間が子を持つように神も子である神の言葉を持ち、人間が息を持つように神も聖霊を持つと説明する。父も子も聖霊も神でありながら、神は一人である。その説明が完全でないことは東自身も認めており、星奈は盲目的に受け入れず、さらに考えたいと答える。


 東は「人は死ぬ」という真理に対し、「イエスは生きる」という事実は、死そのものを覆す「超越真理」であるという独自の思想を語る。イエスが生きていると信じ、聖霊を受ける者は、死という通常の法則を越えて復活する。星奈は難解さを感じながらも、イエスが今も生き、自分の主人であることは信じていると答える。


 食事の後、東は一人で外へ出て、雨の中で結界魔法を試す。結界は雨粒を防ぎ、傘の代わりになるが、魔法を解除した瞬間、溜まっていた水が一気に落ち、東は全身濡れてしまう。


 勝手に外出した東を捜していた星奈が現れ、もう無断で出歩かないでほしいと注意する。東は、自立したい思いと、実際には星奈に心配され、連れ戻される生活の間で揺れながら宿へ戻る。


第十三話「サーガーグの草原は向け〜馬車での伝道」


 サーガーグ討伐の日、東と星奈は複数の馬車を乗り継いで草原へ向かう。乗換えや移動経路をすべて把握しているのは星奈であり、東は彼女の指示に従う。自分の命だけでなく、星奈まで危険に巻き込むのではないかと不安を示す東に、星奈は結界魔法があれば身を守れると励ます。


 馬車の中で東は御者に信仰を尋ねる。御者はサカタノカスという神を信じていた。東はイエスの十字架と復活、神の家族になること、イエスを主と告白することによる救いを説く。しかし御者は、自分には罪がなく、イエスが自分と関係するとは思えないと答える。


 そこで星奈も、自分も別世界から来たこと、以前は東の話を信じなかったが、今はイエスが生きていると信じ、主人と認めていることを語る。東一人の説教ではなく、星奈自身の証言が初めて異世界の人へ向けられる。


 それでも御者は信仰を変えず、自分はサカタノカスを信じ続けると言う。伝道は成功しないが、東は星奈が信仰の共同者として語る姿を確認する。


第十四話「サーガーグ狩猟完了」


 馬車を降りた後、狩場までは歩けば一時間ほどかかる。星奈は転送魔法を使えば一瞬で移動できるが、安全を保証できないと話す。東は自分の責任で危険を引き受けるとして魔法を選び、星奈の手を握る。星奈が魔法書を読み上げると、二人はサーガーグの草原へ転送される。


 星奈は魔力を感知し、サーガーグの位置を探る。猪が近づくと、東は「フィーン・ディ・フィーネー」と唱え、広い結界を展開する。星奈はすでに別の魔法で獲物を弱らせており、結界を抜けて猪へ近づき、ナイフで首を刺して仕留める。


 東は戦闘の中心ではなく、自分の身を守る結界を張っただけだった。それでも、自分が暴走したり星奈の邪魔をしたりせず、一つの仕事に参加できたことには意味がある。東は、獣を殺すことへの後悔と、働く星奈への尊敬を同時に抱く。


 星奈はサーガーグの死体に回収用の印を付け、二人は転送魔法と馬車を使ってシゾアレドへ帰る。


第十五話「帰還と報告」


 二人は冒険者ギルドへ戻り、サーガーグ討伐の報告を行う。文字を書けない東は星奈の補助を受けながら、自分も口頭で仕事の内容を伝える。薬草採集に続いて二つ目の依頼を終えたことで、東は一人前とは言えなくても、星奈と協力すれば仕事の一部を担えることを知る。


 帰り道、東は星奈に改めてイエスの死と復活について話す。イエスは全ての人のために死に、復活した。東は星奈がこの信仰を自分以外の人にも伝えられるようになってほしいと考える。


 二人は、自分たちの教会を始めることを相談する。教会とは建物ではなく、信者の集まりである。祈る場所を作り、必要なら公衆浴場で洗礼を行う。冒険者として働きながら、周囲に信仰を伝え、いつか献金によって活動を続けられるかもしれない。


 星奈も、自分の信仰を誰かの心に残したいと語る。東一人の使命だった宣教は、二人の共同計画へ変化する。ただし東は、自分が星奈を回心させた時点で大部分の仕事を終えたと考え、その後の実務を彼女に委ねようとする傾向も見せる。


第十六話「ベッドの上で思い巡らし」


 東は宿のベッドで、教会の名前や、星奈との今後について考える。彼は星奈の部屋を訪ね、教会の名称を「東の教会」にしようと提案する。星奈は、それでは東だけの教会に聞こえるとして、「東と星奈の教会」、あるいは「イエスの教会」「キリストの教会」を提案する。最終的に「東と星奈のキリストの教会」という長い案が生まれる。


 東は星奈にだけ本名を明かすが、この世界では今後も東魔法と呼んでほしいと頼む。星奈も、東が始めた物語ではあるが、自分にも教会への責任があると引き受ける。


 星奈は、死に方を考えるよりも生き方を見つけることが大切だと東へ語る。今の命は今しかなく、現在を生きることが未来や天国へつながる。東は星奈と一緒に生きたいと思う一方、自分には女性を養うことも、子供を与えることもできないため、結婚する資格がないと考える。


 星奈は男性にも女性にも恋愛感情を抱いたことがなく、一人で生きるつもりだったと話す。それでも東に出会い、信仰へ導かれ、彼と一緒にいてもよいと思うようになった。二人は恋愛感情ではない「好き」を認め合う。


 東は星奈を抱きしめ、「あなたに会えて本当に良かった」と告げる。そのまま関係を進めることはせず、自分の部屋へ戻る。二人の関係は恋愛や結婚ではなく、生活と信仰を共有する伴侶として定まりかける一方、東は自分の行動が星奈を困らせたのではないかと不安を抱く。


第十七話「宿屋での伝道」


 夜中に目を覚ました東は、星奈に告げず宿の部屋を抜け出す。彼は、自分がこの世界で救えたのは日本人である星奈だけであり、現地出身者には言葉が届いていないことを気にしていた。


 宿の夜間受付をしているマロウに話しかけ、イエス・キリストの死と復活について語る。マロウは、神を信じる必要を感じず、人は精一杯生き、死後は消えてもよいと考えている。東は、最も大切なことはイエスが人々の罪のために死に、葬られ、三日目に復活したことだと伝える。


 マロウはすぐには信じないが、長くこの世界で暮らしている星奈まで同じ信仰を持つようになったと知り、少し考えてみてもよいという態度を見せる。東は、次には星奈を連れてくると約束する。


 宿へ戻ると、星奈が東を待っていた。彼女は無断で出歩いたことを責める。さらに、前夜に東が自分を抱きしめた後、何も話さず部屋へ戻ったことにも、整理できない感情を抱いていた。東は散歩だったと言い訳しながら、星奈との関係を壊したくないと考える。


第十八話「情報共有」


 東は星奈に、前夜の行動について謝罪する。自分は愛されたいというより、すべての人を愛し、救いたい気持ちが先に出たのだと説明する。星奈は、一緒に寝ると約束したにもかかわらず、東が勝手に部屋へ戻ったことを無責任だと感じていたと明かす。二人は完全に理解し合ったわけではないが、食事をしながら関係を修復する。


 そこで東は、魂と仕事の価値について自分が作った独自の概念を語る。人間の魂から、その人の仕事や行為の価値である「オーブ」が生じる。人間という生命体を「グローブ」、人々の集団や時代の雰囲気を「スフィア」「アジャー」と呼び、仕事の価値が受け手や時代によって変化する仕組みを「スキーマ」「スキーム」と説明する。


 中でも、イエスの十字架の業から生じた「クロスオーブ」は、永遠かつ無限の命に相当する唯一の価値を持つ。地上で評価されなかった仕事や言葉も、神の前では失われず、クロスオーブを通して報われる。これは、誰にも評価されなかった自分の小説や、働けない自分の人生にも価値があるはずだと信じるための、東独自の創作的神学でもある。


 その後、東と星奈はマロウの家を訪れる。マロウは二人を部屋へ招き入れ、信仰についての話を聞くことを受け入れる。


第十九話「信仰への導き」


 マロウの家で、東と星奈は二人一組で本格的な伝道を行う。東は、イエスが十字架で死に、復活し、神と人との仲介者になったことを語る。星奈も、自分が以前はセロズに親しみを持っていたが、今はイエスを自分の主人として信じていると証言する。


 マロウは、死者の復活、天国と地獄、人間の罪を疑う。神がいるなら、ただ神を認めて生きていればよいのではないかと尋ねる。東と星奈は、神はイエスを通して人間と関係を持ち、イエスの死と復活を正しいと認める者を受け入れるのだと説明する。


 マロウは完全には納得していないが、二人の神とイエスを信じてもよいかもしれない、復活も信じてみようと答える。東は理解が完成するまで待たず、信じ始めたその意志を受け入れ、洗礼を提案する。


 三人は公衆浴場へ向かう。星奈は入口で待ち、東とマロウは男湯へ入る。東は見よう見まねでマロウの頭に手を置き、「父、子、聖霊の名によって洗礼を授けます」と唱え、全身を水へ沈める。


 マロウは水から上がり、まだ完全ではないとしながらも、イエスの復活を信じ、イエスは自分の王だと告白する。こうして東と星奈の教会に、この世界出身者として最初の信者が加わる。


 東は次にタルマードにも伝えたいと考えるが、星奈はまずマロウを迎えられたことを喜ぼうと提案する。マロウも、二人から聞いたことを覚え、教会ができた際には集まりへ参加すると約束する。


第二十話「新たなる日々の訪れ」


 マロウへの洗礼を終えた後、東と星奈は再び街を歩き、神の言葉と聖霊について話し合う。東は、父である神の言葉が神の子であり、神の息が聖霊であると説明する。神の言葉は天地を創造し、肉体を持つイエスとなって人間の手を取り、聖霊が人間を新しく生かす。


 星奈は東の説明を聞くだけではなく、自分の言葉で神を考える。見えない神は、言葉によって自分の心を表現する。神の言葉が肉体を持つことによって、形のない神を人間が知り、評価し、交わることが可能になるのではないか。星奈はもはや東の教えを復唱するだけの信者ではなく、自分自身の神学を作り始めている。


 星奈は、イエスが自分の罪のためにも苦しみ、過去と未来のすべての信者の救いとなったのだと受け止める。そして、以前は永遠に生きたいとは思わなかったが、イエスのためなら生きてもよいと語る。東も同じ気持ちだと答える。


 東の死への願望や、働けないことへの絶望、神への怒りが消えたわけではない。彼はなお、今の肉体と頭脳から解放され、早く天国へ行きたいと考える。それでも星奈やマロウと共に信仰を育て、教会を作るためなら、現在の命を続けてもよいという理由が生まれている。


 二人にはまだ教会堂も聖書も制度もない。東は文字を読めず、一人では冒険者の手続きもできない。攻撃魔法も使いこなせず、結界を張ることしかできない。しかし、敵を倒せなくても誰かの働きを守ることはできる。自分一人では生活を作れなくても、星奈と組めば仕事を終えられる。東一人の言葉では届かなくても、星奈が自分の言葉で証言すれば、マロウの信仰へつながる。


 東が獲得したものは、異世界を支配する万能な力ではない。自分の欠けを残したまま、他者と一つの仕事を成立させる方法である。東と星奈は、これからもよろしくお願いしますと言葉を交わし、並んで街を歩き出す。物語は、異世界を救う英雄の誕生ではなく、生きる能力がないと思っていた男が、誰かと共に生き、守り、言葉を渡し続ける役割を見つけたところで閉じられる。

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